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七。エレクトラ ーリチャード・アース公爵ー

ヴィーナス家は、長女ヴァージニア嬢が生まれた時からおかしくなり始めた。

始めは、ヴァージニア嬢が無意識に『魅了の呪い』を使ったのではないかと国の頭脳派集団と話し合ったのだが、魔力鑑定士によると彼女はただ病弱なだけであると判明した。

しかし、魅了の呪いは世間的に害悪とされるのでヴィーナス家当主夫妻が協力して魔力で隠すことが可能なので魅了の呪いである可能性が捨てきれないと言っていたが。


魅了の呪いというのは、当初は『魅了の魔法』と呼ばれていた。

ある日、とある少女が魅了の魔法を悪用するまでは。

その少女は平民で、魔力量の多さを見こまれて魔法学校の名門『プライスレス学園』に特待生として入学してきた。

少女は魅了の魔法を意識して使用し、見た目がよくて成績優秀な複数の男子生徒たちを堕落させていった。

そしてついに、少女は卒業式という大切な日に暴挙を起こした。

堕落させた男子生徒の中で、王族の婚約者である公爵家令嬢をありもしない罪で、断罪したのだ。

堕落させた男子生徒たちと取り囲んで。

だがしかし、相手が悪かった。

公爵家令嬢は少女が悪用した魅了の魔法を完全無効化し、少女の自作自演と堕落させられた男子生徒たちの証拠の捏造をすべてこの場で暴露したのだ。

これにより、少女と堕落した男子生徒たちは表舞台から姿を消した。

その後、魅了の魔法は魔法から呪いに格下げされた。

といっても、魅了の呪いは心の弱い者だけがかかる呪いであるので警戒する必要性はないのだが。


そしてついに、ヴィーナス家がヴァージニア嬢によっておかしくなったと確信できる事件が起きた。

ヴィーナス家に次女エレクトラ嬢が生まれてからだ。

これにより、ヴィーナス家当主夫妻がヴァージニア嬢が生まれる以前の状態に戻ると期待したのだがそれはなかった。

いや、それより最悪の状態になったのだ。

この頃より、国王様と国の上層部はヴィーナス家を没落させる計画を真剣に練り始めた。

「彼らがあの状態ならば、自滅するのではないか」と言葉に出そうになったのだが、あまりにも真剣になって話し合っているので言うのを止めた。

さて、エレクトラ嬢の状況を知ったのはメイド長に送られてきた手紙からだ。

その手紙の主は、メイド長の双子の妹であるヴィーナス家のメイド長である。

ヴィーナス家のメイド長は、ヴィーナス家当主夫妻が次女のエレクトラを育児放棄しているので、このままでは餓死するのではないかと心配して自分の姉を通してアース家に助けを求めたのだ。

なんでも、ヴァージニア嬢が認識しているヴィーナス家の使用人たちがエレクトラ嬢を心配して世話をしようということを察知したかのように、泣き叫び癇癪を起してエレクトラ嬢の方に行かせないように仕向けているとしか思えない行動をしていると。

普通の使用人に言われたら、信じないだろう。

だが、家のメイド長と並び優秀とされるヴィーナス家のメイド長が言うなら信じた方がいいのかもしれない。

さらに言うと、メイド長が妻にも相談したことがきっかけででヴィーナス家に貴族教育を施すことのできて戦闘能力もあるセバスチャンとリーマを潜り込ませることにした。

セバスチャンとリーマをヴィーナス家に潜り込ませるのは簡単だった。

ヴィーナス家のメイド長の手配ということで誰にも疑われない。

そして決定打は、ヴィーナス家当主夫妻がヴァージニア嬢以外のことに無関心だったからだ。

セバスチャンとリーマが、定期的に報告書を送ってくれるのだが、もはやこれはエレクトラ嬢を無理をしてでもこちらで引き取ろうと考えさせられるものだった。

このヴィーナス家当主夫妻は『ヴァージニア嬢を世界の中心』と考えて生活をしていて、エレクトラ嬢を存在していないように扱っている。

夫人に関して言えば、自分が腹を痛めて産んだ子供なのにと思わずにはいられない。

姉であるヴァージニア嬢に関して言えば、自分より年下の妹を家から追い出そうとしているしか思えない行動を取っている。

そんな妻と娘を見て、満足そうに笑うヴィーナス家当主を見て、早々に見限った方がいいとセバスチャンとリーマが報告してきた。

あと、セバスチャンとリーマはエレクトラ嬢に貴族教育に関する必要なすべてをスパルタ教育を大の大人でも根を上げるぞという速さで叩きこんでいく。

私なら、絶対無理だと言い切ろう。

なんでも、エレクトラ嬢は魔法に多大な興味があるらしく『魔法を教えることをエサ』にして教育を施して行っているようだ。

今では、学園に入る前の必要な貴族教育を終え図書館に籠もる日々だとか。

そして、ついにできる者が非常に少ない『魔法の無詠唱』を習得したのだった。

このまま、ヴィーナス家にいればエレクトラ嬢の才能がヴァージニア嬢によって潰されるだろう。

国としては、確保したい人材だと思っていた。

私は、エレクトラ嬢が引き籠っているという図書館で接触することにした。

会った彼女は、ただの魔法バカだった。いろんな意味で手遅れなほどに。

これが、両親に無関心にされた子どもの末路か...!

