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詩集♡季映(ときばえ)  作者: 詩織
31/170

呆け町一丁目


さっきまで、そこに当たり前に立っていた人が

居なくって



さっきまで、温かい湯気がのぼってた台所が

冷たくそこにあるだけ、



過ぎし日の陽の光を七色に染め



浮かび上がる思い出たち。










こんなところに、ほんとうに?

人が住んでいるのかと、

くねくね曲がった山道を

進んだ外れの田舎道

ぽっかりひらけた山奥に

小さな集落ありまして

婆ちゃん猫とおりました。




過疎地も過疎地のど田舎で、

携帯電話も圏外で、

陸の孤島のそのまた向こう

それでも昔は住人も

友も沢山おりまして、

毎日、楽しく日が暮れた。



地方に嫁いだむすめらも

子どもら連れて遥々(はるばる)と

ぎょうさん土産を持って来て、

上や下への大騒ぎ。



うどんをって、

豚足しゃぶって

ぼた餅こしゃって、

バーベキュー



河原でバシャバシャ水浴び

めてぇねぇ~」



あぶに刺されて、

西瓜を食って、

種を飛ばして、

「うんまいねぇ~」




ほたるを狩って、

蚊帳かやを吊って、


闇にゆらゆら蛍火の


ねんねんころりの子守唄


遊び疲れて安らかな


寝息をたてる子どもらの


寝顔が


ほんに愛おしい………




[今ハ昔ノmonogatari。]











わたしもいささか年を取り、

少し歩くと足腰が

痛くて辛くて接骨医。



町に繋がる命綱

村営バスも統合で

市営バスと名を変えて

朝と夕との2本だけ

便利になるかと思いきや

どうにか存続してるだけ。



病院帰りの昼ランチ

馴染みのすし屋も出来ました。

サラダに小鉢にうどん、寿司

食後におまけのコーヒーで、

1000円プラス消費税



月に1度の贅沢に

クロにも刺身をおみやげに

まぐろのブツを何切れか

買って帰れば猫、笑う

「ばあにゃん、ばあにゃん、

おいちぃねぇ~」




夕方までの暇つぶし

スーパーの中ウロウロと

行く当てなしの徘徊に

万引きやもと怪しまれ

時間もそうそう潰せずに

表に出たらばお日さんが

否応なしに降りそそぐ

日陰を求めて座り込み

ひたすらバスの時間まで

………うとうと、

うとうと舟を



[今ハ昔ノmonogatari。]







隣もとうに引っ越して、

前も後も引っ越して、

友も前歯の欠けるよう

ひとり、ふたりと旅立って

カランコロンのすっからかん♪

人もまばらに為りにけり




此の上クロでも居なければ

ひとり暮らしも寂しいが

猫はこころの糧に成り

どこへ行くにも着いてくる

「ばあにゃん、ばあにゃん、

どこいくの?」


犬畜生でも慰めの


大事な大事な宝物。



猫に心配してもらい

何かしなけりゃいけないと

思い立ったが百年目、

弱音も吐きたい年だけど

成らぬ堪忍やせ我慢。




そうだ!あのの好物を

作って送ってやったなら

きっと、電話があるかもと、

とうきびたんと蒔いてみる。


ついで、ついでに夏野菜

トマトときゅうりも植えました。





さあ、さあ、いよいよ収穫日

思ったよりもよく出来て

形の悪い物を抜き

あのの喜ぶ顔、浮かべ

あれやこれ、楽しい荷を造り

知人を頼んで宅急便

出しに行って貰います。



もちろんタダではありません。

「気持ちだけど」と、ガソリン代

「気持ちだけど」と、手間賃を、

「気持ちだけど」と、1万円。



「いつも、悪りぃねぇ~

、、、遠慮なく、」



もちろん、もちろん、この人が、

非道な訳ではありませぬ。



ここから、一番近い町までは

車でだいたい40分

往復だいたいわかるよね?

