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VOL.06:5年後…(後編)

 かくしてみちるとちひろによる、翼のための簡易校内案内ツアーは始まった。まずは教室のある3階から1階へ下り、図工室や音楽室、図書室などがある特別教室棟――と言っても校舎から渡り廊下でつながれたプレハブ状の掘っ立て小屋、と言った方がしっくり来るような建物へ行き、各教室をざっと案内すると、次に校舎へ戻って2階にある職員室は通り過ぎ、隣にある校長室の前で立ち止まって小話――実は校長はヅラだった、そう話した瞬間に中から本人が出てきて慌てて逃げ出したりしながらも、3人は最後の場所――屋上へ続く扉の前へやってきていた。

「あれ、この先って屋上だよね? 屋上って、自由に出ていいの?」

 普通、中学や高校ならともかくとして小学校の屋上は閉鎖されていることが多い。翼が以前いた学校もそうだったのか、屋上の扉を開けようとしているみちるとちひろに訊ねた。

「うん、出れるよ。そっか、九崎くん、校舎の正面からしかこの学校を見てないから、屋上がどうなってるのか知らないんだね。まあ、見ればわかるよ」

 首を傾げる翼をよそに、みちるは屋上への扉を押しあけた。今日は朝から快晴だったので、てっきりまぶしいものだと思い込んで半ば目を閉じていた翼だったが、どうにも様子がおかしいので、しっかり目を開けて扉の向こうへ出てみた。

「あれ……? 屋上なのに、壁……?」

 翼はそこに広がっていた光景に、頭が混乱しそうだった。確かに自分たちは階段を最上階まで上がってきた。案内してくれた姉妹も屋上だと言っている。だが、そこにはガラスの屋根と壁で閉鎖された空間。太陽の光もガラスの屋根でだいぶ弱められていて、全くまぶしさはなかった。説明を求めるように姉妹の方を見ると、

「この部分は、校舎の裏側に位置していて、正面からだと完全に死角に入って見えない場所なの。で、屋根や壁がある理由なんだけど、元々は屋根なんてなくて、普通の学校みたいにフェンスがあるだけの開けた屋上だったみたいなんだけど、何年か前に不幸な事故が起こってからは、屋根と壁でふさいで、屋上庭園として扱うようになったの。ほら、窓もないから、これなら事故が起こる心配もないってことらしいわ」

 ちひろがこの“屋上庭園”について話すと、翼はようやく合点がいったようだった。

「なるほどね。ここが最後ってことは、あとは教室へ戻るだけだよね? ありがとう、真野さん。そろそろ、戻る?」

 翼は頷くと、みちるとちひろに礼を言って教室へ戻ろうとした。と、そのとき。

「待って。あたしたちがわざわざここを最後に選んだのには、理由(ワケ)があるのよ。ちょっと、誰もいない場所で話がしたかったの」

 ちひろが翼を呼び止め、いよいよ本題に入ろうとした。みちるが学級委員だからといって、わざわざ校内の案内を買って出たのは、こういう理由からだった。

「話? ぼくの顔に何かついてる?」

 翼は2人が何の話をしようとしているのか本当にわからないのか、それともトボけているのか、首を傾げて訊き返した。

「朝、自己紹介の時に“手品”と言ってたアレなんだけど、あれは手品じゃないんじゃない? 九崎くん、あなた一体何者なの?」

 ちひろがズバッと本題に切り込んだ。対する翼はさほど動揺した様子は見せずに、

「何者、って言われても、ぼくはぼくだよ。それとも、何? あれが手品じゃないっていう、何か確固たる証拠とかあるの?」

 翼は逆にちひろとみちるに詰め寄る格好になって問いかけた。

「確固たる証拠かどうかはわからないけれど、ひとつだけ言えることがあるわ。九崎くんが手品をやるって言って、その上着に右手を突っ込んだ瞬間、その右手がうっすら光ったのよ。おかしいわよね、手が光るなんて。ホタルとかじゃあるまいし」

