4安らぎと安眠のスライム。世間話を添えて。
宿屋《魔王城》のベットはウォーターベットだ。適度の反発力が肩と腰の負担を和らげ、しかし体が沈み包み込まれると錯覚させる柔らかさは、快適な安眠を約束させる。
「ふぁ~、よく寝た。」
それは従業員のベットも例外ではない。一応宿屋《魔王城》の企業秘密が詰まった大量生産品だった。
ただ、客と違うのがベットメイクは自分で行う物であること。当たり前であるが。メイズはベットのシーツを剥がす。シーツの下から現れたのは水色の軟体魔物であった。
「メイズ様、4号室のスライムが足りません。」
「判った、後で足しておくよ。」
宿屋《魔王城》のベットはスライムで出来ている。スライムと言えば水色の軟体生物で打撃に強く、繁殖力旺盛で、複数で行動する魔物として有名だ。この近郊にも出現する。種類が豊富で様々な能力を有する。その中で、ウォータースライムがベットに採用された。
このウォータースライム、地熱を餌兼体温代わりにする為、夏は涼しく、冬は暖かい如何にも環境にやさしい魔物だ。弾力も丁度によく、宿屋《魔王城》の人気を支えている。
「あら~、スライムがペチャンコだな。飼い替え時だったか?」
メイズはシーツの下のスライム入れを確認すると、ウォータースライムの一匹が亡くなっており平らになっていた。
ベットにウォータースライムは七匹程入っており、一匹や二匹亡くなっても問題はないのだが、それでも少しでもお客様の安眠を守る為、メイズはスライムを召喚するのだった。
「……ふむ、メイズか。おはよう。」
「あっ、シャランさん。おはようございます。よく眠れました?」
メイズがベットメイクを終えて、廊下に出ると奥の部屋に泊まっていたシャランが挨拶を掛けてきた。
メイズも挨拶を返す。
「スライムとは言え、魔物の上で寝ていると思うと寝付けないかと思っていたが、なかなかどうして…。いいものだな、あれは。」
「あはは。ありがとうございます。ここはお客様に安らぎと安眠を提供する宿屋《魔王城》ですからね。」
「…不思議だ。別の意味に聞こえる。」
「酷いですよ。あっ、朝食がもうすぐですね。それではこれで。」
「うむ。」
メイズはシャランとの世間話を終わらせ、残りのベットメイクを急ぐのだった。
ガラスのはまった窓から外を見れば、空は青く澄み渡り、白い雲が流れる。今日も平和だ。
起き始めた町の喧騒にそんなことを思う魔王であった。