ひいふうみいよー、指、足りぬ



山奥だから、しょうがない

車に乗れなきゃ人頼み、

いつでも、なんでも、してくれる

暇人男も貴重品、

保険代込1万円。



[今ハ昔ノmonogatari。]



[今ハ昔ノmonogatari。]







期日指定の宅配便

仕事をしている娘の休み

昨日は必ず着いてるはずと

朝も早よから電話番。

クロも一緒に電話番。


(ジリリリ、ジリリリ………♪)黒電話



プッシュホンとはなんぞや?世代


待ちに待った娘の電話

慌てて出たらみっともない、


ジリリリ1回、ジリリリ2回ジリリr3回


もう、いいか?


呼吸を整え余所行きの

ワントーン高い声を出し


「はい、もしもし、どちらさま?」


電話のむこうにいるわが子

分かっているけどなんとなく

待ってなかった振りもして、



「あ、、、間違いましたごめんなさい。」



間違い電話にがっかりし








宵闇せまって日が暮れる









となりに坐った猫が鳴く

「ばあにゃん、ばあにゃん、

ごあ~ん、ごあ~ん」






そうだね、ご飯にしようね





クロや、













諦めかけたその時に

電話のベルがジリリリ♪


「母さん?」


「アッ、お前、着いたかい?」


「着いた、着いた、なあに、あれ?」


「母さん、野菜なんかこっちにだって

売ってるのよ?」


「こんなもん作って 

後で体が怖いなんて言わないでよね、」


「それにね、絶対、買った方が安いって、」


「無理しないでノンビリしててよ、

今、母さんが具合が悪くなったって

行ってやれないんだから、」


「アッ、うちの人に変わる」


「あっ、お母さんご無沙汰してます。

野菜ありがとうございました。

でも、お母さん無理しないでくださいね~

お年なんですから」

「じゃあ、ウチのに代わります。」



笑いながら、淋しそうに

ばあさんは電話口の娘に言いました。


「ん、わかってる、わかってる、


でも、お前 好きだっただろ?


とうみぎ、」



電話のむこうで娘の声が聞こえます。


「えっ?ああ、違う、違う、今行くから

待ってて、母さん、ごめん忙しいから

またね、とにかくもう野菜いらないから、」



(ガチャン!………ツーツーツー………)




[今ハ昔ノmonogatari。]






若いもんは山奥に残してきた

親や祖母を省みず

自分たちのことで精一杯でした。


便りがないのは元気な証拠と


故郷は遠くにありて思うものと







そんな、ある日。

だるまさんが転んだ♪

(ち、ちなう)))))))



ばあにゃんが転んだんだ、




若い時は


今が永遠に続くと


思っていたけれど


当たり前に


出来てたことが


悲しいかな


加齢と共に出来なくなることを


ばあにゃんも


家を出て行った家族も


計算していなかった。


転んだばあにゃんは


慣れない病院生活で


あっという間に

【呆け町】の一丁目、


それでも 家族は


ばあにゃんの

呆け町行きを信じなかった。


(気づきたくなかったのかもしれない。)


ひとり暮らしで

ボクと気儘に生活してた

ばあにゃんの初めての病院暮らしは


折った骨より



手術した脚より



心が痛かった



[年寄り殺すにゃ刃物は要らぬ]


[環境変えればイチコロだ。]





入院生活の中


ばあちゃんは


少しずつ


少しずつ


壊れて行った



呆け町2丁目、3丁目と


引っ越して



だんだん、

知り合いがいなくなったころ


とうとう自分のことも

忘れてしまった。


でもね、

ばあちゃんはぬいぐるみを

抱いてるときは

優しい昔のばあにゃんに戻ります。




クロが待ってることは

忘れていないのかもしれません。




そして、


クロも今でも待っています。


ばあにゃんの帰りを、


『ばあにゃん、ばあにゃん、


ごあ~ん、ごあ~んまだー?』




今、現在のmonogatari。


挿絵(By みてみん)

クロ


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