出発の朝
早朝
前日から用意していたキャンプ道具一式。
ソイツを愛車に括り付け、セルをかける。
「キュキュキュ!ドルルッ!」
モーター音からエンジンに火が点き、腹に響くような低音のリズムを刻み始める。
「アァ…久しぶりだなぁ…」
軽い高揚感と共に思わず呟いてしまった。
20代の頃、流行りに乗って無理にローン組んで買ったバイクに
何の因果か10数年ぶりに中古車情報で出会ってしまい、家族にも相談せずに購入を決めてしまったが
納車されて初のツーリングに懐かしさと新鮮さを同時に感じる。
家族には呆れられたが、反対はされなかった。
感謝している。
当時着ていた革のライダースは、アメリカ帰りの幼馴染みがお土産と言いつつ
10万分諾っていったモノだけあって?
見た目はボロいが今でも充分その機能を果たせそうだ。
何よりに当時ゆとり有り過ぎだった腹回りがちょうど良い。
「ふー……良しっ」
落ち着いてきたアイドリング音に、少しばかり気合を入れ直して走り出す。
力強いトルクにグイッと引っ張られるように。
自宅から高速までは程近く、ゲートを抜けて加速していく。
目的地は山梨県のとあるキャンプ場。
温泉も併設していて直火もOK。
設備のわりに利用料がお手頃なのも良い。
途中の直売所でキノコでも買ってバター炒めで一杯やるかなぁ…
山間に入って来ると車線は少しばかり狭くなり、左側のガードレール下の高さを想像してゾワッ!としたり。
昔は無かったジャンクションの立体交差に未来感を感じたり。
アァ…やっぱりバイクは良いなあ…
車とは全く違う。
アクセルを握る手に力が入る…
明度差にクラっとしながら軽く緊張。
もう随分前になるが、崩落事故があったトンネルだ。
ココを通るときはいつも緊張する。
勝手ながら亡くなった方のご冥福をお祈りし、自分の無事をお願いする。
毎度の事だけど。
「どうか無事に抜けられますように」
いや………
おかしい………
全然出口が見えない。
何だこれ?
そういえば他に車も走って無い…
メーターは80キロちょっと。
トンネル内だからね。
それでもとっくに抜けてて良い時間だよ…
トンネルが延伸されたなんて聞いてない…
そもそもアクアラインだってこんなに長く走らないし。
さらに数分走ると、照明の間隔もまばらになってきて先が見えない…
待避所の看板があったので速度を落とし、バイクを停めた。
「マジか…何なんだこれ」
トンネル内だからか、スマホも通じない。
さっきから車が通り過ぎることもないし、やたらに静かすぎる。




