誘惑
先刻三千代が提げて這入て来た百合の花が、
依然として洋卓の上に載っている。
甘たるい強い香が二人の間に立ちつつあった。
代助はこの重苦しい刺激を鼻の先に置くことに堪えなかった。
けれど無断で、取り除ける程、
三千代に対して思い切った振る舞いが出来なかったのだ。
「この花はどうしたんです。」
「買って来たんですか」と聞いた。
三千代は黙って首肯いた。
そうして、
「好い香りでしょう」と云って、
自分の鼻を 瓣の傍まで持って来て、
ふんと嗅いで見せた。
夏目漱石著;「それから」より
白百合は、
生娘の純潔をあらわし
人妻なれば
貞操の美徳のシンボルと、
信仰の世界ではされている。
その、翳のない白さと
その、優美な気高さに
その、役目を与えたもうたとしても
不思議ではない………。
しかし、香りといえば
官能的な妖しさを秘めてはいまいか、
「好い香りでしょう」といって、
瓣に自分の鼻さきをつけた
振る舞いは、
芳醇な色香を漂わせていたに違いあるまい。
部屋を満たす甘い香りが、
向かい合った二人を包むとき、
白百合の花は
彼女に誠の愛を生きよと告げるのであろう。
なんていうんだろー
今なら、理解できることって、あるもんやね~
ふふふ♪