思いがけない力
子どもの頃、
中仙道沿いのアパートに住んでいて
大通りから
鉄工場と畳屋さんの間の道を入ると、
畳屋さんの仕事場が見える。
開け放しのガラス戸の向こうから
藺草の青々しい いい匂いがして
いつも、おじちゃんが畳の縁に腰かけて
長い針で畳の耳を縫っていた。
学校帰り、毎日そこへ寄って、
しゃがみこんで見てると
おじちゃんが気がついて、
「おかえりっ、ふうちゃん。」って、
にこにこ顔で言ってくれるんだぁ
「はい、ただいまぁ♪」て、言うと、
「ちゃんと、宿題しいやぁ」って
頭、なでなでしてくれて
「へへへ♪」
ちょっと、うれしい。
アメちゃんもろて、
おじちゃんに「バイバイ♪」して
少し行くと、
鉄工場の作業場があって、
そこは真っ黒な油のにおいと
スッパイような鉄の焼けた臭いがして、
鉄の仮面をつけた人が「ジジジジジッ、」
「パチパチパチッ」と、火花を飛ばして、
鉄に穴を開けたりしててな~
遠くから見てると
花火みたいできれえ~
「わぁ~♪」
ほんとは もっとそばで見たいんやけど、
ここのオジさん、おっかないから、、、
「ほらほら、危ないから、ダメだよ!」って、
ウチのこと、
「シッシッ、シッ!」って、猫みたいに追い立てて
怒るんやもん………。
学校からなー 帰っても、誰もおらんの、
おかあちゃんはお仕事やしな、
おとうちゃんは死んじゃったん、
まいにち、お留守番やわ~
でもなー
今日は、婆ちゃんが来るんやで~
いっぱい、いっぱい、お泊りしてくんやて~
うれしいな~
なにしようかな~
ばあちゃんと~
「へへへ♪」
おかあちゃんが帰って来るまでに
ばあちゃんがオフロいこって、
アパートにオフロないからお風呂屋さん行ったんね。
お風呂屋さん、ばあちゃん行くん初めてだから教えてやんなくちゃっ、
って、
気負いもあったと思う、、、
ばあちゃん、お風呂屋さん、ここ!
で、クツ脱いでな~ フダ取るん、
したらな~ガラガラって、
少し重いここ(引き戸)開けて、
お風呂屋さんのオバちゃんが
「いらっしゃ~い」って、言ったら
ここに、
「こんばんわぁ~」って、
お金おくんな、
ウチは70円でぇ
ばあちゃんはおとなだから、
うーんと、いくらなんかな~?
「オバちゃん、おとなはいくらですか?」
「あゝ、こんばんわぁ、」
「ふうちゃん、おとなは295円や」
「きょうは、ばあちゃんと一緒!」
「そうなんや~、よかったねー」
「へへへ♪」
ロッカー決めて、
お金、あとで帰って来るけど
50円入れるんね
でな~、ロッカーは、
出口に近いと寒いんよ、
真ん中やと混んでくると
子どもは邪魔なるから
端っこの真ん中、ここ、17番。
いつもここんとこ、
「そっか~、なんでも出来るんやな~」
「ふう子、偉いなー」
「へへへ♪」
お風呂入る前に、体 洗って、
汚れ落として、
入るんがおやくそくでな~
それから、湯船。
お風呂屋さんには
大人用の熱い湯船と、
子ども用のぬるい湯船があって、
いつもなら子ども用に入るんやけど
その日は、ばあちゃんと一緒に入りたくて
大人用の湯船に入ったん、
大人用の湯船でも遅い時間なら
そんなに熱くないんを知っていたから、
足、つけたら
そんなに熱くなくて、
「ふうこ、熱いで?」って、
ばあちゃんは言ってたけど、
「このぐらい、いつも入ってるわぁ、」って、
言っちゃった手前、
もう入るしかない、、、
入るしかないけど、
温度計見たら44℃やがな~
(ヒェー、、、(汗))))
(イヤ、見んかったし、)
(入れる!!)
(わたしは、やれる!)
心で思ったん
強く、強く、思った。
(えいぃぃぃ!!!)って、入った。
したらな~
不思議なんやけど、
入っちゃったら、
熱くないんやわー
ちーっとも、熱くない。
なんでかは、
いまだにわからへんのやけど
もしかすると、
あれが、
『心頭滅却すれば熱さを忘れる』
て、やつじゃないかと思ってる。
なんていうのかな~?
これは、
知ってる方いたら教えてください。