 ちひろが勝ち誇ったように翼に言うと、

「ちぇっ、見えてたの? そう、あれは手品とは違うよ。真野さん、キミは魔法って信じる?」

 諦めたように首を振って手品じゃないことを明かすと、翼はちひろとみちるに訊ねてきた。

「魔法? おとぎ話とかに出てくるような、あの魔法?」

 ちひろはいきなり自分も魔法使いだとネタばらしするつもりはないのか、最初は普通の人っぽい演技をしてみることにした。

「そう。その魔法。ぼくの家は、何百年と続いている、魔法使いの家系なんだ」

 翼はどうやらちひろが演技をしていること、それを横で見ているみちるが笑いをこらえていることにも気づいてないのか、話を続けていた。

「ふーん、魔法ねぇ……」

 ちひろはあくまで普通の人っぽく、うさんくさそうな表情でつぶやき、みちるはもうそろそろ我慢できなくなって吹き出しそうなくらい表情が歪んでいた。

「やっぱり、信じられないかな。それじゃ、こんなんで、どう?」

 翼は軽く首を振ると、キョロキョロとあたりを見回し、花壇の小石を見つけると、ちひろに手渡し、自分に向けて思いきり投げるように言った。ちひろは驚いたが、自信がありそうな翼を見て頷くと、小石を受け取って腕を大きく振りかぶった。

「いくわよっ!」

 投擲された小石は、翼の顔面めがけて飛んで行き、直撃――しなかった。さっき教室でちひろが放った消しゴムのカケラと同じように、直撃寸前のところで、見えない何かにぶつかって勢いが衰え、そのまま落ちた。消しゴムと違って消滅しなかったのは、単純な材質の硬さの違いらしかった。

「どう? これで、少しは信じてもらえた?」

 何事もなかったかのように翼が訊ねると、ついにみちるがこらえきれずに吹き出してしまった。

「あははは! 私、もう我慢できない……! 九崎くんもお姉ちゃんも真剣そのものだから笑っちゃいけないと思ったけど、もう無理〜」

 みちるは床に座り込み、バンバンと床を叩きながら悶えていた。

「どうしたの? ぼく、何かおかしなこと言った?」

 事情が全く呑み込めず、目をしばたたかせながら訊ねる翼に、

「もう、みちるってば、笑ったらダメでしょうが。ごめんね、九崎くん。試すようなマネをしたりして。みちるが笑ったのは、決してあなたをバカにしたわけじゃないの。単に、あたしがいつまでも演技してるのがおかしかっただけなのよ」

 ちひろは嘆息して翼に謝った。

「演技?」

 まだ状況が呑み込めてないのか、翼はポカンとした表情のまま。

「九崎くん、魔法は必ずあるわ。だって、あたしやみちるもあなたと同じ、魔法使いの家系なんだもの」

 ついにネタばらししたちひろに、

「ええ――――っ!? そ、そうなの!?」

 翼は驚いて叫び、みちるのほうを見て訊ねると、みちるは無言で頷いた。

「ほら、この通り。うちも、確か何百年って続いている家系だって母さんが言ってたわね」

 ちひろは証拠を見せるように、自らの身体を浮かせてみせた。

「そうだったんだ……そりゃ、ぼくのことも見破れちゃうわけだよね。ところで、2人が魔法使いだってのはクラスの人たちは知ってるの?」

 ようやく納得いったように、ふう、と一息ついてから、翼は2人に訊ねた。

「ううん、みんなは知らないよ。一般人には極力知られないようにしなさいってお母さんに言われてるからね」

 みちるは首を振って否定した。

「そっか。じゃあ、このことはぼくたち3人だけの秘密ってことなんだね。どっちも真野さんじゃわかりにくいし、ちひろちゃん、とみちるちゃん、でいい?」

 翼は頷くと、2人の呼び方を再確認して、よろしく、と手を出した。

「うん、じゃああたしたちも翼くん、って呼ぶわね。よろしくね、翼くん!」

 2人も頷いてそれぞれ手を出し、3人は友情の証の握手をしたのだった。





 それから2年半後、小学校を卒業すると同時に翼は再び引越しでちひろとみちるの前から姿を消した。また、ちひろとみちる自身も、私立の女子校、松海学園(まつみがくえん)へ進学したので、仮に翼の引越しがなかったとしても、離れ離れになることは変わりなかったのだが――

これで完結です。

もっとも、この作品自体が「2」(仮)へのひとつの流れなので、「2」始動の際にはまた読んでいただければ、と思います。


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