おい、新しい家族ができたぞ
「はぁぁぁぁぁあああ!」
気合いのこもった大声をあげ、アルセウス救済党に突撃していくエム。
ちなみに現在、彼女の攻撃力は僕の《チートコード操作》によって10倍に引き上げられている。エムひとりでも、かなり良い勝負をするはずだと思われた。
「ふん。愚かな失敗作め。彼我の実力差もわからんか」
余裕綽々とした態度で防御の姿勢を取るアルセウス救済党。
「おいホムンクルスども。おまえらも一応、防御の構えを取っておけ。その必要もなかろうがな」
「了解です。同じく必要ないと思われますが、主様に従います」
そうして緊張感もなく構えた敵の群を――
ドゴォォォォォォォォオン!!
エムの双剣が、すさまじい勢いで切り裂いた。
「ぬぎぷりりゃああああああ!!」
情けない悲鳴をあげて、アルセウス救済党の構成員が天高く飛んでいく。
ズコッ。
「ぬぺらっ」
天井に勢いを阻まれて、地面に勢いよく落下してきた。
「か……かかかっ……」
頭から地面にぶつかったようだな。上半身がまるまる地面に埋め込まれ、両足だけをピクピクさせている。
「な……なな……!」
「なんだいまのは!!」
構成員たちがぎょっと両目を剥く。
「理解……不能……」
実験体Nと呼ばれたホムンクルスたちでさえ、この有様には頭が追いつかないようだ。
「おい実験体M! 貴様、いったいなにをしやがった!!」
「は、はい? あの、普通に剣で斬っただけですけど……」
「「んなわけあるかっ!!」」
敵の総員から突っ込みが入った。
エムも大概、世間を知らないからな。自分が強くなったことにまったく気づいていないようだ。
「まったく、誰に似たんだか……」
僕は肩を竦めて苦笑する。
ナチュラルに敵を煽ってるんだもんな。怖いったらない。
「…………はぁ」
そんな僕を見て、なぜかダドリーがため息まじりに頭を抑えた。
「ん? どうした?」
「いや。なんでもねえよ。昔の嫌な記憶を思い出してな。かつての決闘が記憶に蘇ったよ」
「決闘……?」
いったいなんの話をしてるんだか。
というやり取りをしているうち、構成員のひとりが甲高く叫んだ。
「くっ……ありえぬ! 我らが失敗作のMごときに敗北などと!」
「ありえない。ありえない。あなた、私たちの劣化版」
「…………っ」
構成員やホムンクルスたちの罵声に、エムが切なそうに両眉を八の字にする。
「……そうですね。失敗作だからこそ、絶対に手は抜きません。全力で戦います……!」
「なっ、ちょ、待っ――!!」
構成員たちは慌ててエムを止めようとするが、エムは聞く耳を持たず。
「――行きます。アリオス様流……真・神速ノ一閃」
「ぎ、ぎやぁぁぁぁぁぁあああ!!」
なんと。
長く特訓した甲斐あってか、僕の教えた淵源流が見事に敵の群れを捉えた。
★
「…………?」
数秒後。
すべての敵が気を失い、地面に這いつくばっていても、エムは奇妙な表情で首を傾げるばかりだった。
「あ、あの。アリオス様」
そして助けを求めるように僕を見つめてくる。
「な、なんか……知らないうちに勝ってたみたいなんですけど……どうしてですか……?」
「はは……知らないうちに勝ってた、か……」
さっきも感じたが、今回の敵が弱いわけではない。
アルセウス救済党は言わずもがな、ホムンクルスたちもAランク冒険者と同程度の実力があった。
そんな連中をして《知らないうちに勝ってた》とは……聞かれたら悲しまれるだろうな。
「うーん、そうだな……」
ネタをバラせば、攻撃力を書き換えたのが勝因なんだけどな。
けど、彼女は《失敗作》として傷つけられたばかり。
そんなリアルな勝因を言う必要はないだろう。
僕はエムの近くに歩み寄ると、彼女の頭を撫でてみせた。
「僕は……君を誇りに思うよ、エム」
「ほ、誇りに……?」
ほうっと顔を赤くするエム。
「うん。君は強くなった。自分の出自について悩みながらも、それでも前を見つめ続けた」
「…………」
「けど、だからってその力には溺れないでほしい。強くなっても、それでも謙虚に前へ……尊敬する師匠からの受け売りなんだけど、君にもその道を進んでほしい」
「謙虚に……」
「うん。君は失敗作なんかじゃない。だからきっと……できると思うよ」
「ア、アリオス様……」
「うん。それについては同意ね」
レイもつかつかと歩み寄ってきた。そして慈しみ深い瞳でエムの頬を撫でてみせる。
「アルセウス救済党がなんと言おうと、あなたはもうラスタール村の住人。失敗作なんて、ありえないわ」
「レイさんも……。ありがとうございます」
「おうよ。エムちゃんは立派な人間だぜ! 小難しい理屈はいらねえ、俺がそうだと言ったらそうなんだよ!」
「変なお兄さんまで……ありがとう」
「……その呼び方はいつまで続くのか、それがわからない」
やはりひとりだけ格好がつかないダドリーに、緊張の糸が一気に解れた。
僕たちはひとしきり笑い合い、わずかながらも穏やかな時間を過ごす。
「ありがとうございます、アリオス様」
エムが控えめに笑いながら言った。
「私、アリオス様に会えてよかった……。このままアルド家の奴隷だったらと思うと……ぞっとします」
「はは……そうか」
口では笑ってみせたが、実際のところは笑い事ではない。
彼女の人生は悲惨そのものだ。
アルセウス救済党によって訳もわからず生み出され。
その後はアルド家に奴隷として雇われて。
僕など想像もできないくらい、惨い人生を送ってきたんだよな。
そんな彼女の人生をすこしでも癒せてあげたら、それ以上のことはあるまい。
「本当は、羨ましかったんです。アリオス様と変なお兄さんが」
「え……? 僕とダドリーが?」
「だから変なお兄さんはやめlっphv:いbhw:b」
ダドリーが空気を読まず突っ込んできたので、僕は神速で奴の口を塞いでおく。
「はい。だって、本当の兄弟みたいで。血は繋がってないかもしれないですけど、家族みたいだと思ったんです。……あと、アリオス様とレイ様も」
「ぼ、僕とレイが……!?」
「や、やだ……。エムったら急になにを……!」
顔を真っ赤にするレイだが、エムはその心中を知ってか知らずか、急に大胆な発言をした。
「だから、私もアリオス様の《妹》として、皆さんの家族になりたいなって……そう思ったんです……ダメですか?」
「い、妹……」
マ、マジか。
さすがに予想外だったぞ。
……でも、そうか。
そうだよな。
彼女はずっとひとりだったんだ。
誰にも認められず、ずっとひとりで、迫害され続ける日々を過ごしてきたんだ。
そんな彼女には、たしかに僕たちの関係は輝かしく見えたかもしれない。
……まあ、僕だって父から追放された身なんだけどな。家族の温もりなんて、あってなかったようなもんだ。
でも、そんな僕でも、彼女の傷をすこしでも癒すことができるのなら。
「……いいよ」
にこりと微笑みながら、僕は妹の頭を撫でてみせる。
「今日から君は僕の妹だ、エム」
「あ……」
その日浮かべた彼女の笑顔は、いままでのどんなそれより花開いていた。
「や、やった……! ありがとうございます、お兄ちゃん……!」
そうして思いきり胸にダイブしてくるエムだった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
真っ赤っぴな原稿もなんとか片付きました(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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