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(4)

 ところで俺は端末の小さな画面で文字を入力するのは苦手だ。普段はほとんどメールの類は使わない。

「電話で話さないか?」と彼女に提案した。

 しかし拒否られてしまった。

『ごめん、今は喋れないんだ』

 そこでまた偽装疑惑が頭をもたげる。メールだと誰かが成り済ますことが出来るからな。

 そこら辺の胸中を察したのか、こちらが返事をする前に彼女から連続でメールが届く。

『じゃ、電話が出来そうな時に連絡するよ。またね』

 見事な引き際だった。

 やはり誰かの悪戯なんだろうか?

「またね」って所が次への展開を期待させるのだが、肩すかしを喰らって落ち込むのも嫌なので、ここは強引に誰かの悪戯だと思い込むことにした。しかしまあ、仮にこれが悪戯だったとしても醜態を見せるようなことはやってない筈だ。

(これは上手く切り抜けたと考えて良いのではないか?)なんてうそぶきつつ平静を装っていたのだけれど、その日の夜にスマホの呼び出し音が鳴ったのである。

「もしもし、三日月と申しますが登間利とまり君ですか?」

 礼儀正しく話す、澄んだ女の子の声だった。

 綾の声のような気もするし、別の誰かだと言われるとそんな気もする。元々綾は口数が少なかったし、俺も正確に声を憶えている訳じゃない。

 しかし少なくとも男の声で無いことは確かだった。それに俺をたぶらかそうとしている様子も無いように思える。

 考えてみれば、わざわざ俺を陥れるなんて酔狂に興じる女子なんぞ皆無なのだ。ヒマな野郎おとこならば居たかもしれないが、連中に女子の協力を仰げるほどの強者は居ないだろう。つまりそういう意味での悪戯の可能性は低いと考えることができるのではないか?

 やはり本物の三日月綾なんだろうか。

「え? 偽物の私がいるの?」

 いや、そういうわけではなく……。

「俺達、中学の頃はそれほど話した仲じゃないだろ。俺がスマホ持ったのも高校入ってからだしさ。だから三日月からメールだ電話だっていっても何だか信用できなくて」

「あ、ひどい。信用されてないんだ、私」

「文脈を読め! そうじゃなくて俺に連絡してきた理由が解らんと言ってるんだよ」

「そっか、なるほど。確かにいきなりだったかな。メールとか電話だけじゃ本当に私かも疑わしいよね。じゃあ近々写真を送るよ」

「へ?」

「写真送ったら本人に間違いないと分かるでしょ」

 や、だからそうではなく、俺なんかに連絡してきた理由が分からないと行ってるんだが。

「え? 写真でも疑うの?」

「……いや、もういい」

 説明するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。いや、本当の所は電話をもらった嬉しさに舞い上がっていたのかもしれない。

 しかし俺と三日月綾との十ヶ月ぶりのコンタクトは、まるで以前からの友達のようだった。

 俺にとっては奇跡に等しいことである。

 なぜなら俺は特定の相手を除いては気軽に話せるタイプの人間では無いのだ。きっと綾もそういう属性のやつなんだろうと思っていたのだが、話した限りでは割とフランクのようである。

 でも、それは俺の記憶に残っている中学生の綾のイメージとはリンクしない。

(何かが違う)そんな気がしたのは確かだった。

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