二。奴隷少年
私の一番得意な魔法は、『転移魔法』です。
一度行った場所のみ転移できるというのではなく、かの有名なブルー・キャットのシークレットな道具の一つで、例のドアに似た効果のあるドアなし版みたいな感じです。
いつものように転移魔法で王都の中心にある図書館に行って魔法書を読んでいると、派手でケバい香水臭のするオバさんが美少年の首にリードをつけて歩いてくるのが見えました。
私は、図書館の利用時間内なら転移魔法で来て図書館に籠もる許可を図書館長さんに貰いましたが、あれは不健全なので許可されないと思うのですが...
そんなことを思っていたら、案の定、あのオバさんは図書館員さんに追い出されていました。
そういえば、この世界には『奴隷市場』があったはずです。
確か、攻略対象の一人ダニエル・ウラヌスがゲームでの私にそこで買われる設定だったはず。
正直なことろ、ゲームでの設定と同じようにダニエル・ウラヌスを買うつもりはありませんでした。
ですが、さっきのオバさんと美少年の様子を見ると、なぜだか彼を買いに行かないといけないという使命感に駆られました。不思議ですね。
では、早速セバスチャンに相談してみましょう。
奴隷市場というのは、その名の通り奴隷を売り買いする場所。
畑や工場での労働力、娼婦や男娼として、奴隷を販売するのが主戦力。
ダニエル・ウラヌスの場合は、確か借金の方として両親に売られたと記憶しています。
私の要領を得ない下手くそな説明になぜかセバスチャンが納得して、翌日、奴隷市場に行くことになりました。
そして来ました、奴隷市場。
私の同行者は、セバスチャンと死んだ目をしたクマの着ぐるみを着たメイドのリーマです。
なぜか、奇異の目で見られています。おかしいな。
私が奇異の目で見られているのを不思議に思い、唸っているとセバスチャンが突っ込んできました。
「お嬢様、もしやご自分の年齢をお忘れになっていませんか?」
ん?私の、年齢...?
美幼女な姉に会って前世を思い出してから、すっかり現在の自分の年齢を忘れていました。いけない、いけない。
現在、私は四歳の幼女。
『執事+謎の着ぐるみを着た人+いたいけな幼女』。
うん。確かに、奇異の目で見られてもおかしくない組み合わせです。
すっかり、失念していました。
「ところで、お嬢様。ご友人が欲しければ、旦那様と奥様にご相談して同じ年の子どもを紹介してもらった方がよいと思うのですが」
「無理ですね。それで友人を作れば、いずれお姉様のワガママを叶えるために、お父様とお母様はせっかくできたお友だちと私を引き離しかねません」
「確かに、ヴァージニア様のためなら旦那様と奥様はしかねませんね」
「でしょう。それに、例えそうなってもお金で買った物なら諦めがつきますし 」
「素晴らしい!確かに、その程度の価値だと諦めが付きますね。では、どのような奴隷をご希望で?」
「美少年で」
「なら、男娼でございますね。さすがにお嬢様がその場に行くのはまずいので、リーマに適当に選んでもらいましょう」
「じゃあ、リーズナブルな価格の美少年で」
「さすがはお嬢様」
男娼が売っている場所が気にならないと言えばウソになりますが、自分がお世話になっている人に下手に逆らえないので、大人しく自分で買いに行くのは諦めました。
リーマが選んだ奴隷少年は、ダニエル・ウラヌスでした。
ゲーム補正?
そして、リーマはついでと言って『手錠』『足枷』『長すぎる縄』を買って来ました。
翌朝起きると、ダニエル・ウラヌスは私に文句を言ってきました。
「お前は、そういう目的でぼくを買ったんだろう!なんで、ぼくをベッドの上で色々な道具を使って縛ってるんだ!」
手錠、足枷、縄のことを言ってるんですね。
馬鹿ですね、そういう目的でないとリーマに説明されたはずですが。
でも、これでゲームのダニエル・ウラヌスのトラウマの原因が分かりました。
ゲームで、ダニエル・ウラヌスと私の過去は描かれていなかったのですが、これはアレですね。
性奴隷として買われた幼少期のダニエル君は、夜に主人となる少女に襲いかかりました。
そして、その少女は少年が自分にしたことは、少年にしてよいことだと思い込み、好奇心旺盛な少女は本による知識で興味本位で実践して色々な技を習得していきました。
結果、それが性的虐待に当たり、ダニエル君は少女により心の傷を抉られトラウマを開発されました。
これって、完全に自業自得じゃん。
これで、私に逆恨みって馬鹿じゃねーの。
ダニエル君の言動にキレたリーマが、死んだ目をしたクマの着ぐるみを着た状態で、殴りました。
私とセバスチャンは、思わずリーマを白い目で見ました。
これは、慣れていない人からするとトラウマ級の出来事ですよ。
だって、死んだ目をしたクマがいきなり自分を殴るのですから。怖いわ!
憐れ、ダニエル君は死んだ目をしたクマに本当のトラウマを植えつけられた。
リーマ曰く、「この着ぐるみは自分の戦闘力を半減させるものです」とのこと。
精神攻撃が、増大していることは言わない方がいいのでしょうか?
このままでは、私が魔法で新たなトラウマをダニエル君に植え付けかねないので、私とセバスチャンは当分の間リーマにダニエル君の教育係を押し付けることにしました。