おい、空気が台無しだぞ
「な……なな……!!」
周囲の光景を見渡しながら、ダドリーが大仰に喚き散らす。
「な、なんだこりゃぁぁぁあ!!」
レイファーの私室に出現した、謎の黒ずんだ空間。
そこに足を踏み入れた僕たちは、思いも寄らない場所に到着した。
なんらかの施設内なのか、全体的には薄暗い。
……のだが、色彩さまざまな光の軌跡があちこちに漂っており、どことなく幻想的な雰囲気が漂っている。目を凝らすと通路が幾重にも分かれているので、探索にも苦労しそうな構造だ。
同志Aによれば、ここは《異次元》とでもいうべき場所らしいが……まさにその通りだな。こんな施設、アルセウス王国内にはおそらく存在しない。
そして――
「こ、ここは……」
エムが不安そうに頭を抱える。
「思い出した。ここは……私が……造られた場所」
「エム……」
そう。
通路のそこかしこに、大人サイズのポッドが設置されているのだが――そのなかに、人体が浮いているのだ。緑色の液体に包まれ、瞳を閉じて静かに眠っている。
あれが俗に言う人造人間……。
なんらかの目的を遂行するために、アルセウス救済党が作り出した存在ということか。
「う、うぅぅぅううう……」
「エム。大丈夫か」
頭を抱えてうずくまったエムを、僕は優しく抱える。
「アリオス様……ありがとうございます」
僕のなかで、エムは細く震えていた。
「あまり無理しないでくれ。キツくなったらいつでも言ってほしい」
「はい。大丈夫です。大丈夫ですけど……嫌な言葉を、思い出してしまって」
「嫌な言葉……?」
「はい。全人類奴隷化計画……かつて党首マヌーザがそう言っていたのを、思い出したんです」
「ぜ、全人類奴隷化計画……!?」
またとんでもない言葉が出てきたな。
レイファーもマヌーザも、そんな奇想天外な野望を抱えていたのかよ。
「兄様……どうして……」
レイも切なげな表情でぽつりと呟く。
まったく意味不明だ。
王子もアルセウス救済党も、なに考えてんだよ……!
と。
「…………っ!」
「……きたかよ!」
僕とダドリーは同時に顔をあげた。
「な!? おまえたちは!」
「アリオス一行か……まさかここまで侵入してくるとはな!!」
敵意剥きだしで、数人のアルセウス救済党が近寄ってきた。侵入がすぐバレたあたり、不審者を感知する仕組みがあるのかもしれないな。最高の魔導具師たるレミラもびっくりだろう。
そして今回は、アルセウス救済党だけが敵ではないようだ。
エムと同様、まだ年端もいかない女の子までもが僕たちに立ちふさがっている。しかも目に生気がまったくない。
「人造人間……!」
本能的にそう感じ取ったのか、エムがぽつりと呟いた。
「気をつけて……あの女の子たち、かなり強いよ……!!」
そして光と闇の双剣を出現させ、戦闘の構えを取った。
――本当に、強い子だな。
暗い自分の人生をものともせず、敵に立ち向かっていこうとするなんて。
僕やダドリー、レイも同じく戦闘の構えを取ると、アルセウス救済党がつまらなそうに吐き捨てた。
「ふん。実験体Mか……。まさかアリオスらとともに動いているとは」
そして剣先をエムに突きつけるや、口の端を釣り上げながら言った。
「教えてやろう、M。力でも知性面でも……貴様は失敗作だった」
「え……」
「我が計画に、くだらぬ感情を持つ人造人間など不要。だからアルド家にくれてやったのだが……やはりしょせんは失敗作だな。我らの崇高なる目的を邪魔するとは」
「…………」
そして生気のない人造人間の肩を掴むや、高らかに笑った。
「その点、こいつら人造人間Nは優秀だ! 知性でも戦闘面でも優秀、我らの言うことに従順に動く! これぞ理想の姿である!!」
「あ……ぁぁあ……!」
エムがまたも頭を抱え、うずくまる。
「失敗作。私は……生まれる必要のなかった失敗作……?」
「そうだ! 失敗作は失敗作らしく、無惨に苦しんで死ぬが――」
「おまえ……!」
僕の怒りはピークに達した。
アルセウス救済党の言葉尻を待たず、剣先を奴に向ける。
