おい、剣聖の道を諦めるな!!
「ふふふ……ははは……」
ひとり残されたフォムス・スダノールが、妙に怪しげな笑いを浮かべる。自分の頬を垂れる血を一舐めするや、奇怪な瞳でダドリーを見据えた。
「素晴らしい。さすがは伝説に伝わりし剣聖候補たちだ。私など遠く及ばぬ、果てなき境地に立っているな」
「ば、ばっかおまえ! こいつと一緒にすんなよ!」
ダドリーは不満げに僕を指差す。
「それについては同感だね」
僕も負けじと肩を竦めて言った。
「僕もダドリーとだけは一緒にされたくないよ」
「お、おい、そういうこと言うなよ。傷つくだろ」
「……そこで傷つくのかよ」
相変わらず訳のわからん奴である。
「ふふ、ははは。素晴らしい! 素晴らしいぞおまえたち!」
フォムスは両腕を広げるや、なおも余裕綽々とした笑声を響かせた。
「これでようやくあの力を試せるというものだ! 理を超えた――神の力を!!」
神の力。まさか。
僕が目を見開いたときには、フォムスは片腕に影石――漆黒の宝石を掲げていた。
なるほど……そういうことか。
影石は使用者に尋常ならざる力を与える。奴の不自然な余裕っぷりはそれが原因か。
「――だが奇妙だな、フォムス。影石はアルセウス救済党が持っているという話だったが、なぜおまえが持ってる?」
「ふふ。おまえが知る必要はないッッッッッッ!!」
フォムスは狂った叫び声を響かせるや、影石に絶え間なく魔力を流し込んでいく。
ドクン――と。
影石から闇色の波動が次々と放たれていく。
影石から放出する漆黒のオーラが、丸ごとフォムスを包み込んでいく……
そして。
「ハァァァァァァ……」
数秒後には、最悪の化け物が誕生していた。
漆黒の霊気を身にまとい、瞳さえも紅く変貌したフォムス・スダノール。恐ろしいことに肌の色も変わっているのか、ところどころで金色の紋様が不気味に光っていた。
「…………」
なんだ。
戦闘力的には、さしたる変化は見られない。
いったいなにが変わった……?
「へっ、なんだよテメェ。変わったのは見た目だけじゃねえかよ」
ダドリーはなんの危機感も感じないのか、ヘラヘラと笑い続けたまま。白銀のオーラを迸らせながら、再び戦闘の構えを取っている。
「おい、気をつけろダドリー。あいつ……なにかが違うぞ」
「関係ねえ。あいつがどんなに強くなろうが、問答無用でぶっ飛ばしてやらぁ!!」
雄叫びとともに走り出すダドリー。
そのスピードはさすがだが、しかし――
「無駄だ」
「うげっ……!」
ダドリーは途中で見えない壁に遮られたかのように、大きく弾き飛んだ。
「痛ってて……。なんだぁいまのは」
「クク。泣いて驚くがいい。古代に伝わりし伝説のスキル――万物反射だ」
「ば、万物反射ぁ?」
「そうだ。おまえたちは私に……傷ひとつつけることはできない」
「はん! ばぁか! んなわけねーだろうがッ!!」
そしてダドリーは再び突進するが、さっきと同様、見えないなにかに弾き返されてしまう。
「うがあああああ!」
以後、様々な方法で攻撃を試みるも、ことごとく返り討ちに遭ってしまう始末だった。
「ぜぇ……ぜぇ……う、嘘だろ……!?」
右胸を抑えて呻くダドリーに、不適に笑うフォムス。
「フフ。しかしダドリーよ。おまえはたしかに強いが、自分の才能に溺れきっているな。攻撃の軌道は丸見えで、隙も見つけ放題だ」
「な、なんだと……?」
「――今度は私の番だ。せいぜい苦しむがいい……!!」
「な、う、うわああああああっ!!」
その宣言通り、それ以降、ダドリーは著しく劣勢に陥ってしまった
。
ダドリーの剣はことごとく弾かれ。避けられ。
その隙に、的確な一撃を見舞われてしまうのだった。
そしてこれこそが――僕が決闘時に見出したダドリーの弱点でもあった。
彼のステータスはたしかに強い。
だが剣を学び始めて間もないゆえに、太刀筋は未熟そのものなのだ。視線がそのまま攻撃の軌道になっているので、まるで防いでくれと言っているものだ。
ましてや現在のフォムスは《万物反射》という異常な能力を手に入れた状態。
こんなの――勝てるわけがないのだ。
「はぁ……はぁ……くっそ……!」
ダドリーは早くも満身創痍になってしまった。
服はボロボロ、全身傷だらけだ。疲労もピークに達しているのか、剣を持つ腕がぶるぶると震えている。
「ありえねぇ……。こ、この俺が、こんな……!」
「ふふ。ダドリーよ。悲しいなぁ。おまえは結局、何者にもなれない半端者でしかないようだ」
「な、んだって……!?」
「生みの親に捨てられ。リオン殿にも捨てられ。剣聖にもなれず、さぞ楽しい生活を送っているだろうなぁ?」
「ぐ、ううううううううっ!」
泣き叫ぶダドリー。
もう反撃する体力も残っていない様子だ。
「ち、違う……! 俺は剣聖になるんだっ……! 憧れの剣聖になって……それで……っ!!」
「ふふ、惨めなものだ」
低い笑みを浮かべるフォムス。
「だが、そんな苦しい生活にも終止符を打ってやろう。我が剣で、絶望に喘ぎながら逝くがいい」
つかつかとダドリーに歩み寄り、剣を掲げるフォムス。
対するダドリーは懸命に動きだそうとしているようだが――もはや一歩たりとも動けない様子。
「死ね。偽物の剣聖よ――!!」
そうして振り下ろされたフォムスの剣を。
ガキン! と。
――二人の間に割り入った僕が、静かに受け止めた。
「な、なんだと……? アリオス・マクバ、なにをしている」
剣を押し込みながら、フォムスが苦笑いを浮かべる。
「そいつはおまえにとって憎き男だろう。なぜ助ける必要がある」
「……さあな。自分でもわからない」
言いながら、僕は背後でへたり込むダドリーを横目に見やる。
「ただ、家族に捨てられた悲しみは……僕にもよくわかってしまったから」
「アリオス、おめぇ……」
そう呟くダドリーの瞳は、心なしか涙に濡れていた。
「ダドリー……よく頑張った。ここからは任せてほしい」
言いながら僕は反撃に転じる。
押し込んでくるフォムスの剣を弾き返すべく、全身に力を込める。
と。
スキル《万物反射》が発動したのか、フォムスの全身が黒く輝く。
「はっはっは! 愚か者めが!! 私に攻撃は通じない! 何度言えばわかる!!」
「……悪いな。似たようなスキルなら、僕も持ってる」
スキル発動。チートコード操作。
――無敵時間(極小)。
次の瞬間、《万物反射》によって襲いかかってきた衝撃波を、僕も同じく弾き返した。
「ぬ、ぬあああああああっ!!」
さすがにこれを弾き返すことはできなようだ。
衝撃波を丸ごと喰らったフォムスが、大きく吹き飛んでいった。
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