VOL.04:バイバイ!
毎日のように一緒に遊び、5歳で幼稚園に通うようになってからは、より一層仲良しだったちひろ・みちる・峻佑の3人。しかし、ずっと一緒だと思っていた3人にも、別れは唐突に訪れるのだった。
きっかけは、とある日の真野家の夕食でのことだった。食べ終わったところで、俊之が突然口を開いた。
「長引いていた家の修繕が終わったみたいだから、近いうちに向こうの家へ戻ろうと思う」
どうやら、一家が住んでいた家の工事が終わったらしい。修繕のために真野家が竹崎に引っ越してきてから、1年半が過ぎていた。
「そう、ようやく終わったのね。ここの家も、ちょっと手狭なことを除けば悪くないと思っていたけど、やっぱりあっちの家のほうがのびのびとできそうね」
ちづるはひとつ頷くと、松海に戻る日が待ち遠しい様子で話した。
「ねえ、お父さん。向こうに戻るってことは、私の小学校や、ちひろたちの幼稚園はどうするの?」
うきうきと楽しそうな両親に、さとみが疑問をぶつけると、
「そうだな、幼稚園はともかく、小学校は松海から通うには遠いから、そっちへ転校することになるだろうな。友達と別れるのはつらいかもしれないけど、さとみはお姉さんだからわかってくれるよな?」
俊之はこともなげに話したが、転校という言葉を聞いて、明らかにさとみの表情が暗くなった。
しばらくの沈黙ののち、さとみが何かを思いついたのか、顔をあげた。
「ねえ、お母さん。私たちは魔法使いなんだから、ちょっと遠い場所でも、テレポートとかで通えば――」
さとみは興奮気味にちづるに提案しようとしたが、
「ダメよ。確かにさとみの言うとおり、わたしたちのチカラを使えば距離なんて無意味だけど、小学校は今まで通り公立のところに通わせるから、学区っていう制限がかかるのよ。クラスの他のお友達が学校の近くに住んでる中、さとみだけ遠くから、なんてことはできないの。それに、チカラを使うところを見られると後が大変でしょ? だから、その方法はダメ」
ちづるはさとみの言葉を遮って却下してしまい、さとみはガックリとうなだれた。
「まあ、いろいろと手続きもしないといけないし、引っ越しは今度の日曜にしようか。さとみたちは、それまでにお母さんと一緒に自分たちのお部屋を片付けて、仲のいいお友達とかには引っ越しをすることを話しておくんだよ」
俊之は少し考えると、引っ越しの日取りを決めて、さとみたちにも準備をするよう話した。
「はぁーい……」
さとみは少し不満げな顔をしていたが、どうにもならないと判断し、諦めて夕食の片づけを始めたのだった。
そして、あっという間に日は流れ、土曜日の夕方。ちひろとみちるは幼稚園が休みの今日、昼前から峻佑と一緒に近くの公園で遊んでいて、日が暮れてきたところで帰ってきた。すると、
「それじゃ、ちひろちゃん、みちるちゃん。またあしたね!」
姉妹の引越しの話を知らない峻佑は家に入る前に、姉妹とまた明日遊ぶ約束をしようとした。と、この言葉に、今まで言い出せなかった姉妹の決心が固まったらしく、
「しゅんすけくん!」
玄関のドアに手をかけていた峻佑をみちるが呼び止めた。
「なーに、みちるちゃん?」
峻佑はいったんドアから手を放し、姉妹のところへ戻ってきた。
「あのね、あしたはあそべないの。ううん、私たち、おひっこしすることになっちゃったから、きょうがさいごの日なの」
みちるは辛そうな顔をしながらも、ついに峻佑に別れを切り出した。
「そうなんだ……。わかった! あした、みおくりにいくね!」
みちるからの衝撃の告白に、峻佑は残念そうな顔をしたが、実感がわかないのか、それとも単に切り替えが早いのか、すぐに翌日見送りに行く話をし、その日は別れた。
そして、夜が明けた。
真野家の前には引っ越し用の大型トラックが止まり、荷物を積み込んでいる。そして、ほどなくすべての荷物が積み終わり、一家そろってその様子を見ていた峻佑のところへやってきた。
「1年半という短い時間でしたが、お世話になりました」
俊之が優佑にそう言って一礼すると、
「いえいえ、引っ越された先でもどうかお元気で」
優佑もペコペコと挨拶を返していた。
「ほら、ちひろ、みちる。これで当分は峻佑くんと会えなくなるから、行ってきなさい」
ちづるがちひろたちに峻佑と別れを済ませるよう促すと、
「しゅんすけくん……」
2人とも言葉にならないのか、峻佑の名を呼ぶだけだった。
「ちひろちゃん、みちるちゃん。きっと、きっとまたあえるよね?」
そんな2人の様子を見て、やっと峻佑にも別れの実感がわいたのか、峻佑のほうから動いて2人に訊ねた。
「うん……うん! きっと、きっとまた会おうね! あ、そうだ。しゅんすけくん、これ、あげる。これを私たちだと思ってもっていて。あと、またあうためのおまじないっ!」
峻佑の問いかけに、2人は頷くと、それぞれ腕につけていた小さなブレスレットを外して峻佑に手渡し、そのまま峻佑に近づくと、両側の頬に2人同時にキスをしたのだった。
「…………」
突然のキスに放心状態の峻佑から離れると、
「それじゃ、しゅんすけくん! バイバイ!」
2人はちづるたちのところへ駆けて行き、一家は先に出発した荷物のトラックを追いかけて車を発進させた。
「ばいばーい……」
峻佑はいまだぼーっとしたまま手を振っていた。その手に、もらったブレスレットを握り締めて。
あらすじに書いた『おさ☆まほ』の第1話、峻佑の夢のシーンの真相、いかがでした?
残り2話のZero、前後編で明後日更新。