「失敗作失敗作って……。そうやって生みの親に捨てられた者の気持ちが――おまえにはわかるのか……!?」
「…………あ?」
「エムは失敗作なんかじゃない。僕たちと同様、生きた人間だ。僕たちの家族だ」
「ア、アリオス様……」
瞳に涙を溜めたエムが、再び僕に寄り添ってきた。
相当に応えたんだろうな。
ぐずん、と僕のなかで泣いている。
「アリオスの言う通りだぜ、ヘッポコ変装野郎!」
今度はダドリーが言い返した。
「エムちゃんは失敗作じゃねえ! ……こうして、立派に生きてるんだからなぁぁぁぁぁぁああっ!」
「変なお兄さんも……ありがとう」
「だらぁぁあああ! 変なお兄さんはやめろぉ!」
なんだろう。
ダドリーが絡むと場の空気がすべて台無しになるな。
……でも、今回はそれに救われた。
僕たちの励ましによって、エムの表情がだいぶ軽くなっているからな。
「ふん。くだらぬ」
アルセウス救済党の構成員たちも一斉に構え出す。
「そこまで言うなら見せてもらおうか。貴様らの力をな……! 人造人間N、戦闘準備!!」
「「了解です」」
無機質な声とともに、Nと呼ばれた人造人間が両手を前方に突き出す。たったそれだけで、エムと同じような双剣が彼女らの手に握られた。
ただ一点違うのは、Nらの剣は光と闇の番ではなく――闇と闇の剣であるということか。
……たしかに強そうだ。
少なく見積もっても、Aランク冒険者以上の力量はある。
「…………っ」
その圧に押されてか、エムは一瞬だけたじろいだようだが。
「――負けない。絶対、アリオス様と一緒に帰るんだから!!」
「検知検知。敵性勢力を確認。これより殲滅を開始する」
「人造人間Mも検知。劣等個体のため力をセーブして戦います」
かくして、異次元に突入してから一発目の戦いが始まった。
のだが。
「これ……使ってみるか……?」
視界に映るチートコード一覧を眺めながら、僕はひとりそう呟いていた。
―――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)(中)
・火属性魔法の全使用
・水属性魔法の全使用
・無属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
★対象の攻撃力書き換え(小)(中)
・吸収
・無敵時間(極小)
・古代兵器召喚(一)
・対象の経験値蓄積の倍加
・○○○○の○
――――――
さっきのフォムスとの戦闘で、元々のチートコードがブラッシュアップされたらしいのだ。
――対象の攻撃力書き換え(中)
何度もお世話になっている便利な能力であるが……これがさらに強くなったみたいだな。
試しに使ってみると、次の文面が視界に浮かび上がった。
――――――
下記のコードからお選びください。
CB65(2倍)
CB25(4倍)
DA31(10倍)
CD87(1/2)
CD64(1/4)
DA32(1/10)
――――――
なんと。
今度は10倍が追加されてるぞ。
冷静に考えてぶっ壊れ性能すぎるんだが……使うとしたらいまだろうか。
「チートコード操作発動。対象の攻撃力書き換え(中)」
僕はそう唱えると、エムの攻撃力を10倍に書き換えた。
「エム。僕たちが全力でサポートするから、あいつらに突っ込んでみないか」
「え……? 私ひとりでですか?」
「ああ。このまま言われっぱなしは嫌だろう?」
かつての僕がそうだったように、実績をひとつひとつ作っていけば彼女にも自信が芽生えるはずだ。
出自は関係ないということを……彼女にもわかってほしいから。
「は、はい。アリオス様が仰るのなら……!」
そうして、エムは単身、敵の群れに突っ込んでいくのだった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
真っ赤っぴな原稿もなんとか片付きました(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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