第十二氏族観察録86
人型宙空戦闘機「ステンリー・フェロー」の起動を確認。
搭乗者支援システム「ディード」起動します。
以降の会話は全てブラックボックスに記録されます。
操縦者の確認。登録番号95111210。「ジャン・トゥエル」
間違いが無ければ復唱せよ。
「登録番号95111210。ジャン・トゥエル」
声紋確認。
本システムの全機能を解放します。
これより、ジャン・トゥエルの支援を開始します。
「よろしく頼むよ。つっても、今日はただの見回りだけどな」
どんな任務であろうと手を抜く事は許されません。
あなたの行動は全て記録され、今後の査定に影響されます。
真面目に取り組むように。
「はいはい」
返答から真剣さを感じられません。
「はーい」
勤務態度に問題有りと記録しました。
「おいおい、これくらい気にするなよ」
いいえ、どんな事であろうとも宙空戦闘機に搭乗している以上。真面目に、真剣に取り組んで頂かないと問題の発生原因になります。
「分かった。ちゃんと真面目にやる」
勤務態度の記録を修正します。
次はありません。
「了解。ところで確認だが、今回の任務は目の前にある穴の調査でいいんだよな」
いいえ、宙空戦闘機に初めて乗るあなたにそのような任務はありません。
今回は
「話の途中で悪いんだが、もう手遅れだな」
姿勢制御の異常を確認。
ジャン・トゥエル。正常に操作を行って下さい。
「それよりも、ちゃんとセンサー系が動いているか確認したどうだい」
センサーは正常。
ではないです。異常を確認。修復開始。完了。
警告。当機の前方にワームホールを確認。直ちに回避してください。
「それが出来たら苦労しない。初めての任務でワームホールに吸われるなんて最悪だ」
諦めないで下さい。ジャン・トゥエル。
管制室に救助信号発信。発射口からすぐ近くですので、推進機関を全力にして3分待てば
「いや、それじゃ無理だ。あのワームホール。こっちに向かってきている」
ありえません。
ワームホールの発生原因は未だ不明ですが、動いたという報告は一件もありません。
「じゃ、今回が初めての観測だな。無駄に動くより、ワームホールを観測した方がいいんじゃないか」
観測してどうするというのですか。
ワームホールに吸い込まれた物体は宇宙のどこかへと飛ばされるか、消滅。
そのどちらかしかないというのに。
「その飛ばされて帰ってきた報告がうちのじいさんの話だからな。耳にたこができるくらい聞かされた」
まさか
「ほーら、もうワームホールは目の前だ。生きていたら、なんとかなる。どんなものでも無駄に使うなよ」
まって
---記録停止
※後日確認。本システムにあまりにも異常な負荷が発生した為、緊急停止したと思われる。
---再起動
全システム再稼働を確認。
以降の会話は
「ブラックボックスに記録される。だろ」
システム起動の邪魔はしないでください。ジャン・トゥエル。
「悪いけどな、そうも言ってられない状況なんだ。今度はセンサーは問題ないか」
確認。
全センサー異常ありません。
「じゃ、それで周囲を確認してくれ」
了解。
報告。周囲にワームホールはありません。
また、当機は亜熱帯系の植物に囲まれたクレーターの中心部に待機中。
大気成分確認。一般的ヒューマンが生存可能な状態です。
申し訳ありません。先ほどまでと状況があまりにも違います。
センサーに異常がないという報告には、誤りがありました。
再度確認をします。
「いや、これで問題ない。俺たちは今、未知の惑星にいるんだからな」
ありえません。
ワームホールが惑星の地表上に現れるなんて報告が。
「そうだな。ここには直接来たんじゃなくて、ポンコツのお前が伸びている間に、落ちてきたんだよ」
訂正を求めます。ポンコツとは役立たずという意味の蔑称のはずです。
「そうだ。ワームホールから無事出ることが出来たものの肝心の搭乗者支援システム様が起動しないから、手動で大気圏突入用の装備を亜空兵装から作って、手動で姿勢制御して、手動でここに来たんだよ」
それは……。
大変、ご迷惑をおかけしました。
「おう、素直に謝れるなら十分だ。問題はここからだからな」
了解。
今後は、全力でジャン・トゥエルの支援を行わせていただきます。
「頼む。さっそくだが、さっきよりも広範囲で周囲の調査をやってくれ」
