夢で語られる約束〜織田信長篇〜
俺は物心ついた頃から夢を見るようになった。それもいい夢ではない、ある種悪夢に近い。燃え盛る炎、刀と刀の撃ち合う音…まるで過去の記憶を手繰るかのように。そして最後には必ず成人したと思われる男の声が聞こえてくる。
かならずアヤツを見つけ出さねば。そして幸せにしてやらねばならん
目覚める直前に必ずこの二言が聞こえる。それが十年程続いている。俺としては迷惑極まりない事だ。とはいえ、日常生活に支障を来すような事でもない。全くなかったと言えば嘘になるが、一つ気になることがあった。目覚める直前に聞こえる「アヤツ」って一体誰のことなんだ。その事について考えているとどうも全てのことに手が付かない状態になる。おかげで授業なんぞ右から入ってきて左から抜けていく始末だ。
夢以外は平和な日常を送っていた俺だが、夢について最近問題がでてきた。俺が戦ってるわけじゃない。火災に巻き込まれている訳でもない。ただ暗闇の中に名前も顔も知らない男と一緒にいて、何も話さない。それが1週間くらい続いた。
痺れを切らしたのか男の方から喋り始めた。その声を聞いて僕は目の前にいる男は前まで俺の夢で謎の2言を言っていた人と同一人物なんだと気づいた。
その男が言うには、自分は織田信長で俺はその生まれ変わりだそうだ。ここまできてその男と言うのも可笑しいか。俺と会話をしている男は、「第六天魔王」の異名を持つ織田信長だった。面倒なことに夢で見ていたのは本能寺の変の真っ只中───即ち前世での記憶だったらしい。
「よく言っていたアヤツって誰のことなのだ?」
俺はこう訊ねた。何故って、探し出すには情報が必要だ。そう言えばある探偵が言っていた
情報が足りない。粘土、粘土がなければレンガは作れんよ
とな。この探偵は情報の事を粘土と比喩している。そして返ってくる答えは
「今の名前は判らんが儂と共にいた頃は"嶺の方"と呼ばれておった。そして金平糖が好物じゃ、これは今も変わっておらんらしい。必ず探し出せ。」
「必ず見つけ出せって言っても向こうに記憶がなければ意味が無いだろ」
「……儂との記憶は無くとも構わん。その代わり儂の生まれ変わりであるそなたに幸せにしてやって欲しいのだ。」
何とも無責任なと文句を言ってやろうと思ったが、そこで目覚めてしまった。これまで以上に夢見が悪い。
だが、何とも哀しい顔で懇願されたら探し出さねばならんようだ。たとえどんなに時間がかかっても良い、絶対に見つけ出さなければ。仮に運命的な何かで繋がれているのだとすれば絶対に見つかるはずだ。不確かな自信と確信を胸に俺は学校に向かった。