おい、壮大すぎるぞ
「――以上が、私がオルガント陛下から聞いた作戦の概要です」
第二王女レイミラが、一同を見渡して言った。
ラスタール村。
冒険者ギルドの一室。
昨日と同様、ここには多くの冒険者が集まっていた。
例によって、僕とレイ、カヤにユウヤ、エムにアルトロ……まあ、言ってしまえばいつものメンバーだな。
そのメンバーは全員、あんぐりと口を開いてレイの話に聞き入っていた。
「あはは……すごい。なんて壮大な作戦なの」
最初に沈黙を破ったのはカヤ。
口には苦笑いを浮かべ、これから始まる巨大な計画に武者震いしているかのようだった。
作戦の概要はこうだ。
まず前提として、王都の地下部分にはいくつもの隠し通路がある。
そのどれかが王城に繋がっており、もし緊急事態が発生した場合、王族が逃げるための避難通路になっている。
……と、ここまでは僕でも知っていることだ。
一般には公にされていない内容だけど、僕だってマクバ家の末裔だからな。
レイやレイファーにとっても、ここまでは当然の知識だろう。
本題はここからだ。
「たしか……地下通路の途中に、謎の巨大扉があるっていうんだったね」
復習のつもりか、ユウヤが思い出しながら呟き始める。
「それに向けて《紅の宝石》をかざせば、扉が開き……王城に繋がると」
「ええ。そういうことみたいです」
レイが澄まし顔で頷いた。
「元々は緊急事態に備え、オルガント陛下と女神様が共同で作った仕掛けだそうです。だからこのことは後世の王族にすら知らされていません。私も知らなかったですし、お父様もそうでしょう」
「こ、国王陛下ですら知らないことを……あ、あははは」
カヤがまたしても苦笑いを浮かべる。
ま、それが当然の反応だよな。
僕たちはいま、国のトップですら知らない機密事項を共有していることになる。
これを壮大と言わずして、なんと呼ぶ。
「それから」
続けてレイは毅然とした態度で話を続ける。
「レイファー兄様はお父様に隠れて陰謀を画策しているご様子。その過程で第19師団を取り込んだようですが……言ってしまえば、その連中さえ始末すればいいわけです」
なるほど。
つまり僕たちが倒すべき敵は主に三つ。
アルセウス救済党。
王国軍の第19師団。
そして第一王子レイファー・フォ・アルセウス。
……とはいっても、これだけでもかなり巨大な組織なんだけどね。
第19師団は7000もの兵力がある。
そしてアルセウス救済党は底が知れない。党首マヌーザや同志Aとは、いままで一度も会ったことがないしね。
レイは僕たちの顔を見渡しながら、再び話を続ける。
「レイファー兄様に陥れられ、苦境に追い込まれた王族もいるはずです。彼らの力も借りれば、兄様を失脚させることはそう難しいことではありません」
「レイ……」
自信ありげに告げる幼馴染みを、僕はまじまじと見つめる。
ずいぶん頼もしくなったものだ。
昔はあんなに小さかったのに。
――僕も、負けてられないな。
「ふむ。今後の方針がだいぶ明確になったようじゃの」
アルトロが満足そうに顎髭をさする。
「アリオスよ。ギルド本部としても、今回の事態には大きな関心を示しておるようだ。立場上、あまり大きなことは言えないが、アリオスに期待しているとのこと」
「期待……」
「うむ。もはや、おまえはギルドにとっても誇り高き存在じゃ」
そしてアルトロは僕の肩を優しく叩くと、力強い声で言い放った。
「真の剣聖よ。己を超え邪を照らし――我がアルセウス王国を救ってくれ」
その後の作戦会議で、王城突入の段取りが決まった。
アルド家に侵入したときと同様、二手のチームに別れることとなった。
Aチームは僕とレイ、そしてエム。
Bチームはカヤとユウヤ、あとはウィーンも作戦時には召喚することとする。
まずBチームが通常の《地下通路》から侵入をかける。こちらのルートはレイファーも知っているため、強固な警備が張られているはず。そこに突入をしかけることで陽動を計る。
そして僕らAチームは《巨大扉》からの侵入。こちらは現国王でも知らないルートなため、陽動さえ成功すれば安全に突入できるはずだ。そしてそのまま、党首マヌーザたちに戦闘を仕掛ける。
間違いなく、いままでで一番大きな戦いになる。
だから自身の命を最優先にして、危なくなったら即撤退。
そんな取り決めを行い、僕たちは作戦当日を迎えるのだった。
★
一方その頃。
アルセウス王国。王城にて。
第19師団長のフォムス・スダノールは、頬杖をついて伝令係の話を聞いていた。
「……ふむ。そうか。特に異常ないのだな?」
「ええ。特にこれといった問題は見られません」
「了解。下がってよし」
「はっ」
伝令係は頭を下げるや、そそくさと部屋から退室していく。
――あの日。
初代国王オルガントに追い出された日から、丸三日が経った。
第一王子のレイファーによれば、そろそろアリオスたちが攻めてくる頃合いだというが……
いまのところ、目立った異常は見られない。一昨日も昨日も、さしたるトラブルは起きなかった。
「まあ、いくらアリオスといえど、さすがに無理だろうな」
ひとりそう呟くフォムス。
ここ王城に侵入する手段は二つ。
一つめは正面扉だが……ここから突入してくる可能性はさすがにないだろう。
考えうる手段としては、地下通路から入ってくること。
一般には公表されていない経路ではあるが、第二王女たるレイミラはもちろん、アリオスもその存在を知っているはず。だからここから攻めてくるだろう――というのが、レイファーやフォムスの予想だった。
だからそれを想定し、地下通路には多くの兵士を常駐させている。
それだけではない。
王都周辺にも兵を置き、違和感があった場合にはすぐに連絡がくるようになっている。
まさに鉄壁の守りだ。
いかに剣聖リオンを打ち倒したアリオスといえど、この壁を突破できるわけがない。
「フォムス師団長!」
そんなフォムスの思考を破ってきたのは、さっき通達をしてきたばかりの伝令係だった。
「き、ききき、緊急事態です! 奴らが現れました! アリオスたちです!」
「ふむ……とうとう現れたか」
目を細めるフォムス。
やはり第一王子レイファーの読みは正しかった。
ここは慌てることなく、冷静に……
「師団長! 地下通路にて、我が兵が続々と倒されています! ご、ご指示を!」
「は……!?」
フォムスはぎょっと目を見開く。
「地下通路……!? おい、冗談も大概にしろ!!」
前述のように、王都の周辺には多くの見張りを敷いているはず。
だからアリオスたちが攻めてきた場合でも、事前に不穏な動きを察知できる――はずだった。
「い、いえ、報告によれば、アリオスは瞬間移動にて攻めてきており、通達する間もなかったと……」
「しゅ、瞬間移動……!?」
まさか。
アルド家においても、アリオスは空を飛んだり姿を消したり、奇想天外な動きをしていたという。
その類の能力か……!!
「7000の兵すら蹂躙するというのか……! ば、化け物め……!!」
強く歯ぎしりするフォムスだった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
ただいま改稿作業中ですが、パソコンを持っていないので、毎日ネカフェで改稿作業してます。
お金が(ノシ 'ω')ノシ バンバン
今後とも面白い作品を届けたいと思いますので、ぜひブックマークや評価で応援していただければと思います。
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