81 駆けるシャラン、黒歴史を背負い。
シャランは、西に向かって大通りを走る。
背中に背負った無骨なバスターソードの重さを感じさせない、文字通りの風の様な速度で駆け抜けた。
薄暗い店内に鎚の打ち下ろされる音が響く。
シャランは鍛冶屋のオヤジの後ろから、オヤジの仕事を真剣な様子で見ていた。
「いいか、お前さんが持ってきたこの鉄塊石はな。『地圧鉄』と呼ばれる特殊な奴だ。」
鎚を振り下ろしながら、一人呟くように鍛冶屋のオヤジは喋り始める。
シャランは、ただ鍛冶屋のオヤジの言葉に耳を傾けた。
「普通の鉄塊石は、鉄の塊に土等の不純物が混じったものだ。」
当然そのままでは脆く使えない。
一度その不純物を取り除き、形を整えてやらなければならなかった。
「しかし、何の偶然か、時たまこんな薄っぺらい鉄塊石が見つかる。」
それは、偶々大地の圧力が横向きにかかり、圧縮されるからだ。
大地というとんでもない圧力と、摩擦から生み出される熱で成形され、薄い板状までなる。
すると、本来脆い筈の不純物混じりの鉄は、ちょっとやそっとでは折る事の出来ない自然の合金へと変わる。
これが『地圧鉄』と呼ばれ、武具を扱うものにとっては重宝するものとなる。
シャランが持ち込んだものはまさにこの『地圧鉄』であった。
「…お前さんは、外に出る手段を持ってるのか?」
「むっ…。」
「…無いんじゃな。」
『地圧鉄』に『地圧鉄』で作られた鎚を打ち続ける。
その傍ら、シャランの目的が判った鍛冶屋のオヤジはシャランに尋ねた。
この繁殖期に、戦士隊が森に入り狩をしていると言っても、森から魔物が出てこないという保証は何処にもない。
その為、四方の内三つの入口には騎士団が配備されていた。
当然、この国の姫たるシャランの顔を知れ渡っており、ましてや城から走り去るのを目撃されている。
各門には、シャランの事が通達されているだろう。
唯でさえ人の出入りは無い状態で、とてもじゃないが突破するのは難しい。
「一つ方法があるがの。」
「なにっ!」
難しい顔をしていたシャランを見兼ねた鍛冶屋のオヤジが、ポツリと漏らした言葉に、シャランは驚きを露わにする。
オヤジは、鎚を振り下ろすのを止め、シャランに向き直った。
「ほれ、持ってみろ。」
薄い板状の物から、シャランの身長を超えるようなバスターソードの形に整えられた地圧鉄をシャランに手渡した。
「うおっ!」
シャランはまずその重さに驚く。
見た目以上に軽いのだ。
自分のロングソードと同じぐらいの重さだろうか。
重心が変わった分、慣れるまでは大変だろうが、それでも十分の出来であった。
「これは…。」
「仕あるまい、これを使え。」
次にその切れ味だ。
今まで使っていたロングソードの鞘と同じ材質の鞘を、納めたと同時に真っ二つに切り裂いてしまった。
鍛冶屋のオヤジが、溜息を吐きながら、奥から茶色い無骨な鞘を取り出してくる。
「どのみち、背負うようにするんだからな。」
リュックサックの様に紐で背中に背負えるようになっている。
その紐をオヤジがシャランに合う様に調整してくれた。
「入れて見ろ。」
「あ、ああ。」
滑らかに滑るようにバスターソードは収まった。
バスターソードの切れ味で真っ二つになるようなこともない。
「完全に一致したな。」
切れ味が鋭いとはいえ、本来なら鞘を切り裂く事等ないのだ。
ただ、問題は鞘よりも剣の方が大きかっただけ。
この鞘の様に、鞘の方が大きく、刃に触れなければ大丈夫なのだ。
「はぁ、今さらこれを見ることになるとはな。」
「むっ、この鞘が如何したのだ。少々古びてるようだが。」
この鞘はオヤジがまだ若い頃、伝説の剣を打つと強がって作ろうとして、鞘だけが出来上がったという黒歴史物だったのだ。
地圧鉄の形を整える時、もっとも近い形がこの黒歴史の剣だった。
「では、このバスターソードは伝説の剣と言う事だな。」
「…たく、姫さんは。」
シャランの綺麗な笑みに年甲斐にも無く赤くなった。
テレ隠しに、シャランを追い出しにかかるオヤジ。
「ほれ、急ぐんじゃろ。さっさと行け。」
シャランは背を押され、店から追い出される。
慌てて、振り返るとオヤジの背中が見えた。
「冒険者になれば外に出られるぞ。冒険者ギルドは西地区の大きな古い建物だ。」
それだけ言うとオヤジは店の中に入っていった。
シャランは無言で店に向かって頭を下げると、走り出した。
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