VOL.01:はじまりの日
初めての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです。
今作は、長編連載作品“おさ☆まほ”こと、「幼なじみは☆魔法使い!?」で語られることのなかった彼らの知られざる過去が描かれます。
なので、そちらを知らなくてもある程度楽しめるとは思いますが、本編を序盤だけでも読んでおいてからこちらを読んでいただくと、もっとお楽しみいただけるかと思います。
――オギャア、オギャア……
19XX年7月7日、とある病院で新たな命が誕生した。
「おめでとうございます。とても元気な女の子の双子ですよ」
生まれたばかりの双子を抱き上げた2人の看護師が、ゆっくりと赤子を母親と、出産に立ち会っていた父親に抱かせた。
「ちづる、よく頑張ったな。ありがとう、今回も無事に産んでくれて。もちろん、お前たちもな」
双子の父親、俊之は目を細めて妻と生まれた双子に囁いた。今回も、と言ったのは、彼ら夫婦にはすでに6歳になる長女がいたからだった。
「そうそう、名前を決めてやらないとな。ちづる、2人ともキミによく似ているから、キミが名前をつけてやってほしい」
俊之は、元気に泣き続ける双子をベッドに寝かせてやると、ちづるに双子の名付けを一任すると言った。
「そうね、さとみの時はあなたがつけてあげたのよね。1人目は自分がつけたいんだって譲らなかったわよね。そうね……じゃあ、わたしから一字ずつとって、ちひろとみちる――お姉さんにあたる方がちひろで、こっちの妹の方がみちる。これでどうかしら?」
ちづるは、長女――さとみのときのことを思い出してクスリと笑うと、少し考えるそぶりを見せてから、双子の姉妹の名前を俊之に話した。
「うん、すごくいいと思うよ。きっとキミに似て、将来はかわいい女の子に育つだろうね」
俊之が大きく頷きながら言うと、
「あら、あなた? そんな言い方すると、さとみが将来可愛くならないように聞こえるわよ?」
ちづるは俊之の発言が気に食わなかったのか、ちょっとだけ彼をからかうように問いかけてみた。
「いや、そういうつもりじゃ……って、また僕をからかってオモチャにしようとしてるな? 大丈夫、さとみは目もとこそ僕に似ているけど、全体的にはキミの美人の遺伝子を受け継いでいるんだから、心配はいらないよ。さとみもちひろもみちるも、みんなきっと可愛く育つさ」
俊之は一瞬うろたえたが、ちづるがニヤニヤと笑っているのに気づいて、落ちつきを取り戻すと、ちづるの長い髪を撫でながら、そう断言した。
「ちぇっ、今回はすぐ気付いちゃったか。でも、そうね、わたしの願いは、3人とも元気に育ってくれること、かな。たぶん、ちひろもみちるも、わたしのチカラ、受け継いでくれてると思うから、物心ついたらちゃんと教えないといけないけど、それさえやっておけば、多少の困難は回避できるわ。ちょっとやそっとでチカラに頼るような子には絶対しないけれど」
ちづるはペロリと軽く舌を出して茶目っ気を出すと、真面目な顔になってそう呟いた。現在、この病院の新生児室は彼ら――真野家しかいないので、あまり大きな声を出さなければ、今のちづるのようにおおっぴらにはできない話もできるようだ。
「ちひろとみちるが、魔法使いたるキミのチカラを受け継いでいることは十中八九間違いはないと思う。だって、キミは何百年と続く魔法使いの家系の中でも、何世代かに1人いるかいないかの、強いチカラの持ち主なんだろう? 魔法使いじゃない僕にはその辺の話はよくわからないけれど、ただでさえそういう不思議なチカラを持つ者の遺伝子って、ただの人間の僕よりは優位に立ってると思うんだ。ほら、中学校の理科で“優性遺伝の法則”って習っただろう? アレと全く同じに考えるわけにもいかないだろうけど、ある程度は似せて考えていいと思うんだ。だから、きっとちひろやみちるにも、キミのチカラは受け継がれてるさ」
俊之もそういった状況を理解した上で、わざわざ理科的な話まで持ち出して、ちづるの不安を消そうとした。
「クスッ……ありがと、あなた。ん……やっぱり、ちょっと疲れた、かな。わたし、少し寝るわね。あなたも、昨日からわたしにつきっきりで疲れたでしょう? わたしは大丈夫だから、一度家に帰って休んでいらっしゃいよ。お祖母さまに面倒を見てもらっているさとみのほうも見てきてほしいし、ね」
ちづるは力説する俊之が面白かったのか、軽く笑うと、ベッドに横になって休む体勢に入った。俊之にも休むよう言うと、自らに眠りの魔法をかけて、瞳を閉じた。
「おやすみ、ちづる」
俊之は、眠るちづるに一言言い残すと、新生児室を後にしたのだった。
同じ日、隣町の市立病院で、峻佑という名の男児が誕生した。初めての子宝に夫婦は喜び、その日のうちに赤飯が炊かれて病院に届けられた。
峻佑と、ちひろ、みちるの双子の姉妹。同じ日に生まれたこの3人がいずれ出会うのは、偶然か、それとも運命か――
それは、まだ誰にも――そう、魔法使いのちづるでさえも知る由のないこと。
本編はコメディでやってましたが、この過去編はちょっとコメディ的な要素は薄いので、ジャンルをその他でやっていきたいと思います。