VOL.02:チカラの目覚め
それは、ちひろとみちるが1歳になろうかという、ある晴れた昼下がりだった。その日、小学校から帰ってきたさとみは、母親のちづるに代わって、姉としてちひろとみちるの面倒を見ることを引きうけていた。ハイハイを覚え、部屋の中をあちこち動き回る2人を落ち着かせるため、さとみは2人にお気に入りのオモチャを持たせて遊ばせることにし、ちひろとみちる、それぞれにオモチャを手渡した。と、その直後、さとみは目を疑った。ちひろが自分に渡されたオモチャを宙に浮かべていたのだ。
「おっ、おかーさん! 大変、大変なのっ! ち、ちひろがっ!」
さとみはすぐさま部屋を飛び出して、隣の部屋にいるはずのちづるを呼びに行った。
「あらあら、さとみ。どうしたの、そんなに慌てて。ちひろがどうしたの?」
ちづるはさとみの慌てっぷりなど意に介さぬ様子でゆったりと訊ねた。だが、
「ち、ちひろが、魔法を使ったみたいなのっ!」
さとみのこの一言に、ちづるはさすがに驚いて、さとみとともにちひろたちが遊んでいる隣の部屋へ向かった。すると――
「これは……想像以上ね。わたしの娘だから、それなりのチカラはあると思っていたけど……。まさかこんなに早くチカラに目覚めるなんてね」
ちづるが部屋に入ると、なんとちひろだけでなく、みちるも自分のオモチャを宙に浮かべて遊んでいた。さらに、どっちがやっているのかはわからないが、床に転がっていた他のオモチャも、ふわふわと部屋の中で浮かんでいた。
「これって、もしかして私以上にチカラが強いってことなのかな、おかーさん?」
さとみはなんとなく面白くなさそうな表情でちづるの裾を引いて訊ねた。
「そうね、たぶん、ちひろやみちるのほうが総合的には上だと思うわ。でもね、さとみ。あなただって、決してチカラが弱いわけじゃないわ。それだけは忘れないでいて。それに、まださとみだって7歳になったばかりで、成長途中なのよ? もちろん、ちひろやみちるだって成長はするけど、いろいろある魔法の系統、どれが得意になるかはまだわからないの。わからないけれど、集中的に練習することで、得意分野を伸ばし、苦手を克服することもできる。だから、今は強いとか弱いとか、気にしなくていいのよ」
ちづるは、さとみを抱きしめながらそう言って諭した。
「うん、わかった! 私、いっぱい練習する!」
さとみは笑顔を取り戻し、力いっぱいに宣言した。
「それじゃ、さとみ。ちひろとみちるをこのまま放っておくと、外を歩いている人に魔法を見られてしまうかもしれないわ。だから、止めるわよ。お姉さんなら、できるわよね?」
ちづるは、力強く宣言したさとみを立たせると、未だにオモチャを浮かべて遊んでいるちひろとみちるを止めるよう言い聞かせた。
「うん! 私、お姉さんだもん!」
さとみは、大きく頷くと、ちひろやみちるが浮かべているオモチャに指先を向けると、簡単な風を起こす魔法を放ち、次々と撃ち落としていった。
「あー、うー」
しかし、いきなりオモチャを取られた赤ん坊2人が黙っているわけもない。唸り声を上げると、2人の小さな手が光り始めた。
「えっ――」
さとみが2人の手から発せられる光に気づいて声を上げた時には、その光は小さいながらも立派な攻撃魔法として、さとみに向けて放たれていた。
「さとみっ!」
だが、その魔法はさとみに当たることなく、さとみの前で霧散した。ちづるが、すんでのところで防御障壁を張って止めたのだ。
「お、おかーさん……」
さとみは、まさかの展開に言葉を失ってちづるに泣きついた。そして、平然と攻撃魔法を放ってみせたちひろとみちるはというと、
「すー、すー」
どうやら今の攻撃魔法で疲れてしまったようで、その場に転がって眠ってしまっていた。
「この子たち、どこまで規格外の能力を持ってるのかしら……? 弱冠1歳にして攻撃魔法を放つなんて、ね。さとみ、怖い思いさせてごめんね」
ちづるは再びさとみを抱きしめてあやすと、眠ってしまったちひろとみちるをベッドへ寝かしつけたのだった。