第14話 協力者
酔っぱらった奴等は後にして、ラルクは貨物室の後部ハッチを開けるためハッチの開閉スイッチを押した。ハッチが開くと熱気が機内に入り込んできた。
「うわ、なんだこの暑さは?」
ラルクは貨物室から外に出ると強い日差しが身体中を照りつけてきた。ラビア王国は平均気温が65度近く上がるため獣人であるラルクにとっては最悪だった。
獣人は基本的に体毛に覆われている種族が多く、熱が溜まりやすい。そのため暑さ対策のポンチョは欠かさないのだ。
(幾らかの暑さは軽減できるが気休め程度…。)
「おい、ラルクほらポンチョを着ろよ。」
操縦室から出てきたリックが黒いポンチョを抱えてやって来た。ラルクはポンチョを受け取るとそれを被り着込んだ。
「やれやれ、獣人の俺が着るもんじゃないだろこれ?」
「この国の連中は黒い服を着るらしいぜ。それに黒い服は身体の空気循環を促進して冷却機能を上げるって言われてる。」
リックはそう言うが、ラルクは半信半疑だった。獣人と人間の身体の作りは違うのにと少し突っ込みたかった。すると同じ黒いポンチョを被ったアリシアが来た。
「4人は少し休んでいるって。」
「マジかよ。」
「仕方ねぇ…俺達3人だけで協力者のとこに行くか。」
ラルクがそう言うと2人も頷いた。今回の依頼にはラビア王国の現地協力者がいる。その協力者は人身売買組織の情報を持っており、指定された場所に合流することになっている。
「ボスが信頼出来る人だってブリーフィングで言ってたけど。」
「まあボスは世界中に太いパイプを持っているからな。」
「そんじゃ街に行くとするか。リック、車は出せるか?」
「砂漠仕様のグラボイズを持って来たぞ。」
リックが輸送機の貨物室を指差すと1台の車が中に入っているのが見える。3人は車へ歩いていき乗り込んだ。エンジンをかけると車は輸送機から外へ走り出した。そのまま滑走路の脇を走って行く。
ラビア王国 首都クルート
「とりあえず街で情報を集めよう。」
「そうね、まずは合流場所を確認しないと。」
「ん?合流場所は聞いてないのか?」
リックが運転しながらアリシアに聞いた。
「合流場所はアルー村っていう村で会うことになっているけど道が分からないのよ。」
ラルクがラビア王国の地図を見ていたのはこれだったのかとリックは思った。確かに異国の道を最初から解っていることは無理難題だろう。ここは街に行き道を教えてもらうのが得だ。
車は空港を抜けると街に行く道路に出た。道路には馬車や徒歩で行き来する人がいた。ラビア王国はまだライフラインが未だに整備されず魔法が人々の生活を支えている。
しばらく走っていると街に入る門が見えた。門の前にはラビア王国軍の検問所があり、通る人々のチェックをしていた。車は長い行列にはまってしまった。
「おっと、検問かよ。ついてねぇ。」
「この門は事前の情報じゃ検問所はないって聞いたけど。何かあったのかしら。」
検問所の兵士達が商人の馬車をくまなく調べている。あれだけ調べているということは何か事件があったのだろうか。
車は人々が歩くたびゆっくりと動く。周りの人々が不思議そうに車を見ている。東側の人から見れば車は珍しいらしい。
車は検問所の前に着いた。兵士が近くに寄ってきて、一人が声をかけた。
「身分証明を提示して下さい。」
民族衣装風の軍服を着込んだ兵士は右側の窓からアリシアに言った。アリシアはどうぞと懐から緑の身分証明書を出す。身分証明を受け取った兵士は隅々まで確認していた。
「何かあったのですか?」
兵士は確認しながら言った。
「実は隣の国で大量殺人鬼が出たんです。それでこの国に入り込んで来るかもしれないので警戒してるですよ。」
「そうなんですか…。」
兵士は身分証明を確認し、アリシアに返す。
「どうもお待たせしました。行ってもいいですよ。ラビア王国へようこそ。」
兵士が言うと検問所のゲートが開き、車は動き出した。
「随分、早いな。」
ラルクが呆気ないと不思議がっていた。アリシアがラルクにあの身分証明を見せる。
