(7)
ふた月近くが過ぎたある日のことだった。
昼休み、友人の戸川伸一と弁当をつつきながら雑談していた時だ。
脈略もなく不意に伸一が話題を振ってきた。
「そうそう、お前、三日月って憶えてる?」
伸一とは中三の時もクラスが同じだったので、こいつが綾のことを知っていてもおかしくは無い。だが俺と綾がここ最近、毎日のように電話で話していることは知らない筈だ。少なくとも俺は話していない。綾が話すとも思えない。
そこら辺もあって用心深く伸一の様子を探る。
まさかとは思うが、俺が毎夜話している綾はやっぱり別人で伸一の悪巧みだったのではないか、なんてことを一瞬考えた。
しかしまあ、こいつの性格を鑑みるに種明かしに二ヶ月をかけるほどの壮大な仕掛けを打つとは思えない。つまり単純な男なのだ。だからそれは一瞬頭をよぎりはしたが有り得ないことである。
けれども次の伸一の言葉は俺を謀ろうとしているようにしか聞こえなかった。
奴はこう言ったのだ。
「彼女、死んだんだってさ」
冗談にもなっていない妄言――、いや暴言である。おのずと不愉快になる。
「それは何の冗談だ」
憮然として俺は言った。
「冗談じゃ無いってばよ。美原から昨日聞いたんだ」
美原とは中三当時、クラス委員長だった奴だ。
ちなみに美原も伸一も俺とは小学校以来の仲である。もっともクラスが同じになることは希で、今は美原とは別クラスだし伸一と同じクラスになったのも小学校から数えてもまだ三回目だ。そして三人が一緒のクラスになったのは中三の時だけである。
美原は委員長気質で賢しい奴なのだが時々妙な戯れ言を言うヘンな一面も持っていた。
「まあ、彼女に妄言癖があるのは認めるが、あれはあくまでゲームってやつさ。悪意のある冗談を言うほど無神経な奴じゃ無い。で、三日月は先月だか先々月だかに亡くなったそうだ。あいつ焼香までしてきたっていうぜ」
特に感慨もなく伸一が言う。こいつは綾に関心が薄いからそれは仕方ない。しかし俺の方は冷静ではいられなかった。
「馬鹿馬鹿しい」
自然と声が大きくなる。不愉快だった。
伸一が驚いて俺を見た。
「なに? 俺、怒らせるようなこと言った?」
俺の機嫌が悪い理由を測りかねた様子である。もちろん理由を話すつもりは毛頭無い。だからそれ以降、俺は口を開かなかった。
「もしかして三日月のこと好きだったとか?」
そんな奴の軽口も無視してやった。




