おい、おいおいおい!
「お……」
気づいたとき、僕はラスタール村の外れに戻っていた。
「ファルアスさん、女神様……」
さっきまで目の前にいたはずの偉人たちは、やはり消えていて。
仕方ないとは思いつつも、一抹の寂しさを感じてしまうのであった。
「――至ったようだな。アリオス・マクバよ」
ふいに名前を呼ばれた。
振り向くまでもない。
「…………」
僕の気配察知能力が上がったのか、もしくは彼の気配が濃厚すぎるためか――僕は数秒前から、彼の登場を察知していた。
「オルガント国王陛下……この度はとても助かりました」
「ふふ……」
貫禄のある笑みを浮かべるオルガント。
当然というべきか、彼の姿も薄れかけていた。初代剣聖のように激しく動いていないぶん、猶予が長いのかもしれないな。
そして初代国王の隣には、第二王女レイミラ・リィ・アルセウスもいた。
どうやら《作戦会議》が終わったようだな。王族には王族で、公にできない話が山ほどあるのだろう。
「ふむ」
オルガントは周囲を見渡しつつ、僕に問いかける。
「剣聖と女神は……お先に行ったかな?」
「ええ。最後の瞬間まで、僕に訓練を施してくれました」
「……そうか。アリオスよ。咄嗟に余の登場を見抜いたことといい、相当に腕を上げたようだな?」
「はい。新たな境地に至ったと自負しています」
いまの僕ならば、より精度の高い淵源流を使いこなせるだろう。ファルアスの戦い方が、嫌でも身体に染み着いているから。
「良い目をしている。それでこそ英雄にふさわしい」
オルガントはそう言って一歩進み出すと、背後にいるレイに向けて言った。
「レイよ。あの件……しかと胸に留めておいてほしい。そなたにしかできぬ所行だ」
「……はい。私にできるかはわかりませんが……」
「そう恐れることはない。そなたなら充分に世界を引っ張っていける。アリオスとともにな」
え。
それって、まさか……
なんとなく会話の内容を予感してしまったが、それは心に留めておく。それこそ公にできる話ではないからな。
それに――気のせいだろうか。
レイがまた一段と、毅然としたオーラを身にまとっている気がする。女性としての色気のみならず、オルガントにも似た圧倒的な風格を……
僕の視線に気づいたのだろう、レイは小さくウィンクをかましてきた。後で話すよ、ということだろう。
「アリオス。レイミラ。二人に言っておきたいことがある」
身体が薄れゆくなかで、初代国王は動じることなく話を続ける。
「アリオスは父から。レイミラは兄から。二人とも、血縁者からひどい扱いを受けてきたと思う。だが――忘れるな。そなたらには、余たちがついておる」
そして僕たちに振り向くと、にかっと快活な笑みを浮かべた。
「だから気にするな!! ただひたすら、己が信じる道を突き進んでいけ! 以上!」
そのセリフに合わせるかのように。
初代国王の思念体は、空中のなかに溶けて消えていった。
★
本当に、すごい人たちだったと思う。
オルガント・ディア・アルセウス。
ファルアス・マクバ。
そして女神ディエス――
存在するだけで、その場のすべてを呑み込んでしまうような。そんな圧倒的な風格があった。
「ほんと、すごい人たちだったわね……」
ひとり感慨に耽る僕に、レイがぽつりと呟く。
ちなみに現在は、人気のない公園のベンチに二人で座っている。ラスタール村からほど近い場所にあって、普段は子どもたちで賑わっているものの、日が暮れた現在はほぼ無人。
僕たち以外、誰もいない。
「ご先祖様から、今後の段取りは聞いといたわ。これから三日後に、王城に攻め入る予定」
「そうか……」
もちろん、なんの考えもなしに正面突破するわけではなかろう。
ラスタール村には大きな戦力が集っているが、相手は王国軍。規模があまりにも大きい。
その段取りを初代国王から聞いたっていうことだよな。
そして、レイの今後の身の振り方についても……
「レイ。もしかして――」
「うん」
僕に聞かれることを予期していたのだろう。レイは小さく頷く。
「私、次期の女王になりたいと思う。なにもできない私だけど、でも」
そして膝の上で両の拳を握りしめるや、大きく息を吐き出しながら続けた。
「いまの王城は、たぶんレイファー兄様が大きな力を握ってる。他にも国王候補はいるけれど、みんな私と同じように動きを封じられてるから……」
「そうか……」
あのレイファーのやりそうなことだ。
あいつは父リオンやダドリーまでをも利用して、レイを王都から実質的に追い出した。
その手腕をもってすれば、他の王族を陥れることも可能だろう。
「このままじゃ、アルセウス王国は兄様が支配することになってしまう。それだけは……許しちゃいけないって思って。だから」
隣に並ぶ僕の手を、レイはぎゅっと握った。
「私を助けてほしい。危険なのは重々わかっているけど……」
「はは。なにを馬鹿言ってるんだ」
「え……?」
「言っただろう。僕の夢は、もっともっと強くなって……君の護衛をすることだった。それは昔から変わっていない。だから」
僕はベンチから立ち上がると、第二王女の前でひざまずいた。
「イエス・ユアハイネス。王女様の仰せのままに」
「…………っ」
レイは頬を赤く染めるや、目をぎゅっと閉じた。
「ありがとうアリオス。で、でも、ひとつだけ、聞かせて」
「へ?」
「あなたが私を守ってくれるのは、単に夢だったから? 私が王族だから? それとも……」
「レ、レイ?」
困惑する僕を、レイは正面からぎゅっと抱きしめてきた。
「ずっと一緒にいてほしいの。女王になったら、私……」
「ずっと、一緒に……?」
おい。
おいおいおい。
それって、まさか……
――おまえは私の血を無駄に引いているようでな。女性からの好意にも気づいてやれよ?――
さっきもらったばかりの初代剣聖の忠告が、早くも脳裏に蘇った。
「レ、レイ? まさか……」
「うん。そのまさか」
そして彼女は、あろうことか僕に唇を重ねてきた。
――いままでは頬だったけれど、今回は違った。
「アリオス。今夜は一緒にいたい。……アリオスが嫌じゃなければ、だけど」
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
詳細はまたご報告しますが、今後とも面白い作品を届けたいと思いますので、ぜひブックマークや評価で応援していただければと思います。
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P.S
ただいま書籍化作業中ですが、どうすればもっと面白くなるかに悩んでいます。
もっと文章の密度を上げるか、なにかエピソードを追加するか……うーん。
なにかご意見ありましたらお願いします(ノシ 'ω')ノシ バンバン




