第二話 レジスタンス②
「座標はこの辺り……か」
遺跡と呼ばれていた辺りには、高層ビルが建ち並んでいた。とはいえ、その高層ビルも草木が生えており、既に何百年も使われていないということがよく分かる。
「模擬土がこれほどまでに立派に残っているなんて……。いったいいつの時代の遺跡なんでしょうね、ローズ」
「私たちが知らなくて良いことでもある。とにかく、遺跡の調査を進めましょう」
「あ、はい! ちょっと待ってくださいよー!」
◇◇◇
遺跡をどんどん進んでいくと、ゴミが色々残されていた。ゴミといえどもほぼ塵と化したものばかりで、それを採取するには時間がかかった。とにかく採取した。データのサンプルを取った。ただ、それだけでもそれが達成出来るとは思えなかった。
「放射性炭素で年代を測定すると……どれも七百年ほど昔になりますね。七百年前となると、まだ我々機械人形も生まれていない時代になります。どんな時代だったんでしょう?」
「それを知るのが、我々の仕事ではない。……ああ、でも指示されている内容的にはこの遺跡の調査が目的なのだから、これが正しい仕事になるのかもしれないけれど」
「仕事ですよ、これも。……おや、これは?」
シロが手に持ったのは、小さいカード型の記録媒体だった。
丁寧に大事に保存されていたそれは、たいした劣化もされず、ただ残っていた。
「こんなところにカードが……。リーダーはありませんが、解析は出来そうです。やってみますか?」
「それが私たちの仕事ならば、それもまた仕事」
「分かりました。持ち帰りましょう」
丁寧に紙に包み、それを鞄に仕舞う。
「遺跡の調査、大方終わりました。……意外というか、何というか、何も残っていませんでしたね。…………どうしました、ローズ? 何か気になる点でも?」
「どうして、ノワールはここを調査するように命じたのだろうか」
「……分かりません。それはノワール率いるレジスタンスの考えによるものかと」
「あなたは何か知らないの? シロ」
「僕は何も知りませんよ。知っていることだけです。……あれ? ところで僕って名前、名乗りましたっけ?」
「…………名乗ったじゃない、さっき」
「ああ、そうでしたか」
首を傾げていたシロだったが、直ぐに冷静を取り戻す。
「それなら、さっさと遺跡から脱出しましょうか。何も残っていないなら、それ程ここで待機する意味もありませんし……。だったらさっさと脱出して報告をした方がいいでしょう」
そうして。
シロとローズはまたレジスタンスの基地へと戻っていくのだった。
◇◇◇
レジスタンス基地に戻ると、どこか慌ただしい様子だった。どうしてこんな慌ただしいのか誰かに確認したかったが、誰もが忙しい様子を示していたので、誰にも問いかけることが出来なかった。
唯一、質問を投げかけることが出来たのは、司令室に居たノワールだけだった。
「ノワールさん、遺跡の調査終わりました。……ところで、これはいったいどうしたんですか?」
「ああ、終わったか。心配したぞ。実はな、宇宙人がこちらに攻めてきているのだ。しかしながら、宇宙人ではなく、機械生命体……いわゆるアンドロイドなのだがな」
「アンドロイド?」
「我々と同じく、機械で作られた生命体だよ。エネルギー源は、まったく異なるものなのだがな」
「というと?」
「それが分かれば苦労しないのだ。強いて言えば、熱力学第二法則を無視したエネルギーらしいのだが……」
「宇宙人…………ですか。僕たちも抗戦しましょう、ローズ!」
こくり、と頷いたローズ。
「いいや、君たちはここで待機してもらって構わないよ。あまり戦力を明らかにするものでもない。隠し球は最後まで取っておかないとね!」
そう言っていると、司令室に慌てた様子で機械人形が一人入ってきた。
「リーダー! こちら側と宇宙人側、接触しました! 現在、戦闘中です!」
「よし、映像、映せるか!」
司令室のモニターに電源が入る。
そうして、映像がその場に映し出された。
そこに広がっていた光景は――まさに地獄だった。
「何だよ、これ……」
機械生命体は、人間とうり二つの形をしていた。
そして、その機械生命体は、機械人形を――『食べて』いた。
むしゃむしゃ、ぼりぼり、もぐもぐ、と。
咀嚼音が戦場に響き渡り、その合間に拳銃の発射音が聞こえる。
「何だよ……何なんだよ、これは……」
見たことの無い光景に、シロは困惑していた。
一方、ローズはそれを見て何も言えなかった。
「……あれが機械生命体の真実だ。機械生命体は我々を食べて、成長している。それが何を意味しているか、分かるかね?」
「つまり、我々は負け戦をしている、と言いたいんですか……」
わなわな、と震えた様子で言うシロ。
「負け戦、か。言い得て妙だな。確かにその通りかもしれない。けれど、これは報告していない。報告するには値しない案件だからだ」
「報告するには値しない……って、どういうことですか! これを隠していたら、いつまで経過しても倒せる訳が無い。いや、僕たちはわざわざ食われるためにやってきているようなものだ! 三百回以上も地球降下作戦を繰り広げたのに、まったく進展が無い理由がやっと理解できた。これはつまり……」
「いいや、進展はあったよ。少なくとも、三百回以上の地球降下作戦でこの場所を築けることが出来た」
「でも、それは間違っている! 分からないんですか、あれを見てもなお!」
「分からない訳では無いよ。落ち着き給え、さっきから心拍数が上がっているぞ」
「これが上がらない訳が……!」
「意味が分からないか?」
ノワールははっきりと言い放った。
「つまりこの戦争は、代理戦争に過ぎない。どちらかが勝とうが負けようが、意味が無い。相手もこちらも次の戦力を投入するだけ。どちらかが疲弊しきったらお終い。だから、言ったんだ。機械人形に感情をつけることは間違っている、と」