第八話 レジスタンス⑧
第三三〇回地球降下作戦。
2089号をリーダーとし、2099号まで十一体の部隊を同時に派遣した地球降下作戦。
レジスタンス・リーダーであるノワールも協力を行い、レジスタンスからも一部の機械人形を派遣するに至った。
その一人がブランだった。994号、リーダーノワールの993号と唯一三桁の製造番号を保有している機械人形だった。
ブランは切り込み隊長として、戦場に常に参戦した。戦った。戦った。戦った。戦って戦って戦い尽くした。彼女の行く道には赤い油の海が生まれる、と呼ばれるぐらい、彼女は切り込み隊長としてたくさんの機械生命体を斬り殺した。
そうして機械生命体の本拠地である場所まで突き止めることに成功し、そこへ切り込みをかけたのだが――、最終的に宇宙人はその場を捨てるために爆弾を放ち、2090号から2099号まで爆死。最終的に2089号のみが生き残った。
「……それが、ブランのいきさつだ」
「2089号……ローズはどうやって生き残ったの?」
「ブランが助けてくれた。それ以上語る余地は無い」
「言わなさすぎでしょう……。あのね、ブランが彼女に来る衝撃波を受けてくれたらしい、のよ」
「らしい、というのは?」
「気がつけば爆心地に一人だけだった。だから」
「ああ、そういうことですか。つまり……、ブランがほんとうに死んだかどうか確認出来ていなかった、と」
「そういうことになる」
そういうことになる、って……。
シロは思いながらも、ブランのことについて考えていた。
ブラン。ローズは伝説の機械人形と語っていた。つまり、それなりに戦力を保持しているはずだ。そして生きているのなら、レジスタンスに戻ってくれば良い。そして、今回はローズが居た。だから別に『知らない機械人形が居た』というだけで逃げたとは到底考えにくい。
ならば、どうして。
ならば、どうやって。
どうやって生き残って、どうして逃げてしまったのか。
それが全然理解できなかったし、理解できる訳がなかった。
なぜなら確認材料が、あまりにも少なすぎるからだ。
「……これ以上、語ることは無い。けれど、問題はさらに増えてしまったわね。まさか、ブランが生きていたなんて……。分からなかったというか、想像が出来なかった。そうよね、何も残っていなかったという時点で全て消えてしまったと考えることをせず、生きているという可能性を考慮するべきだったのよね……」
「ノワール。私たちはもう帰っても良い?」
「え? ええ。良いわよ」
「シロ。一度報告しに『フレイヤ』に戻りましょう」
「え? あ、はい、良いですけれど」
急にそんなことを言われると思わなかったのか、シロは少しだけ慌ててそう言った。
そして、一度シロとローズはフレイヤに帰還することとなった。
◇◇◇
フレイヤに帰還するには、簡単だ。
レジスタンス基地にある『通信装置』を利用して、遠隔でボディを操作すれば良い。
レジスタンス基地やフレイヤにある通信装置が壊れてしまえば使えなくなってしまうし、通信中に通信装置が壊れてしまうと『心』が壊れてしまうというリスクがあるが、今は殆どそのリスクが無いと言っても過言では無い。
二人は、それぞれ部屋に置かれている通信装置に腰掛ける。
マッサージチェアのようなリクライニングチェアに腰掛けて、頭にヘッドセットのような装置を装着する。
後はリモコンのボタンを押せば、通信装置の電源が入り、電波で月面都市『フレイヤ』にあるボディへ電波が送られる。
「この電波を飛ばす感じ、嫌いなんですよね……」
「好きとか嫌いとか言っている場合じゃない。良い? 行くよ」
そして。
二人は同時に通信装置の電源を入れた。
◇◇◇
フレイヤ、総司令室。
「失礼します」
「2089号、2100号。入ります」
二人はそれぞれ言葉を投げて、中に入っていった。
総司令。
黒い帽子を被った銀髪の女性。
1943号、通称『シルバー』。彼女は第七代総司令としてこの場所を管轄して、遠隔で機械人形の場所を把握している。
「ああ、お前達……。良く戻ってきたな!」
それを聞いて、首を傾げるシロ。
「あの……何かあったんですか?」
シロの問いに、慌てて声を出すシルバー。
「知らないのか? お前達、連絡を取っていなかったのかもしれないが、他のメンバー……つまり2101号から2113号までが行方不明になっているんだぞ」
「何ですって……?」
リーダーであるローズはそれを聞いて困惑の表情を示した。
◇◇◇
場所は変わり、地球の何処か。
タオルで刀を拭きながら、ブランは何処か考え事をしていた。
(ローズ……まさか生きていたとはね。まあ、私が助けたようなものなのかもしれないけれど。まさか、一年後にまたやってくるとは思いもしなかった)
そして。
ブランは刀を拭き終わると、それを鞘に仕舞い、空を眺める。
空には月と、月面都市『フレイヤ』の入っているターミナル衛星が二つ輝いている。
「いつまで『月面政府』は、このやり方を続けるつもりなのか……!」
恨み節のように言ったその言葉は、誰に届くことも無かった。
◇◇◇
そして、シロとローズは通信装置を使い再び地球へ戻ってきた。
思い返すのは、司令官シルバーの告げた命令。
「ブランが生きていて、レジスタンスに帰ってきていない。そして、機械生命体を殺しているのは今のところ問題無いが、それが機械人形に移る危険性も考えられる。今、月面政府の考える理論からすれば……、ブランはプログラムが壊れている可能性が非常に高い。ならば、ブランを破壊しなくてはならない」
「ブランを。破壊せねばならない」
ローズは司令官から言われた内容を要約して、ぽつりと呟く。
「辛いですか、ローズ? 嫌なら僕が単独でやっても良いんですけれど」
「大丈夫。私はわたし。ブランの破壊には何ら関係ない」
「なら良いんですけれど。じゃ、明日も早いですし、そろそろスリープモードに移行しますか」
ベッドに横になり、スリープモードに移行させたシロ。
ローズもベッドに横になり、スリープモードに移行させよう――としたところでふと考える。
ブランを破壊せよ。彼女はプログラムが壊れている可能性が高い。
ブランを破壊せよ。プログラムが破壊されている危険性が高い。
「私は。ほんとうにブランを破壊するべきなんだろうか」
その問いもまた、誰に届くことも無かった。
第一章 完