第4話 悪あがき
猪の頭は肩を押さえ船倉の奥へ走っていた。冗談じゃない、あいつらはいったいなんなんだ?傭兵、化け物?いやそれ以上なのか。
頭は必死で走る。その後ろでは爆発音と悲鳴が船倉の中に響く。多少の犠牲は仕方ない手下はまた集めればいい。とにかく今この状況を変えなければ…。頭はとにかく走る。そうだ!あれがあった。
「万が一に備えて用意した"あれ"があるじゃねぇか!がはは、今にみてろよ傭兵ども 」
頭はそう言うと頭は他のコンテナよりも一回り大きなコンテナに来るとレバーを引いて開けた。
「だいぶ片付いたな、そっちはどうだ?」
ラトルは血塗れになった大剣を持ちラルクに話しかけた。
「そうだな。人質も全員無事だしな船長の方は大丈夫かアリシア?」
アリシアは応急処置を船長に施しながら言った。
「なんとか大丈夫よ。出血はひどいみたいけど命には別状はないわ。」
船長は包帯で負傷した部分を巻かれて床の上に休んでいた。あれだけの暴力を受けても意識だけはあるようだ。
「ありがとう…。助かった。」
弱々し声で礼を言うとラルクは船長の近くに来る。そのまま近くに屈むと。
「俺達は依頼通りにやっただけさ。それと全員無事に返さないとボーナスが減るからな。」
ラルクは笑いながら言った。するとリックは机に置いてある書類に何か気づいたのかラルクを呼んだ。
「ラルク、いいか?」
「ん?何かあったのか。」
「これを見てくれ。」
リックは書類をラルクに渡した。書類には兵器の説明が記していた。それも魔導兵器についてだった。
「魔導兵器?何で民間の輸送船にあるんだ?」
「海賊が持ち込んだのか、あるいはこの船に積んであったかだな。」
確かにおかしかった。普通は軍用貨物輸送艦で運ばれて行く。この貨物船の会社は軍用物資関連の仕事はしていないはず。だけどここにあるものはどう説明するのだろうか。だがこの書類にあるシンボルマークは見たことがある。
「アリシア、来てくれ。」
ラルクは船長の治療を済ませたアリシアを呼んだ。
「何か?」
「このマーク知ってるか?」
「ええ…、知ってるわ。これはナチルファウスト帝国の高等魔導兵器廠の印よ。それも最近の物みたい。」
「積み荷はなんだろうか?」
「ガンドストーカーの改良型みたいよ。」
その場にいた全員が耳を疑う。アリシアは書類をさらにめくる。次のページには説明が記されていた。書類にはこう書かれていた。
魔導兵器の取り扱いについて
・魔導兵器"ガンドストーカーmarkⅡ"は戦闘力を格段にレベルアップした物である。使用する際に細心の注意をするように。
アリシアが書類を置くと全員が黙りこみ、嫌な空気が流れた。
「何でガンドストーカーがあるんだ?それも改良型が。」
リックが書類を見ながら言った。
「知らないね、知りたくもない。」
それもそのはずだ、誰もが嫌がる二足歩行兵器でもある。20年前の戦争で作られたガンドストーカーは連合軍を苦しめた兵器の一つとして知られている。武装も多彩で、中でも125mm魔導砲は厄介だ。
魔力を充填し、それを利用して発射する。威力は連合軍の航空戦艦の主砲並みだとか。だけど湿度に弱いという欠点がある。何故なら燃料として使用している魔石が水分を含むと気化してしまうからだ。そのため海岸、沼地などの湿度のある場所では運用が出来なかった。
それが原因で内陸しか配備されず、連合軍の対戦車兵器の進歩で多くが破壊された。
「まあ見たところ帝国が払い下げしたもののようね。日付が2週間前だし。」
アリシアが書類の上の部分を指差した。確かに日付は2週間前だった。ラルクは怒りを露にした。
「払い下げって…こいつはヴァビア条約に違反してるもんだぜ!?まさか海賊が買ったのか?」
「それしか考えられないわよ。こんな兵器が貨物船に積んでるわけないじゃない。」
「ラルクとりあえず落ち着けよ。まあ海賊の親分に聞けば分かることだしな。」
リックが部屋の隅の方を指差したが、そこにいた海賊の頭がいない。
「あれ?あの野郎…逃げた。」
「しまった!縄を切られてる。」
「大丈夫よ二人とも。あんなに体臭がきつい奴すぐに見つかるわよ。それと…。」
アリシアが言いかけた瞬間、突然船倉の方から轟音が響いた。
「何だ!?」
貨物船全体を揺らしそれは動き始めた。