九。イケニエ
今日もこれから難しい授業を受けて勉強することになる憂鬱な朝。
それは、本来ならドナドナ気分で校舎の門をくぐることになります。
ですが、このプライスレス学園では違います。
「俺に近づくなよ、この痴女が―――――!」
と、泣き叫び走るダニエル君が痴女ことヒロインに追いかけ回されているとこを見かけることから朝が始まります。
ダニエル君、そういえば忘れそうになっていましたが乙女ゲームでは男娼奴隷の設定でした。
ダニエル君によると、ヴィーナス家にいた頃にヒロインと遭遇して迫られたらしいです。
「ダニエル様、お可哀想。あの女、エレクトラに性的にイジメられてるのね。でも、安心して。私が『本当の真実の愛』を教えてあげる」
と、機嫌と気分が悪くなるので事の詳細は省きますが現代日本いえ現代とある国なら刑務所入り確実なことをヒロインはダニエル君にしたそうです。
乙女ゲームの愛され美少女という史上最上級に美味しい立場にありながら、犯罪まがいなことをするヒロインというのは何とも情けない。
「自分から人生を捨てるヒロイン、ここに爆誕!」というやつですね?
ヒロインはそんなことをせずに、世界から与えられた恩恵『自分だけの設定』を有効活用すればいいのに...
さて、なぜヒロインがダニエル君を追いかけ回しているかというとかの有名な『逆ハーレムルート』を目標としているからです。
ヒロインが攻略対象たちの中でダニエル君を理由は、ダニエル君の攻略が一番難しいからです。
なので、幼少時から近づいてモノにしておこうとしたのですが見事に失敗★
次に、親の権力を利用してベン・ジュピター第二王子様に偶然を装って近づこうとしたのですが、ベン・ジュピター第二王子様の不興を買い王城に出入り禁止に。
それにしても、この世界はヒロインに優しい世界ではなかったのでしょうか?
謎です。
一番の謎は、転生ヒロインとして調子に乗っている元姉がヒロインらしくないことですが...
ひょっとして、ヒロインがヒロインらしくないのがあの二人の攻略を失敗する原因だったりして。
乙女ゲームにおける『ヒロイン補正』が力を発揮したせいか、ヒロインの強制退学が実行できない現状を憂いなんとか良い方向に打開したいと考えた学園側は、ヒロインを心のケアのプロであり攻略対象の養護教諭スペード・オークショ先生に、ヒロインのキチガイじみた行動を強制的に捻じ曲げるよう依頼しました。
これが、間違った行為とは気付かずに...
そう、間違いだったのです。
プライスレス学園の現状は、ヒロインにとっては納得のいかないものでした。
自分を持ち上げてお姫様扱いする攻略対象たちの素顔が見えず、名前だけで彼らを探そうにも学園の校則が邪魔をして思うように行かないようです。
そこから、ヒロインは今までと違って自分の思うようにいかない現状にストレスが頂点に達して、周りの生徒たちに八つ当たりするようになりました。
そこで、学園はヒロインのための人間的更生化計画をオークショ先生に丸投げしたのです。
ヒロインが保健室に通うようになってからというものオークショ先生は終始イライラしっぱなし。
ウワサによると、煙草を吸う本数が倍以上になったそうです。
現在の暗黙の了解は、『保健室には自分が大事なら近寄るな。体調崩したなら、自宅療養』ということになっています。
廊下から屈んで壁越しに保健室の様子を盗み聞きしていたある日のこと。
「先生、私そのお面が恐いわ。お面を外してくれないですか?」
怯えたふりして、媚びた声音で言うヒロイン。
笑いを堪えずにはいられないそして残念臭の漂うお面を前にして、笑わずにいられるとはすごいですね、このヒロイン。
「ああ、それもそうだな」
いや、そこ納得することろ?
現在の自分をしっかり見て下さいよ、先生。
ちゃんと、鏡を見ないの?見ないのですか!?
「わぁっ、先生ってすごくカッコいいんですね。お面をつけていない方が絶対いいですよぉ」
ここぞとばかりに、かわいこぶって言うヒロイン。
「しかしな、ヴィーナス。校則で、男は全員お面の着用を義務付けられているんだ。もしくは着ぐるみ」
「ならぁ、私の前ではお面をつけないでくださいよぉ。約束ですよ」
「まあ、それくらいならかまわないな」
私の行動に何かを感じ同様の行為をしていた校長と教頭と数名の男女生徒たちは、驚きで固まりました。
ヒロイン対策で、男性限定の校則『お面・着ぐるみの着用』を義務付けているのに、教師自ら校則を破ったらダメですよ!!!
この日、ヒロインへの『イケニエ』にオークショ先生が拒否権なしに選ばれました。