「ふふ、実はこのブルーカードを見せるだけで世界中の軍隊を信用させることが出来るのよ。」
「あぁ、ブルーカードか。」
アリシアが見せた証明書をラルクがとると、鳥のマークが記されていた。このブルー・オン・カードは連邦が同盟を結んでいる国や地域で出すと連邦の関係者と見なされる特別なカードだった。現在ラビア王国は連邦と同盟を結んでいるため兵士はラルク達を連邦の関係者と認識したために検査を早く切り上げたのだ。
ラルクが証明書をアリシアに返すと何気なく外を見た。そうこうしている間に市場に着いたらしくかなりの人がいた。車はこれ以上先に行けないらしく、リックが市場の隅に車を停車させた。
リックがエンジンを切るとアリシアに聞いた。
「さて、どうする?」
「酒場があるわ。そこで聞きましょう。」
アリシアが目の前を指差すと酒場があった。大衆酒場らしく昼間なのに客が出入りしている。
「よし。さっそく聞きますか。」
ラルクはパンと手を叩くと車のドアを開けた。2人もそれに続きドアを開けて降りた。
酒場の入口に入ると中は混雑していた。ラルク達はカウンターに席が空いてるのに気付き客を掻き分けるように行った。カウンターに着くと3人はとりあえず席に座ることにした。酒場の店主がラルク達に気付き注文を聞くため近付いてきた。
「らっしゃい。何にします?」
「おすすめの飲み物を3人分頼む。」
「へい、少々お待ちください。」
店主は注文を聞くとカウンターの裏で飲み物を作り始めた。その間ラルクは周囲の人を観察し始めた。勤務中なのに酒を飲む兵士、博打に負けて項垂れる商人、他に色々な客がいるのが解る。
「お待ち、ハーブジュース。」
緑色の飲み物が3人の前に置かれた。
「ちょっと…これ。」
アリシアが少し困った顔になった。まるでそこらに生えている雑草を磨り潰して水と混ぜた感じの色だ。
「飲めるのか?これ…。」
リックがグラスを持ちながら言った。ハーブの匂いはするが味がどうだろうか。
「飲めば一緒だ。俺は飲むぜ。」
ラルクはグラスを持つとそのまま一気に飲み始めた。ゴクゴクと飲み込む音が2人の耳に聴こえた。
「よくやるな…。」
「リック、見て。」
アリシアが指差すとラルクの狼の耳がだんだん下がってきた。それにつられて尻尾も。ラルクの表情が青ざめている。
(うげ、何だこのくそ不味い物は!?)
さすがに飲めばなんとかなると思ったがやっぱり無理だった。だが店主はじっとこちらを見ている。かなりの期待の眼差しで他の客まで見ていた。
「………。」
我慢するしかないかラルクはグラスの上に向けすべて飲み干した。
「ぶは…。」
「おお、凄いじゃないかあんちゃん。」
店主が誉めるとラルクは口の周りに着いた泡を拭き、深呼吸をした。周りの客からは拍手が鳴り響いた。
「凄い!」
「最高だぜ!」
「よく飲めたなあれ。」
ん?よく飲めた?ラルクは集音率の高い耳で最後の言葉が引っ掛かった。気になったので店主に聞いた。
「マスター、この飲み物は人気がないのか?」
「人気はなくわないが…。全部飲み干した奴は滅多に居ないからな。色々と混ぜてあるからな。」
混ぜてある?
「何が入っているんだ?」
店主はカウンターの下から小瓶を取り出し、ラルクの前に置いた。ラルクは瓶を手に取ると中には大量の芋虫が入っていた。
「この地方で採れるジャイアントフライの幼虫だ。これは滋養にいいからな。潰すとハーブみたいな匂いがするんだよ。」
瓶の中で蠢く幼虫を見たラルクは銀色の毛並みが真っ青になるほど青くなった。吐き気もする。これは不味いと思ったアリシアがすかさず店主に聞いた。
「すいません、実はアルー村に行きたいのですが。」
「アルー村に行きたいのか?今は止めといた方がいい。」
店主が少し曇った顔になった。
「止めといた方がいいとは?」
「あれさ。」
店主がカウンターの掲示板を指差した。掲示板には"盗賊団に注意"の張り紙があった。
「最近、盗賊の奴らによる被害が多いんだよ。アルー村も先日襲撃を受けて全滅だそうだ。まったく軍は何をしてんだか。」
店主はグラスを強く拭いた。




