第5話 でかい鉄屑
「ぐはははは!!どうだ傭兵ども。これが俺様の切り札だぞ!」
ガンドストーカーの拡声器越しに猪の声が響く。周りにある積み上げられたコンテナを倒しながらゆっくりと歩いている。ガンドストーカーの外見は戦車のような装甲に包まれており、それに加えて大量の武装を装備している。
悪路でも移動が出来るように二本の足がついており、それのせいかまるで重装備をしたサイクロプスにも見える。
(実際に戦時中連合軍からサイクロプスと間違えられるほどだった。)
「しまった!起動しやがったぞ。」
ちょうど船倉に着いたラルクたち。猪はそれに気がつき。高笑いをした。
「どうだ驚いたか?まずはてめえらで試運転してやるぞ!感謝するんだな。」
「何を言ってるんだあいつ?」
リックが呆れているとガンドストーカーの左右に取り付けられた四角いポットのハッチが開くと何かが発射されていく。
「まずい!魔導ミサイルだ。散開、散開!!」
ラルクが叫ぶとアリシア、リックの二人が横に飛んだ。その直後魔導ミサイルが船倉の入口前で大爆発をした。ミサイルの爆発のせいで入口が瓦礫で塞がれた。
「チィ、たちの悪いもんを」
ラルクは毒づいき、背中に背負っていたストームライフルを持ち、ガンドストーカーに向けて構えた。
「二人とも大丈夫か?」
「大丈夫よ。」
「こっちも平気だ。」
アリシアとリックはとっさに避けたために無傷だった。しかし今度は魔導機銃による制圧射撃。三人は近くのコンテナの裏に隠れた。
ガンドストーカーに搭載された機銃は並みの人間だったら一瞬で挽き肉にされてしまうほどで、さらに弾丸に魔力を付与することができるため厚い装甲を貫く威力を持っている。
「このままだとコンテナが持たねえな…。リック、ランチャーの弾はいくつある?」
ラルクはリックを見た。リックは少し険しい顔をして応えた。
「さっきの戦いでかなり使ったからな…。あと1発しかない。」
リックが弾薬袋を見せた。中にはロケット弾が1発入っていた。ラルクは小さな溜め息をつく。このままだと挽き肉になるのは時間の問題だろう何とかしないと。ラルクは考えた。
「よし、あいつの足をつぶそう。」
「足?無茶言うなよ、あいつの足は特殊装甲が4重もあるんだぜ!? 1発だけじゃとても無理だ。」
リックが言うとラルクは少し笑った。
「大丈夫だ、あれを見てくれ。」
ラルクがガンドストーカーの足の下を指差した。その近くには燃料の入った赤の燃料コンテナが置いてある。
「あいつをあのコンテナまで誘導してロケット弾をぶちこめば足を破壊できる。」
確かにそうだ燃料を爆弾の代用にすればガンドストーカーの足を破壊できる。だが問題がある。
「でもよラルク。燃料を爆破するのはいいが…威力が高いと思うんだが?」
「ん?それが何か?」
「もしもだあの燃料コンテナが航空燃料だったらどうする。」
ラルクは気付いた。もし航空燃料であればこの貨物船ごと消し飛ばすほどだろう。しかもこの船倉には大量に置かれているではないか。さっきの戦闘でよく爆発しなかっかと思うと冷や汗が出る。隠れているコンテナも後少しで破壊されてしまう。
(燃料コンテナじゃない)
「どうすればいいか…。」
ラルクとリックの二人は困り果てた。それを横目にアリシアが落ち着いて言った。
「二人とも動力部を破壊するのはどうかしら?」
それは奇跡とも言える発想だった。ラルクとリックはお互いの顔を見て納得した。
ガンドストーカーは装甲は強固に出来ている。が、動力部周辺の装甲は薄い。理由は湿度が溜まりやすいからだ。動力部は腰に当たる部分にあり、どうして湿度が高いと動力部内部が結露してしまい燃料の魔石を蒸発させる原因になる。そのためか動力部は密閉式で出来ている。
ただそれに亀裂が入ればガンドストーカーは動かない鉄屑と変貌する。
「それだったらロケット弾1発あれば十分だな。」
「装甲はいくらか厚いがなんとかなる。ラルク、あいつの後ろを向かせられるか?」
「やれやれ…やっぱり俺か?」
「仕方ないだろ?こんなかで速く動けるのはお前だけしかいないだろ。」
ラルクは嫌々ながらも黙ってうなずく。
