おい、妙に自信たっぷりだな
「はぁぁぁぁあ……!」
ダドリー・クレイスは瞳を閉じると、静かに自身の力を解放した。
強力スキル《白銀の剣聖》。
それの効能か、彼の周囲を白銀のオーラが取り囲んだ。以前バトルアリーナで対決したときとは、密度も大きさも段違いだ。
真面目に修行してきたのは本当なんだろうな。
――いったいどうして、ここまで僕への執念を燃やせるのか……
それだけは、いまだにわからないけれど。
「おい、後悔すんなよカス野郎」
ダドリーは変わらずの威勢のよさでフォムスを睨みつける。
「ぶっ殺してやる。後で謝っても許さねえからな」
「はっ。口だけは達者だな、操り人形の分際で」
「てめぇ……っ!!」
ダドリーは歯ぎしりをかますと、勢いよく地面を蹴り上げた。
さすがスピードだな。
瞬く間にフォムスとの距離を詰め、ダドリーは剣を振り下ろす。
ガキン! と。
両者の剣がぶつかり合った。
「ほう……。素晴らしい速度だな。バトルアリーナでの決闘は私も見ていたが、あのとき以上だ」
「――勘違いすんなよ。俺の実力は、こんなもんじゃねえ」
「む?」
「だぁぁぁぁぁああああっ!」
大きな雄叫びをあげるダドリー。
それに呼応してか、彼を取り巻く白銀のオーラがさらに巨大化した。心なしか、王城が小さく揺れた気もする。
「この力は……! ダドリー・クレイス、貴様っ!」
「見損なうなよ! 俺こそが最強の剣聖候補にして――マクバ流の跡継ぎだッ!!」
そして次の瞬間ダドリーが繰り出した剣技には、僕にも見覚えがあった。
マクバ流。紅葉一閃。
「かはっ……!」
赤みを帯びた彼の剣が、フォムスの身体を的確に捉える。
直撃だ。
「これは……意外だな……」
僕は思わず嘆息する。
マクバ家が失墜したいまでも、いまだにその剣技を磨いているのか。しかもあの技は決闘中に使ってこなかったから、おそらくマクバ家の失墜後に身につけたのだろう。
「アリオス! こいつは俺に任せてくれ!」
「ああ。こっちはこっちで戦わせてもらう」
そう呟くと、僕は目前の兵士たちに改めて目を向ける。
第19師団の精鋭兵士。
それが全部で5人か。
全員が隙のない構えで僕を見据えている。地下通路の兵士たちとは格が明らかに違う。
「ふん。いい気になるなよ、小僧が」
精鋭のひとりが僕を見てニヤリと笑う。
「貴様の逸話は色々と聞き及んでいるが……しょせんは外れスキルの所持者。我らの敵ではない!!」
「…………」
「刮目せよッ! これが我らが精鋭たる理由、攻撃力アップ(特大)ッ!!」
そう精鋭が叫んだ瞬間、奴らの雰囲気が大きく変化した。
ドォン! と。
見えない圧力が発生し、なんとも形容しがたい風格を放っている。
「攻撃力アップ(特大)……か」
通常の攻撃力アップ(小)は、攻撃力が1.2倍になるだけの外れスキルだ。
だがそれが特大ともなると、途端に話が変わってくる。
攻撃力の伸び幅はなんと20倍、外れスキルから一気に強スキルに変貌する。
あいつらが妙に自信たっぷりなのも、多分にそういった要因があるからだろう。
――そういえば。
僕もファルアスとの修行で、新しいチートコードを手に入れたな。
なんだっけ。
―――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)(中)
・火属性魔法の全使用
・水属性魔法の全使用
・無属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
・対象の攻撃力書き換え(小)
・吸収
・無敵時間(極小)
・古代兵器召喚(一)
・対象の経験値蓄積の倍加
・○○○○の○
――――――
そうだ。
攻撃力アップ(中)。
これ、結局使わずじまいだったんだよな。ぶっちゃけて言えば、(小)だけで充分だったわけだし。
でも、今回は攻撃力アップ(特大)の使い手だ。
油断することはできまい。
――チートコード発動。
――攻撃力アップ(中)。
心中でそう唱えると、僕の身体にも変化が生じた。かつてない力の高まりを感じる。
「む……」
その違和感を感じ取ったのだろう、精鋭がすっと目を細める。
「貴様。いま、なにをした」
「別に。攻撃力アップ(中)を使っただけだ」
「攻撃力アップ(中)ぅぅぅう?」
ハハハハハハ、と急に笑い出す精鋭たち。
「はっはっはっは! 言うに事欠いて(中)とはな! いままでの敵はそれで勝てたかもしれんが――我らはそうはいかぬぞ!!」
「そ、そうなのか……」
妙に自信たっぷりだな。
まあ、たしかにいままでの敵よりは強そうではあるが……
「いくぞ! とぅりゃぁぁぁぁあ!」
精鋭のうち二人が、ほぼ同じタイミングで駆けだしてきた。他の三名は機会を窺っているらしく、それぞれバラバラに散っている。
「死ぬがいい! アリオス・マクバ!」
そうして振り下ろされてきた剣を、僕は受け止め――
バキッ。
――られなかった。
「へ?」
「はっ?」
なぜならば、剣と剣とがぶつかった瞬間、精鋭の剣が綺麗すっぽり折れてしまったからだ。
「お、おい、どういうことだ?」
「力で押し負けた……?」
「そ、そんなわけないだろ? 俺たちは攻撃力アップ(特大)を……」
隙あり!
淵源流、三の型。
――氷刃剣。
瞬間、僕の半径数メートルに氷が発生し。
僕を囲っていた5人の精鋭が、足から腰まで氷に飲み込まれた。本来これは範囲の狭い技だが、宝剣レバーティの効能によって広くなっているみたいだな。
「かかっ……!」
「動けないっ……!」
「おおおおおおっ!!」
恐慌をきたす精鋭たちに向けて、僕は容赦のない一閃を浴びせる。
「「「ぎゃああああああ!」」」
たったその一撃で、精鋭たちは星になって消えていった。
残るは、ダドリーとフォムスの戦いのみとなった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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