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画面を眺めながら俺は不審に思う。
(三日月からメール?)
名前には心当たりがあった。中学で同級生だった三日月綾だ。むしろ彼女のことは、はっきりと覚えていた。
「三日月」は普通に「みかづき」と読む。
名字が珍しかったことを差し引いても俺の中学校時代に於いて彼女は忘れることが出来ない存在なのである。
綾は病弱で口数も少なく目立たないタイプに属する女子だった。学校生活において「目立たない」のは致命的なことだ。恐らく当時の同級生の多くは転校してしまった彼女のことを詳しくは憶えていないだろう。
希薄な存在感が故に男子に人気があったかといえば微妙なのだが、冷静に評価すると実は彼女はかなりの器量モノだと俺は知っていた。
しっとりとした黒髪のミディヘアーの持ち主で、大きな瞳はいつも少し憂いているように見えた。綺麗な二重のまぶた、口角がやや上がった柔らかそうな肉厚の唇、一つ一つのパーツの均整が取れていて、全体的に品の良さを感じる顔立ちだ。
そして彼女は(ここが最も重要な点だ)ふくよかなバストの持ち主でもあった。
クラスで一番とは言わないまでも、三指に入るのは間違いない。普段はタイリボンで巧妙に隠していたから、そのことに気付いてる男子は少なかった筈だ。体操服や水着になれば一発で判明しただろうが、病弱の綾は体育の授業は見学ばかりだったからな。
どうして俺が彼女の胸の大きさなんてものを知っているのかって?
それは偶然にもその豊満なバストと接する機会があったからである。
あれは二年生の時、文化祭を間近に控えた頃だった。クラスの催し物の準備をしていた時に彼女が貧血だか何かで倒れかけ、偶然その場にいた俺が受け止めたのだ。
全身の力が抜けた人間というのは相当に重たい。俺自身倒れそうになりながらも、踏ん張って彼女をしっかりと抱きとめる格好になった。
今でも目を閉じれば(閉じずとも)あの時の感触をありありと思い出すことができる。俺の大胸筋に吸い付くように密着した、恐らくはスポーツブラに包まれていたであろう綾のおっぱいは、「ぷにっ」というか「むにゅ」という弾力で、俺がそれまで遭遇した何物にも有り得ないやわらかな感触だった。加えて綾の頭が俺の肩に乗っかって、うなじ辺りからは甘い香りが漂っていた。
それが「女の子特有の香り」なのか「三日月綾特有の香り」だったのかは知る由も無い。ともかく、もぎたての果物のような新鮮な甘い香りがしたのを憶えている。
その日を境に俺は綾を意識するようになった。
そして意識して見ると彼女はかなりの美少女だったのである。