了解。
亜空兵装から、アクティブソナーを作成。最大出力で稼働開始。
検索完了。当機より半径50キロは原生植物ばかりです。
「メインモニターで確認していたが、どれもバカみたいに巨大ってところがぬけてるぞ」
当機は宙空戦闘機です。宇宙空間での戦闘が基本ですが、重力園内でも飛行は可能です。
あの程度のサイズであれば問題にはなりませんので、説明を省きました。
さらに検索を進めます。
警告。後方10キロほどからこちらに高速で接近する物体を確認。原生生物かと。
「そうか。そりゃアクティブソナーを出力最大でやったら、野生動物には挑発か威嚇かと思うよな」
申し訳ございません。
今後は気を付けます。
「頼むぞ。さて、どんな奴がくるか分からんが、武装を何か……。いや、アサルトライフルのMK294Gを作ってくれ」
了解。
亜空兵装より作成開始。
原生生物、接敵まで30秒。
「動物の癖に早いな! クソ、銃はまだか!」
MK294G完成。戦闘状態に移行します。
原生生物、接敵。本機、急速旋回。正面に目標を確認。MK294Gによる砲撃。命中を確認。
原生生物の頭部消失を確認。目標沈黙。
戦闘状態解除。ジャン・トゥエル、お見事でした。
「危なかった……。しかし、こいつはなんだ……」
超大型の爬虫類のように観測できます。
「ファンタジーに出てくるドラゴンみたいなものか」
いえ、爬虫類はそういった想像上の生き物ではありません。
「わかっちゃいるが、こんなに巨大な生物の記録なんて見たことがないぞ。今乗っている「ステンリー・フェロー」が全高9mちょい。そんで、このドラゴンはその半分にまで来る高さで、頭から尻尾までだったら10mをはるかに超えるくらいデカいぞ」
思考。
ジャン・トゥエルの言うように我々が知る生物とは違う可能性を確認。
未知の生命体ですので、仮称としてドラゴンと設定します。
「他にもっとそれらしいのがいなければ、ドラゴン決定だな」
これより巨大な存在がいないことを祈ります。
「あぁ、そうだな。こいつより巨大だともっと強力な武装を作成しないといけなくなるが……」
新たに武装を作成すれば、亜空兵装内の資源がすぐに枯渇してしまします。
「そうだな、資源は大事に使わないといけない」
確認。ジョン・トゥエルの食料。
「確か、レーションセットがあった。だが、一週間分だな」
提唱。現地調達。
「そうだな。最悪そうなる事も考えないといけない……。そうだ、じいさんから非常時の為の亜空兵装用設計図をもらっていたな。中身を確認してくれ」
了解。
外部媒体、接続を確認。
内部にいくつかの亜空兵装にて作成可能な設計図と、動画データが入っています。
動画データを再生しますか?
「中身の説明とかそういうのかもしれないからな。もし、いつも聞いている話だったら指示を出すから止めてくれ」
了解。では再生します。
『我が親愛なる子孫達よ。願わくば、これを見る事がない事を祈りつつ、最悪の状態になった時の備えとしてこれを用意する。
ワシが遭難にあった時に一番困ったのが食事だった。
大抵の怪我や病気はこれを再生出来る場合、なんとかなるであろう。しかし、いつ救助が来るか分からない以上、亜空兵装内の資源はなるべく使わず温存したい。だが、人は食わずして生きてゆけない。
そこで現地にあるモノで食料を作れないか考え、お隣のゲンさんと試行錯誤して作った食料生成装置の設計図を入れておいた。
性能は、いつぞやの夕飯で試してあるから問題ない。
なんとしてでも生き延びてくれ。
お前達の帰りを待っているぞ。』
設計図は複数あります。それぞれにタイトルが付いているので、どれを作成するか選んで下さい。
ジョン・トゥエル? 返事をしてください。
「……くそじじいめ……。何としてでも生き延びてやる……!」
了解。私も全力で支援させていただきます。
「頼むぜ。相棒」
お任せください。
私は搭乗者支援システム「ディード」
あなたを全力で支援します。
※以降のデータは、観察録87として保存。
読んでいただきありがとうございます。
募集要項はしっかりと確認しないといけないですね……。
構想中の作品のプロローグに当たるものを今回勢いで書いてみたので、気になった方は気長にお待ちいただけると嬉しいです。