革ジャンドクロとお話し
俺の革ジャンの背中には、鹿皮にプリントしたイラストが貼り付けてある。
パッチとも言う。
まだ厨二病真っ盛りだった20代に『エロカッコイイ!』とか言ってお気に入りだった、ドクロを抱えて怪しげに微笑む金髪バニー美女のセミヌードイラストだ。
その『ドクロ』が喋ってる。
カパカパと言葉に合わせて開くのは、美女の方じゃなくてドクロ…
声もなんかハスキーで中性的な感じ。
「おい、毅」
「⁉︎…」
いつのまにか猿から離れた革ジャン?が話しかけてきた…
もう…訳わかんねえ…
「何をハトが豆鉄砲食らった様な顔してやがる
さっさと荷物まとめて、ココから離れるゾ。
この猿の仲間が居やがったら面倒だろうが。」
「あ!そうか…」
もっともな意見だ。
言ってる奴はまともじゃ無いが…
俺は荒らされていた荷物をまとめる。
カップラーメンが食い荒らされていたが、それ以外はバッグから引っ張り出されていただけの様だ
ちょっと周囲を気にしながらなるべく手早く荷物をまとめた。
スマホのアップデート?も、あと少しで終わりそうだ…
壊されなくて良かった…
「おう!終わったか?そしたらさっさとココから離れようぜ!」
言うが早いか、革ジャンが飛びかかってきた!
「おわっ!!」
思わず躱そうとしたが、腕を掴まれた?様な感触!
そのまままとわりつく様に俺の身体に勝手に「着せられる」
「ウオォ!…って!どうなってんだよ!」
「いちいち喧しいな毅は…、そういうモンなんだって。ココでは俺たちは。大体お前は元々好きだろ?こういうの。」
背中越しにため息まじりで声をかけられる。
確かに俺はファンタジーは好きだ。そういう世代だしな。
でも、リアルなのか?コレは今、リアルなのか?
それがわかんなくて怖いんだよ…
「現実とは思えないよ…」
「ふむ………とりあえず移動しようや。降る感じで良いからこの場所からは離れるべきだ。それぐらいはわかるだろう?」
「ああ…」
さっきより少し柔らかめに話しかける声に従って、バッグを背負い灌木を掻き分けて山林に分け入った。
林?森?の中は木漏れ日で意外と明るいというか暗くは無い。
木々は広葉樹が多い様だ。種類はわかんないけど、杉とかの類ではなさそう。
足元は落ち葉と若木、様々な草が生えていて柔らかな感触。
滑らない様に気をつけないと。
「それで…お前は何で話ができるんだ?」
山を降り始めて30分ぐらい経っただろうか…今度は俺から話しかけてみた。
「あ〜理由は解んねえな。毅がヤバそうなんで声かけなきゃって思ったら話せたんだよ。
まあ、ココがお前が元いた世界じゃ無いって事が原因だろう?多分な。」
「元いた世界?!何だよ!それは!俺はトンネル走っていただけだぞ!何でそんなことになってるんだよ!」
思わず立ち止まって叫んでしまう!
訳わかんねえよ!
別にトラックに轢かれたわけでも、怪しい光に包まれてもいないし!
神様とか女神とか悪魔とかにも会ってねえじゃねえか!
ただキャンプに行こうとトンネル走ってただけだろうに!
「…理由なんてわかんねえって。俺、革ジャンだし」
すごくもっともな意見だ。
でも
「説明してもらえるって言ってなかったか?」
「………」
なんだか言葉が出てこなくなった。
「そういうのは役割分担でな。俺の役目ではないよ」