おい、なにを言ってるんだ
僕たちは急ぎレイファーの私室に向かうことにした。
レイによれば、近くに王城内に繋がる階段があるとのこと。
それを駆け下りながら、僕は隣を走っている剣士に声をかける。
「ダドリー……おまえ、普通についてきてるけど……どういうつもりだ?」
「はぁ? そりゃ決まってんじゃんよ」
ダドリーは両の拳を打ち付け、憎らしげな表情を浮かべる。
「俺は許せねぇんだ……。俺やリオンさんをここまで失脚させた、あの野郎をよ」
「…………」
あの野郎……というのは、レイファー第一王子のことか。
たしかにそうだな。
第19師団長のフォムスによれば、ダドリーはレイファーに利用されたもんだ。
腹が立つのも道理か。
「……ついてくるのは構わないけど、余計なことはするなよ。この先になにが待ち受けているのか……僕だってわからないんだ」
「ああ。任せとけ!!」
一抹の不安は残るが……まあ、大丈夫か。
カヤ率いるAチームと比べて、こちらのチームはやや戦闘面で不安があったからな。ダドリーさえいれば、その懸念は払拭できる。
……ほんと、人生なにが起こるかわかったもんじゃないな。
ダドリーとともに道を歩むことになろうとは。さすがに予想外すぎるというか。
「……ところで、おい」
走りながら、ダドリーがひっそりと耳打ちしてくる。
「後ろで走ってるあの子……名前なんて言うんだ? 緑色の髪をした女の子」
緑色の髪をした女の子……エムのことか?
「……それを聞いてどうする」
「ど、どどどどうもしねえよ!」
あからさまに頬を赤らめるダドリー。
「ただ、名前知らないから気になるなーって……」
「なにこっち見て話してるんですかー、アリオス様」
なにかを察したのか、エムが僕の裾を掴んできた。
「いや。こいつがおまえの名前を知りたいって」
「私の……名前……?」
エムがこくりと首を傾げる。
「えっと、私、エムっていいます。よろしくお願いします、変なお兄さん」
「へ、変なお兄さん……!?」
ぎょっと目を見開くダドリーに、僕は思わず吹き出した。
まあ、そうかもな。
エムが初めてダドリーに会ったのは、以前、アルド家を制圧しにいったとき。
あのときのダドリーは空気読まずに突っ込んでくるうえ、訳わからんことを何度も叫んでたもんである。
つまり、エムにとってはあれが第一印象で――変な奴だと思われるのも道理なわけだ。
「よろしくな、変なお兄さん」
「や、やめろっ!!」
ぽとんとダドリーの肩を叩く僕に、ダドリーは涙目で反論するのだった。
★
数分後。
レイファーの私室に繋がる扉。
そこの前で、僕たちは立っていた。
「レイ。ここか」
「うん。間違いないわ」
こくりと頷く第二王女。
ここに着くまで多くの召使いとすれ違ったが、彼女がいたおかげで事なきを得た。彼女をBチームにして正解だったな。
……あとはユーフェス国王から貰った鍵を通せば、問題なく入れるはずだ。
同志Aによれば、現在レイファーはここにはいないという。たしかに内部から人の気配は感じないが、用心するに越したことはあるまい。
ごくりと息を呑み、鍵穴に鍵を差し込む。そして最大限の警戒を張りつつ、そっと扉を開けた。
「……なんだよ、普通の部屋じゃんか」
ダドリーが第一声をあげた。
「ああ……そうだな……」
もちろん王族の部屋だし、装飾類の豪華さは一般人のそれとは比べものにならない。部屋中に敷き詰められた赤の絨毯に、優しい明かりを放つシャンデリア。目を惹かれる調度品の数々。そのすべてが豪勢の一言に尽きる。
だが――なんとなく僕は感じ取っていた。
この部屋にどことなく漂っている、黒ずんだ雰囲気を。
「アリオス様……なんか嫌な予感がします……」
エムが不安そうに僕の裾を握り締めた。
彼女も本能的に感じ取っているのかもしれないな。
この部屋に――なにがあるのかを。
僕は瞳を閉じ、意識を研ぎ澄ませる。周囲の空気を感じ取り、わずかな違和感さえ見逃さない技が僕にはある。
――淵源流。一の型。
――無の呼吸。
「…………」
僕は数秒だけ黙り込み、そして。
「そこだ!!」
《チートコード操作》の《攻撃力アップ(小)》を発動し、壁面のとある一点を斬りつける。
と。
「あ……!」
エムが大きな声をあげた。
僕の斬った壁面から、黒ずんだ空間が顔を覗かせたからだ。しかもおぞましいことに、空間そのものがゆっくりと蠢いているように見える。
「レイ。これは……」
僕が第二王女に問うと、彼女は首を横に振った。
「知らない。こんなの、見たことないよ……!」
……だろうな。
部屋の隣には別の部屋があるはずだから、こんなものがあるのはてんでおかしい。
――まずおまえたちが目指すべきはレイファーの私室。だがそこにレイファーはいない。党首マヌーザとともに、異次元の空間に飛び込んでいった――
同志Aのヒントは本当だったみたいだな。ここに飛び込めば、異次元とやらに行けるわけか。
そしてそこに、レイファーや党首マヌーザがいる。
「おいアリオス、おまえ、いまなにをした……?」
「は……?」
なぜか放心するダドリーに、僕は真顔で答える。
「なにをって、変な気配を見つけて防御魔法ごと叩き斬っただけだが」
「変な気配ィ……? んなもんまったく感じなかったぞ!?」
「そうだな。防御魔法でうまく隠されていた」
「じゃあなんでおまえは気づけたんだよっ!」
真っ赤になって叫びじゃくるダドリーに、レイとエムが一言、
「それがアリオス(様)だから」
とハモらせた。
「なんだよ、説明になってねぇ!」
「そう? この上なくわかりやすい解説だと思うけど」
あっけらかんと言うレイ。
……いったいみんななんの話をしているんだか。
僕はこほんと咳払いをし、
「……みんな、覚悟はいいか」
と話題を切り替えた。
「この先、なにが起きるかわからない。それでも……ついてきてくれるか?」
「うん! もちろんでしょ!」
最初に元気よく宣言するのは僕の幼馴染み――レイミラ・リィ・アルセウス。
「私、アリオスがいればどこまでもついていくから……! だから一緒に頑張ろう!」
「わ、私も……っ! ちょっと怖いですけど、アリオス様についていきます!!」
エムも同じく、顔を赤くして宣言した。
そして。
「はん」
ダドリーは悪戯っぽい笑みを浮かべると、僕に向けて拳を突きつけた。
「俺だって、このままレイファーなんかに――」
「――変なお兄さんも、一緒に頑張りましょう!!」
「だから変なお兄さんはやめろッ!!」
エムに気勢を制され、ひとりだけ格好がつかないダドリーだった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
真っ赤っぴな原稿もなんとか片付きました(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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