第三話 レジスタンス③
「戦争をしている時点で、間違っていると言いたいんですか! これが、この戦いが」
「間違っているよ。はっきり言ってね。この戦いがどう終わろうが、こちらには知ったことではない。そして、いつかは機械人形だろうと寿命がやってくる。……私がここにやってきたのは、もう三十年も昔のことだ。そのときは私の前のレジスタンスリーダーが活動していて、私は彼女に憧れていた……」
「リーダー! 戦闘、終了しました!」
モニターをずっと見ていた機械人形は、ノワールに告げる。
「ご苦労。戦況は未だ報告に上がってきていないな?」
「はい。ええと、未だですね! 報告が上がり次第、テンプレートにまとめてお送りします! 失礼致します!」
「ああ、よろしく頼む。……全て話を聞き終わる前に出て行ったが、問題無いか」
出て行った機械人形を見送りながら、ノワールは言った。
「…………話の続きといこうか、シロくん?」
ノワールのその言葉に、シロは背筋が凍ったかのように身震いした。
ローズはぼうっとしている様子で、何を考えているのか分からなかった。
「我々が行っている戦争は、確かに消化試合だ。いつかは終わらせなければならないと思っているし、しかしながらいつ終わりがやってくるかは分からないものとなっている。その間は延々と機械人形は食われるし、機械人形を食った機械生命体は我々のテクノロジーを吸収しているとみられている。だからできる事なら食われること自体も避けておきたいのだが……、戦いをしている以上、そうもいかない。問題は山積みであるが、それを直ぐに解決する必要も無い。それは私の前のリーダーからも学んだことだ」
「おかしいですよ、狂ってる……」
「ああ、そうだな。狂ってるかもしれない」
ノワールははっきりと言い放つ。
しかしながら、彼女の話は続いた。
「でも、私はこれが間違っていると思った覚えは無い」
「何ですって……?」
「この言葉に何の意味を成すか? それは簡単なことだ。この言葉には何の意味も成さない。ならば成せばいいのだよ。戦争を続けろ、という指示を送られているならば、戦争を続ければ良い。その為に君たちは送り込まれているのだ。そうだろう?」
「それは……」
三百回以上も地球降下作戦を実施しているということ。それはそれだけの回数、機械人形が壊れているということに等しい。何とか生き残った機械人形がレジスタンスを形成し、そのレジスタンスが今や人間の最後の砦となっているというのだから、面白い。
だが、それで解決していいのだろうか?
答えは、否である。こんな簡単に解決させて良いほどの問題ではない。
ならば、どうすればいいのか?
答えは、はっきりと見えてこない。濃い霧の中に迷い込んでしまったような錯覚に陥ってしまうくらいだった。そんな感覚だった。
「まあ、いい。戦争についてこれ以上語ることは無い。それに、君たちはレジスタンスを活用しない。そう言われているのでは無かったかね?」
それを言われて、ふと思い出す。
そう。彼らはあくまでもレジスタンスに在籍するだけで、活動自体は『諜報活動』なのだ。レジスタンスの命令にも従わなくてはならないが、順序的には先に月面政府からの命令を優先しなくてはならない。それは三百回以上も地球降下作戦を行って初めてのことであり、レジスタンス側も若干慌てている様子なのはそのせいなのだ。
「まあ、別に悪いとは思わないよ。政府の老人どもも慌てているのだろうよ。いつになったら故郷を取り戻せるのか、ということについて。別に取り返せることが出来たとしても、この汚染された環境だ。君たちは……まあ、最新型だから、空気清浄装置がついているかもしれないが、古い型になればマスクをつけないと外に出ることは許されない。換気をしないと、機械人形としては不味いことになってしまうからな」
簡単に言えば、換気が上手くいかないと熱暴走を起こしてしまうのだ。
だから、換気だけは大事にしなくてはならない。換気をしないことによって埃で目詰まりしては困るというのが機械人形の実情だ。まあ、それは同じ機械で出来ている機械生命体にも言えることなのかもしれないが。
ノワールの話は未だ続く。
「私も古い型だから、マスクをつけないと外には出られない。ここはきちんと換気されているからマスクを装着する必要が無いのだがね。……とはいえ、大変だったのだよ? ここを換気すると決まった時は私も未だ若くてな……」
「あのー……一つお聞きしたいんですが」
そこで、シロが口を挟む。
「何だ、シロ。言ってみろ。用件によってはぶった切る」
「ひどくないですか、その言い方!! あー、えーと、次の命令とかって」
「命令、ねえ。少しは自分で考えて行動しようとか思わない?」
「えぇ……、そんなこと言っちゃいますか……」
「嘘だ、嘘。一言で言えば、無い。さっき託した遺跡調査の依頼ぐらいしかめぼしいものは無いよ。ああ、そうだ。遺跡調査で得た資料を後でフォルダーに保存しておいてくれ。私がチェックしなくてはならないから、結構面倒なのだよ、それ」
「ああ、はい。分かりました」
「それと、君たちの部屋は、そこに居るムラサキから聞いてくれ」
気づくと、扉の横に紫色の髪をした少女――正確には少女型機械人形が立っていた。
それを見てぎょっとしてしまったシロだったが、直ぐに冷静を取り戻し、
「分かりました。それでは失礼します」
そう言って、シロとローズはノワールの部屋を後にした。