私は、心の中で涙した。

ヴィーナス家に潜入しているセバスチャンとリーマから送られてくる報告書を読むごとに妻の顔が日々険しくなってきた。

子どもを全力で愛でることに力を注いでいる妻にとって、ヴィーナス家当主夫妻のエレクトラ嬢に対する所業は許されない行為らしい。


そしてなぜか突然、エレクトラ嬢は奴隷を買おうと思いたった。

なんでもいつも籠もっている図書館で、犬のように扱われている少年を見て「コレだ」と思ったらしい。

鑑賞用兼友だち候補として、奴隷を買いたいとか。

護衛を兼ねれたらと狙ったセバスチャンは、男娼をススメた。

これは、鑑賞用と願ったエレクトラ嬢の願いを考慮したものだと思いたい。

男娼奴隷を販売する会場にはリーマが向かった。

値引きさせようとしたセバスチャンがリーマに指示したからだ。

男娼をエレクトラ嬢の代理で買ったという報告書内でリーマは、「買い物客に避けられまくった。解せぬ」と書いてきた。

死んだ目をしたクマの着ぬいぐるみは、怖くて誰でも避けたくなるわ!

少しでも考えたらわかるだろ!

数日後、男娼として買われたダニエル・ウラヌス少年はしっかりばっちりリーマがトラウマとなったそうだ。

なにがどうしてそうなったっ!?

私もエレクトラ嬢も、そんなこと指示してないぞ。


そしてついに、エレクトラ嬢を我がアース公爵家で引き取る決意をした。

これ以上あの家にいれば、エレクトラ嬢の身が危うい。

エレクトラ嬢本人は、ヴァージニア嬢に興味を全くもてないので気にしていないらしいが、ヴァージニア嬢はエレクトラ嬢がヴィーナス家にいるのを快く思っていないようで、エレクトラ嬢を排除する計画を立てているとヴィーナス家のメイド長が報告してきた。

エレクトラ嬢排除計画を立てている時のヴァージニア嬢は本当に病弱な子どもかと疑うくらいの般若の顔をしていたそうだ。

これに、ヴィーナス家のメイド長は危機感を覚えた。

エレクトラ嬢に関して、ヴィーナス家当主夫妻には期待してはいけないと。

家の恥を他家に漏らすことはその家に仕える者として禁じられているのが暗黙の了解だが、そこまでなっているのは何とも...

セバスチャンとリーマの報告によれば、エレクトラ嬢はヴァージニア嬢とヴァージニア嬢が両親にもたらす影響を考えて、ヴィーナス家と縁を切る決意をしたそうだ。

ただの魔法バカと思っていたのだが、きっちり現状把握をしているようだ。

子どもにしては必要でない物を切り捨てるのが早すぎると思うが、エレクトラ嬢が行動を起こす前に私が行動しよう。

私はさっそく『魔力持ち限定【子供保護】課』に掛け合った。

この世界では、魔力持ちの子どもは簡単には生まれず、魔力を持って生まれた子どもは強制的に国の保護下に置く。

両親が魔力持ちだからと言って、魔力持ちの子どもが生まれるわけではないからだ。

魔法自身が、自分を扱うに等しい者を選ぶからだ。

つまり、魔力持ちとは魔法に選ばれた人間。

なので、両親が魔力を持っていなくても魔力持ちの子どもは生まれる。

『魔力持ち限定【子供保護】課』は、エレクトラ嬢のように両親に無関心にされた子どもや魔力持ちの子どもに理解しない両親から、子どもを守るために必然的にできた課。

結果だけ言うと、ヴィーナス家の地に堕ちた評判をもろに影響を受けて簡単にエレクトラ嬢を養女に迎える許可が出た。

思っていた以上に、スムーズにできたことに遠い目になったことは言うまでもない。

この結果に妻の機嫌はさらに良くなった。

うちの子どもたちがドン引きするくらいに。

うちの子どもたちがヒソヒソ声で、新しくできる妹を妻から守る決意をしていたのは聞かなかったことにした。

許可が出た翌日に、ヴィーナス家に行った。

すぐ行動を起こしたのは、妻から無言の圧力があったからではないぞ。

私がヴィーナス家の客間に通されたと同時に、リーマはエレクトラ嬢とダニエル・ウラヌス少年を捕獲して別室に連れて行った。

すぐさま戻って来たリーマは、セバスチャンとともに無言の圧力をヴィーナス家当主夫妻にかける。

顔色を悪くするヴィーナス家当主夫妻。

私が持ってきた『魔力持ち限定【子供保護】課』からの書状を見ると、抵抗をて来たのだがヴィーナス家当主夫妻を言葉で嬲ると額に冷や汗をかきながら、こちらの要望を了承した。

セバスチャンとリーマの圧力が大半の原因だとは思わなかったことにした。なかったことにした。


エレクトラ嬢とダニエル・ウラヌス少年を我が屋敷に連れ帰ると、妻が侍女を振り切ってエレクトラ嬢に目を輝かせながら突進してきた。

あっけにとられる私と子どもたち。

半泣きになってオロオロするダニエル・ウラヌス少年。

無言でキレるセバスチャンとリーマ。

エレクトラ嬢の新生活の第一歩は、妻に抱き殺されそうになるところから始まった。

その夜、妻は延々とセバスチャンから小言をもらっていた。

妻から助けを求める視線を感じるが、それは自業自得なので諦めてもらいたい。

私だって、セバスチャンとリーマが怖い!

当主だからって、仕える者に何でも命令できるわけではない。

あの二人の真の恐ろしさを知っている身としては、この件で関わるわけにはいかないのだ。



こうして、エレクトラ嬢は『エレクトラ・ヴィーナス』から『エレクトラ・アース』になった。

一切話さないリーマとコミュニケーションが簡単に取れるのは、『魔法の無詠唱』ができるからだろうか?

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