大人色
いろんな色を好きになった
小さい頃は よく転ぶ子どもだったらしく
いつもズボンを穿かされていたせいか
明るい色が好きだった。
三月三日のひな祭り
真っ赤な段々 緋毛氈
きれいなべべ着たお雛さま
こんもり盛られた「ひなあられ」
ほのかに香る 桃の花
憧れの女の子らしい
やさしく可愛い桜色。
思春期はコバルト・ブルーを好んだ
人と群れることを嫌い生意気な女の子だった
分かりもしない難しい本を小脇に抱え
少し背伸びをして画集を読み漁った頃
コバルト・ブルーはルノアールが好んで使った色だと知った。
”『セーヌ川の舟遊び』で明るい川の水を、
淡い緑色の上に純粋なコバルト・ブルーで………”
その解説の言葉の響きがかっこよく
ルノアールの描く色が心に沁みて
ひとり、美術館に通った。
しんと静かな海の底のような空気が漂う
あの場所に身を置くことが、
ただ…心地よかっただけかもしれない。
眠らない魚がゆったり泳ぐコバルト・ブルーの海の底。
やがて恋をして心惹かれたのが茶色だった
可愛い色ではない
特にきれいな色でもない
でも、なんだか大人っぽい
あのころ、何をもって大人と思ったのか、
今は、さだかではないが、
想いを馳せれば 心はセピア色にくゆる。
あの季、あの人と……
初デートで飲んだダージリンの琥珀色。
そういえば余談ですが、
贅沢禁止令の敷かれた江戸の町で
人々は茶や鼠色で質素を装ったとか、
だけど色見本帳をたどってみると
その種類は「四十八茶百鼠」といわれています。
一つとして同じものはなく無限に広がる茶や鼠は
幕府の目をくらまして人々の暮らしに彩りを添えました。
何故、茶色だったのだろう…
茶は大地の色
大地は全ての土台
茶である大地が終わりなき生命の連鎖を生み
すべてを抱き すべてを育む
実は強くやさしい色であるから
私も大人色だと感じたのかもしれない。
あれから、歳を重ね
私はどんな大人になれたのだろうか。
私は今、どんな色をしているだろうか。