おい、外れスキルだと思われていた《チートコード操作》が化け物すぎるんだが②
終わった。
第19師団長――フォムス・スダノールは、鳳凰に呑み込まれ絶命した。
白目を剥いたまま、もはや身じろぎもしない。一応チートコードで奴の体力を可視化してみるが、死んだことに間違いはなかった。
「勝った……みたいだな」
王国軍に属する師団長といえば、国内でもトップクラスに強いはず。
そいつに――僕たちは勝ったんだ。
「勇ましい戦いでした。アリオスさん。そして……ダドリーさん」
そう言いながら歩み寄るのは、エアリアル・リア・アルセウス。
「お二人は私の恩人です。ありがとうございます」
「いえいえ。王女殿下こそ、ご無事でなによりでした」
そう言って頭を下げる僕。
マクバ家の跡継ぎだった者として、王族に対する礼儀は身体に染み着いているようだった。
だが、対するダドリーはエアリアルになにも言わず。
「俺が……恩人……?」
と、ただ呟いているのだった。
「ええ。あなたは恩人です。ダドリー・クレイスさん」
そんなダドリーにも、エアリアル第一王女は優しく微笑みかける。
「あなたの評判は私も耳にしていますが……すくなくとも、さっきの戦いにおいては、あなたは《剣聖》でした。疑いようもなく、たしかに」
「け、剣聖……? 俺が……剣聖……?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
「い、いや。なんでもねぇ、いや、なんでもないです」
ダドリーは両目に滴を浮かび上がらせると、ごしごしと片腕で乱暴に拭った。
たぶん――いまのはダドリーがずっと追い求めてきた言葉で。
誰にも認められることのない人生を歩んできたからこそ、その言葉は強く刺さったのだろう。
「ふふ。意外にもピュアなところがあるのね」
そう言いながら歩み寄ってきたのは、第二王女レイミラ・リィ・アルセウス。
「……ほんと、一時はどうなるかと思ったわよ。まさか二人が協力して戦うなんてね」
「はっ、協力なんてしませんや。誰がアリオスなんかと」
「安心しろ。僕もすすんでおまえと関わろうとは思わない」
「な、なんだと?」
「なんだよ」
僕とダドリーはしばらく睨み合ったあと、「「ふん!」」と同じタイミングで顔を逸らした。
その様子に、レイは
「ふふっ」
と微笑ましそうに笑った。
「ま、ダドリーを見直したのは本当よ。アリオスとの決闘を経て、色々と思うところがあったんじゃない?」
レイのその言葉に。
「…………」
ダドリーはしばらく黙考を決め込むと、数歩だけ前に歩み出て言った。
「俺は剣聖だ。その考えはいまも変わってねぇ。でも――そんな剣聖より、はるか高みに立つ奴がいた」
言いながら、ダドリーは僕を横目で見やる。
「しかもそいつは俺の《兄》にあたる人物で……何度戦いを挑んでも、一向に勝てる気配がねぇ。外れスキルだと思っていたチートコード操作が、思った以上に化け物すぎるんだ」
そしてニヤリと笑いながら、ダドリーは僕に拳を突き出す。
「だが弟弟子として、このままじゃ納得いかねえ。いいつかぜってー、兄貴を超えてみせら。――だから油断すんじゃねえぞ?」
「ふっ」
僕も小さく笑うと、その拳に拳で返した。
「いいだろう。同じマクバ流を学んだ者として……ここは負けるわけにはいかないな」
ふわり、と。
僕とダドリーの間を、暖かな風が包み込んでいった気がした。
「かぞく……?」
そんな僕たちを、エムが親指をかんで見つめていた。
「うふふ……兄弟、か。ちょっとだけ羨ましいかも」
レイも切なそうに呟いている。
と。
「――フフ。素晴らしいものを見させてもらった」
次の瞬間、どこからともなく聞き覚えのない声が聞こえてきた。
この声。女性か。
なんだろう。異様に澄み切った声だ。
「え、どこ!?」
「気配を感じねぇぞ……?」
周囲をきょろきょろしているダドリーとレイに、僕は動じることなく告げる。
