野営
手入れされていない森は歩きにくいな
広葉樹らしい枝葉は、低い位置から横に張り出していて行手を遮るし、それなりに日差しが届くせいか足元にはよくわからん草が蔓延っている。
それでも少しずつ山を降りていくと、うっすらと水気を感じる匂いがする。
沢が近いのかな?
もしそうなら、沢伝いに降りていけば麓まで行けるかもしれないな。
「なぁ…」
黙々とついてくる相方に話しかけた。
「何だ?寂しくなってきたのか?腕でも組んでやろうか?」
綺麗なお顔はピクリともせず、胸元のドクロがケタケタと笑う。
「違うわ。さっきの猿みたいな奴、仲間とか追っかけてきてはいないかな?」
「ふむ…これだけのんびりと移動しているのに気配が無いからな。追ってはいないのだろう。断定は出来んがな」
確かに足取りは遅い。
このままだと、野営することになりそうだ。
「野営するにも、水場が在ればありがたいからな。何とか沢まではたどり着きたい。」
「おお!お前にしてはもっともな意見だな!では、急ぐとするか!」
言うや否や、美女モドキはメキメキバリバリと枝葉をへし折り踏み付けガンガン進み出した。
「マジか…スゲぇペースじゃねえかよ…」
今まで何で前に出てくれなかったのか…
意味はわからんが、とりあえず良い感じで進めそうだ。
辺りが少し薄暗くなってきたと感じる頃、沢が見つかった。
倒木もそれなりにあり、乾き具合によっては焚き木にも使えそうだ。
沢の水は清涼に見えるが、煮沸して使うことにしよう。
先ずはタープを張るか…
「おい!ちょっと手伝ってくれないか?」
相方に声をかけてみる。
「ああ…構わんが…」
「が?」
「いい加減名前で呼んでほしいものだな」
人であれば至極当然のことを言われてしまった。
「そりゃあ悪かったな…で、名前は何で言うんだ?」
ちょっとびっくりしたような顔で、ドクロが
「いや…お前が考えろよ?」
「は?…名前無かったのか?」
「ライダースとか革ジャンとか呼ばれるのはもう嫌だな。それは品名であって名前ではないだろう?」
「それは…そうだなぁ…」
タープの端のリングにロープを通し、沢から一段上がった所にある立木にくくり付けながら、ドクロさんの名前を考える。
アイツはかれこれ20年ほど前に、悪友から買ったんだよな。
当時はマッチョ気味だった俺によく似合うって褒めて貰えたし、絵の上手かった別の友人にオリジナルのグラマーうさ耳美女を描いてもらったりして暑かろうが寒かろうが必ず着てバイク乗ってたな。
しばらくバイク降りてた時も一人で遊びに行く時は着てたし。
ボストンあたりの有名ブランドだったはず。
すげぇ重いけど、未だに現役で着てるしな。
丈夫で長持ち。
よし
「イナバ」と呼ぶことにしたぞ。