「仕方ねぇ…アリシア、船員の人達を避難させてくれ。俺達二人でやる。」
「わかったわ。無茶はしないで。」
アリシアは瓦礫を素早く登り、2階へと消えた。それを見届けたラルクはガンドストーカー頭部を見た。頭部を模した操縦席には猪がいる。まずはあいつを何とかしなければいけない。
一方、猪はガンドストーカーの操縦席から辺りを見渡していた。ミサイルや機銃を撃ちまくったが肝心の獲物を仕留めたのか不安になった。最初は頭に血がのぼってしまい冷静な判断が出来なかっためか、いざしばらくすると燃料コンテナがあることを思い出し、攻撃を止めた。
「あれだけ撃ったんだ…死んだか?まあいいとりあえず船から逃げるとしよう。」
ガンドストーカーを二階の連絡橋につけ停止させ、操縦席から降りようとした時だった。ガンドストーカーの操縦席の窓ガラスに弾丸が撃ち込まれ猪は操縦席の奥に転がってしまった。
「ブヒァ!?」
猪は突然何が起こったのか分からなかった。窓ガラスを見ると数発の弾丸がめり込んでひび割れを作っていた。猪は弾丸が飛んできた方向を見るとあの狼族の傭兵が立っていた。手に持っている銃を構えて
こちらを見ているではないか。猪は少し震えた。
「おい!豚野郎もうおしまいか?お前の目は節穴かよ。今度はこっちから行くぜ!」
ラルクは銃の引き金を引くと操縦席に向けて撃ち始めた。猪は慌てて操縦席の扉を閉める。銃撃は操縦席に容赦なく襲い掛かった。だが魔導防弾ガラスがすべて防いでいた。
「ぐっへへ、馬鹿めそんな豆鉄砲効くかよ。この操縦席は魔導障壁で守られているから平気だ!!」
「ちっ、やっぱり無理か。」
ラルクは銃による攻撃をやめ、銃身の下に取り付けられた25式榴弾投射器の引き金に指を置き、操縦席に狙いを定めた。狙いをつけると引き金を引き榴弾を発射した。榴弾は円を描き頭部に命中して爆発を起こした。
投射器から榴弾の薬莢を排出すると次の榴弾をバックパックから取りだし投射器に装填し、続けて撃った。いくら魔導障壁でも榴弾を受け続けていればダメージを蓄積していく。
「さて、向かせていくか。」
ラルクはガンドストーカーを方向転換させるため移動しながら発砲した。ガンドストーカーの頭部は爆煙まみれだっだ。その煙は猪のいる操縦席の中にまで入り込んできた。
「ゲホ、ゲホちくしょう…魔導障壁は煙まで防ぐんじゃねえのかよ?」
猪は咳き込みながら言った。無理もない魔導障壁は攻撃は防ぐものの、煙などの気体は完全には防御することはできないのだ。所詮魔導器から発生するバリアは魔導士達の障壁の足元にも及ばないただの壁でもある。それに魔導障壁にはダメージを蓄積していくほど脆くなる。
20年前の戦争ではこの欠点に気付いた連合軍は対戦車兵器の威力を上げ、集中攻撃を徹底することによりガンドストーカーを次々破壊していく成果を出した。
「くそあの武器商人…不良品を売り付けやがってクソ!」
猪苛立ちながらは手すりに拳を叩いた。その時ガンドストーカーの魔導モニターから警告音が鳴り響いた。
《警告、魔導障壁ダメージ率89%障壁発生低下》
その警告音が鳴り響いたのをラルクは狼族特有の集音率の高い尖った耳で聴こえたのを確認すると。
「ん?効いてるか。よし!」
ラルクは榴弾を撃つのを止め、銃に切り替え引き金を引く。激しい発射炎と鈍い音が響いた。発射した弾丸は次々と魔導障壁の前に当たる。
「ガハハ、そこにいたか!無駄な努力は認めるが諦めるんだな!」
猪は笑いながら言った。だがそれは猪にとって油断大敵だった。
「向いたな、リック今だ!」
ラルクは大声で叫ぶと物陰に飛び込んだ。それを確認したリックがタンクランチャーを構えガンドストーカーの動力部へ狙いを定めた。
「うまく当たれよ…食らえ!」
タンクランチャーの引き金を引くと高速でロケット弾が発射された。ロケット弾は動力部へ吸い込まれ、激しい爆発を起こした。その攻撃のダメージは動力部を破壊するには十分だった。
動力部は炎を上げて煙を出している。ガンドストーカーはまるで酔っぱらたようにフラフラと動き、最後にはコンテナに突っ込み動かなくなった。
「デカイ鉄屑の完成だな♪」
それを最後に船倉内は静かになった。