「二人とも落ち着け。これは思念体だ。探しても実体は見つからない」
「――ほう。鋭いな。実力は噂以上か」
そんな声と同時、やはり思念体が姿を現した。全身が透き通っているので、誰が見てもそうとわかる。
「え……!?」
その姿を見て、レイだけが素っ頓狂な声を発した。
あの格好は――アルセウス救済党の構成員か。
ただひとつ普通と違うのは、赤色のローブをまとっていること。しかも兜でしっかり顔面を覆っているので、まったく顔つきが読みとれない。
「同志A……あなたですか」
エアリアル第一王女が厳しい表情で思念体を見据える。
同志A。
アルセウス救済党の二番手にして、唯一身元の割れていない人物だ。党首のマヌーザや三番手のジャックと違い、その正体はギルドでもまったく掴めていない。
「…………」
僕は一瞬、先日の《離れ業》を行うべきか考えた。
思念体に対して《転移》能力を発動したとき、その実体がいる場所に移動することができる。
かつてジャックを倒したときに使った離れ業だ。
けど。
「ふう……」
僕は剣を鞘に収め、思念体に向けて問うた。
「同志A。おまえは……何者だ」
「む……?」
「おまえからは微塵も悪意を感じない。他のアルセウス救済党はみんな本気の悪意で僕を潰しにかかってきたのに……おまえだけは違う。無の境地――とでも言うべきか」
「…………」
「だから何者かを知りたいんだ。おまえは他の構成員とは明らかに一線を画している」
そもそもアルセウス救済党は僕を死ぬほど恨んでいるはずだ。
なのに、こいつはなにもしてこない。
フォムス戦で疲弊している現在こそが、最大のチャンスであるにも関わらず。
「どうして! どうしてあなたがここにいるの!?」
ふいにレイが叫び声をあげた。
「レ、レイ……? どうしたんだ?」
困惑する僕に、レイはかぶりを振って答える。
「覚えてる? 私がまだ王城で暮らしてた頃、アルセウス救済党に何度も暗殺されかけた話」
「あ、ああ……」
「そのときに助けてくれたのがあの人なの。顔も名前もわからない人だったけど……まさか二番手の同志Aだったなんて……」
「な、なに……?」
たしかにレイが生存していること自体は前から不思議に思っていたが。
それがまさか、同志Aによる人助けだったとは。
「ふふ……レイミラ。壮健そうでなによりだ」
なんだろう。
このときだけ、同志Aの言葉が重みを帯びた。
「アリオスなら知っているだろうが、思念体でいられる時間は長くない。だからいまのうち、おまえたちにヒントを授けようと思ってな」
「ヒントだって……?」
首を傾げる僕に、同志Aはこくりと頷く。
「まずおまえたちが目指すべきはレイファーの私室。だがそこにレイファーはいない。党首マヌーザとともに、異次元の空間に飛び込んでいった」
「異次元の、空間……」
「ああ。そこで己の悲願を成就させるつもりだ」
なんだ。
いったいどうして、同志Aはここまで重要な助言をくれるというのか。
悪意をまったく感じないし、僕たちを混乱させるための嘘ということでもなさそうだが……
「それから、この者は私が引き取っておこう」
僕が考え込んでいると、同志Aは右腕をさっと右方向に突きだした。
その腕にもたれかかっていた人物を見て――僕は思わず目を見開く。
「リ、リオン・マクバ……!?」
「リオンさんっ……!?」
ダドリーも奇声を発した。
たしかアルド家制圧の一件を経て、王都にて拘束されていたはずなのに。
現在は気を失っているのか、同志Aの腕にだらんともたれかかっている。
「まあ、別に悪いことをするつもりではない。それだけ伝えにきた次第だ。――それでは諸君、そしてレイミラ、健闘を祈る」
それだけ言い残して、同志Aの思念体は空中に溶けて消えた。
【これにて二章もいったん完結です!】
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