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Automata: Program.  作者: 巫 夏希
第一章
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第一話 レジスタンス①

 地球にも機械人形が居ない訳では無い。三百三十回もの降下作戦の結果、僅かに生き残った機械人形がレジスタンスと名乗って地球の一部を『奪還』した。彼らを、月面政府は『レジスタンス』と呼び協定を結んでいる。現に降下作戦の時には一部ではあるものの、エネルギータンクなどの物資を輸出することで関係を築いている。


「……とまあ、聞いた限りではこれぐらいの話ですが」


 レジスタンス、第一基地。その内側にある総司令室。

 そこには、白い髪の少女――正確には少女型機械人形が椅子に腰掛けていた。

 対して、それに向かい合うのは、同じく白い髪の少年型機械人形。その目は赤い目をしていた。そして服装も髪と同じく白い服に統一されている。

 対して、少女型機械人形は白い髪を目立たせているかのように、黒い服に身を包んでいた。要するに、彼らとは違うという意味を持たせているのかもしれない。


「レジスタンスについては、それぐらいの情報で理解して貰って構わない。それとも、何か必要な情報でもあるかね?」

「いいえ、特に」

「ところで、君の名前はなんと聞くべきかな? 2100号? それじゃ、呼びづらいのだけれど」

「シロ、と呼ばれています。あくまでも、仲間内で、ですが」

「シロ、ねえ。それは白い服を着ているから?」


 機械人形は、見分けが付くために服や髪などそれぞれ一部分が異なっている。

 2100号――彼は、白い髪で白い服だったから、シロと呼ばれていた。


「ならば、シロくん。……ふふ、こう言うと人間が昔飼っていたと言われている『犬』という動物に名前を呼んでいる気分になるね」

「馬鹿にされていますか?」

「いいや、別に。寧ろ馬鹿にしていると思っている時点で君も優秀なAIが搭載されているのだろうね」


 シロは問いかけに首を傾げる。


「……何のことでしょう? 何を言っているのか、さっぱり」

「私たちに入っているのはR-1000型。それに対して、君たちに入っているのはR-2000型、だ。型式番号が違うだけでも分かるとおり、若い番号であればある程、古いプログラムがインストールされている、ということになる。意味が分かるかね?」

「それは、勿論。R-2000型は2000番台から投入された新システムであることも」

「そうだったか。まあ、私にとっては、どうでもいい話ではあるがね。プログラムのアップデートデータは定期的に月から送られてくる訳だし」

「R-1000型でもアップデートプログラムはまだ適用されているのですか? もう数百年も前の昔に開発されたプログラムだと理解していますが」

「古いプログラムの機械人形でも、地球を奪還するための作戦の最前線に立っている訳だからね。少しぐらいは人間様に協力して貰っても悪い話では無いだろう?」

「人間様、ですか」


 シロは溜息を吐いた。


「人間のことをこう呼ぶのは私ぐらいだろうね。別に人間のことを嫌っている訳じゃない。そのようにプログラムされている訳ではないし、仮にそのプログラムが実行された瞬間、プログラムが修正を開始する。そのように我々は仕組まれているのだから。分かるかね? 言葉の意味が。分かるかね? 現象の理由を」

「つまり、機械人形も疲弊して考えが変わりつつある、と……?」

「どこまで言えばいいのやら。いずれにせよ、『疲弊』を感覚として感じているのは確かだ。人間がこの現場に居るなら一週間と持たないだろうね」

「それは……」


 トントン、とドアをノックする音が聞こえ、黒い服を着た少女型機械人形は笑みを浮かべる。


「おっと、どうやら、君の待っていた機械人形がやってきたようだよ」

「…………そのようですね」


 シロは振り返る。

 そこに立っていたのは、赤い髪の少女型機械人形。

 白いドレスに身を纏った『彼女』は、『彼』らを見て頭を下げる。


「私の名前は2089号。呼びづらいのなら、ローズと呼んで貰って構わない」

「あはは! どうやら最初から番号を呼びづらいと言っている機械人形が生まれ出している、とは聞いたことがあるけれど、まさかこんなところで出逢うとはね! 良いわ、良いわよ、あなた。私の名前は1455号。呼びづらいだろうから、ノワールと呼び給え。まあ、それをそう呼ぶかどうかは君たち次第だがね!」

「分かった、ノワール。それで、任務の続きを教えて欲しい」


 あっさりとノワールであることを受け入れたローズは、一歩前に出る。


「あなたたちにして貰うことは……そうね。今は、とある遺跡の調査、かな」

「遺跡?」


 シロは首を傾げる。

 ローズはそもそも何を言っているのかさっぱり、といった様子だったが、


「そう。遺跡だ。遺跡にはロマンがあるよお。どんなものがあるかさっぱり分からない! そうして、それが何があるか分からないということは何も無いことかもしれないし、何かあることかもしれない。それが一番素晴らしいことだというのだよ。しかしながら、残念なことにこれを理解して貰える機械人形は誰一人として居ないのだけれどね……」

「やはり、あなたはどこか変わっている」


 シロははっきりと言い放つ。

 うんうん、とローズも頷いた。


「ひどい言い草だなあ。出来ればもっと良いことを言って欲しいぐらいだけれど。だって、こちらは協力者だぞ? 協力してやっているのに、その言い方は無いだろ。……ま、感情を持つことを許されていない最新型機械人形には何を言ってもさっぱり、という話なのかもしれないけれどね」

「一言、訂正させて貰いたい」

「何が?」

「我々は感情を持つことを許されていないだけで、感情を持っていないとは言っていない」

「ああ、そんなことか。そんなことなら分かっているよ。それぐらい分からないと思っていたのかい?」


 ローズは何も言わなかった。

 ノワールは笑みを浮かべて、


「ま、いいさ。感情を持つ持たないは任務には関係の無いことだからね……。だから、遺跡の調査をよろしく頼むよ。今は人材が少なすぎる。多ければ多いほど良い。数をこなせればこなせるほど良い。その質が良ければ良いほど良い。意味が分かるかね? つまり少数精鋭だということだよ!」

「少数精鋭、ですか。それは、『救援を断ち切られた』という意味を成しているのでは?」

「そう言われても仕方ないのかもしれないけれど。でも、レジスタンスをまだ重要な意味に捉えているのは、未だ人類の考えでは無かったのかね?」

「それはそうですが……」


 シロは少しだけ慌てたような仕草を見せる。


「まあ、別に構わないよ。私としてはどうしようが構わない。ただ遺跡の調査をして貰えればそれで良いんだ。遺跡には旧文明の遺産がたくさんある。それをできる限り持ち帰って来て欲しい。まあ、どれぐらいになるかさっぱり分からないけれど。それではよろしく頼むよ。私はこれから色々と作戦の準備があるから会議をしなくてはならない。まったく、責任者とは困った物だよ」


 そうして。

 半ば強引にノワールとの会話を打ち切られるシロとローズだった。


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