おい、またか
夜。
ラスタール村の家屋にて。
ふかふかなベッドの上で、僕は後頭部に両手をのせて寝ころんでいた。窓から流れてくる温風が、なんとも心地良い。
「アリオス……」
そして僕の隣には、レイミラ・リィ・アルセウス――改め、幼馴染みのレイ。
薄いタオルのみをまとっただけの彼女は、おろした金髪をかきあげながら、ちょっと甘えた声を発する。
「あのね。さっきご先祖様から、もうひとつ言われたことがあって」
「もうひとつ?」
「うん」
レイは僕の手を自身の胸におさめ、ぎゅうと握りしめながら言った。
「ご先祖様とファルアスさんは、かつて一緒に戦場を駆け抜けた無類の親友らしくて。二人で一緒に戦えば、勝てない相手はいないとまで言われてたの」
「二人で一緒に……」
なるほど。
ファルアスは当然だが、初代国王オルガントの立ち居振る舞いもかなり精錬されていた。さすがにファルアスほどではないにせよ、オルガントも凄腕の剣士であるように感じたんだ。
伝承においても、剣聖とともに戦う国王がいまでも語り継がれている。
「そう思えば納得だよな。あの二人は、心の底から通じ合っているような……話さずともすべてをわかりあっているような……そんな関係だった」
「うん。私もそう思いゆっ」
語尾がつっかえたのは、僕がふいにレイの頬をつまんだため。
「むー。痛いんですけど」
「いままでの仕返しだ」
「なんのことかわからない」
レイは僕の手を除けると、さっきの話を再開した。
「だから一緒に戦ってほしいって。きっと最高のコンビになるからって……」
「最高のコンビ……」
たしかに思い当たる節はある。
ヴァニタスロアとの戦いにおいても、彼女は未熟ながらも阿吽の呼吸で僕を助けてくれた。
戦闘面ではまだ心許ないかもしれない。
だけど、ここぞというときに的確な動きをしてくれるのが彼女だった。
「だから一緒に戦いなさいって。きっととんでもない強さを発揮するからって……言われたんだ」
「とんでもない力……」
と。
――――――
受諾。受諾。
チートコード起動。
初代国王の力を移行します。
完了。完了。
――――――
僕の視界に見覚えのあるメッセージが浮かぶや、ふいに、僕とレイの全身が淡く輝きだした。
「え……」
「な、なにこれ……!?」
目を見開く僕とレイ。
だが、別段なにか変化があったわけではない。
強いて言うなら、なんとなく全身が温かくなっている気がする。
だけど、それだけだ。
いつものように、新たな能力を手に入れたような気はしない。
「レイ。そっちにはなにか変化あるか?」
「ううん。わかんない。だけど」
レイはやや赤くなった顔で自分の両手を確認した。
「なんとなく、嬉しい気持ちになったような、すごくなったような気がする……」
「すごくなったような……」
なんとも曖昧な話だな。
まあ両者ともに害があったわけではなさそうだし、気にすることもないか。
そのときだった。
むにゅっ――と。
レイが再び抱きついてきたのは。
「おいおまえ、さっき――」
「だめー。もっと一緒にいたいの」
「…………」
嘘だろまったく。
結局、眠りにつけたのは真夜中であった。
★
一方その頃。
Aランク冒険者のカヤ・ルーティスは、レイの家を訪ねていた。
「メアリーさん……でしたっけ? ここにアリオスさんとレイはいませんか?」
「いえ……ここにはいません」
首を横に振るメアリー。
その表情はどこか諦観に染まっていた。
「大事な話があるからって……今日は宿に泊まるってレイミラ様は仰っていました」
「宿に……そうですか」
そう呟くカヤもどこか諦め気味。
「こりゃー……レイに先越されたわね。まったくもう……」
「あら。カヤさんもアリオス様を……?」
「え? あ、はい。素敵な方だなと思っていました」
「ふふ。そうですね。アリオス様はこの世で一番素敵な方です」
メアリーは片手に持っていたハンカチ――かつてアリオスから渡されたもの――で手を拭くと、ふふっと天使の笑みを浮かべた。
「それでも、私はアリオス様の召使い。これまでも……そしてこれからも、それが変わることはありません」
「メアリーさん……」
カヤは一瞬だけ切なげな表情を浮かべると、ぶんぶん首を横に振った。
「うん、そうね。私もいつかアリオスさんに追いつけるように頑張らないと! メアリーさん、よければご一緒にお茶でもどうですか?」
「あら、いいですね。私もちょうど話し相手が欲しかったところです」
「あ、私もっ!!」
脇で会話を聞いていたエムも参戦し、こちらはこちらで、騒がしい一夜が始まるのであった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
詳細はまたご報告しますが、今後とも面白い作品を届けたいと思いますので、ぜひブックマークや評価で応援していただければと思います。
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P.S
ただいま書籍化作業中ですが、どうすればもっと面白くなるかに悩んでいます。
もっと文章の密度を上げるか、なにかエピソードを追加するか……うーん。
なにかご意見ありましたらお願いします(ノシ 'ω')ノシ バンバン




