2MOOと町興し。炎の料理人
何故か、書き直したら長くなってきたので、ここで切ります。
宿屋《魔王城》の窓ガラスが茜色に染まる頃、店内の広めに作られた飲食スペースは食事をする人々で溢れかえり、ガヤガヤと騒がしかった。
ここ宿屋《魔王城》食事だけのサービスも行っており、食事だけ食べに来る客と、泊り客の一部が部屋で取らず飲食スペースまで食べに来る客とで込み合うのだ。
家族連れや、依頼帰りの冒険者、時には城に努める騎士ですら休みを利用して食べに来ることが多い。
そんな彼らの目当ては、宿屋《魔王城》のみで食べる事の出来るもの。
「ランさんっ、ここ『ステーキ定食』追加ぁ。」
「こっちもよろしくっ!!」
「俺は二つ。」
それは名物料理、魔物の肉を使った『ステーキ定食』だ。
この最初の町、正確にはブレイバーグ城の城下町である為、正式な名前が無い。
しかし、町ではある為、勇者が最初に立ち寄る町という意味で最初の町と呼ばれている。
には、名物と呼ばれる物が少なかった。
勇者誕生の国ではある為、初代勇者を祭る宗教の聖地たる、初代勇者の生家があった場所に建てられた、祈りの場。
今では勇者選定の儀式を行う施設《大聖堂》が唯一の見所である。
しかし、それでは人が集まらないだろうと、この最初の町にある商店街の人々や、他国からやって来ていた商人達が集まって町興しを計画した。
その最初の一歩として、宿屋という職業柄、様々な国の人が集まる場所である宿屋《魔王城》が選ばれた。
しかし、突然良い案など出てくる訳など無く、町興しは難航するかと思われた。
「…って魔物の肉を食うっ!!」
「いやいや、食って大丈夫なのか?」
「その前に食えるのかよ?」
そこで、メイズが一つの案を出す。
それは、『MOO』と呼ばれる種族の魔物の肉を提供すると言うものだった。
この世界ガランドリア、世界広しと言えど魔物の肉を提供する場所など無く、確かに食べられれば名物となる。
「高火力で焼き上げると、柔らかくなり美味しいんですよ。しかも、魔物の肉は高魔力の塊ですから、焦げたりしないから見た目も良いし。」
メイズが進めた『MOO』と呼ばれる魔物は、草食の為気性が大人しく、魔物の為食事量も大したことが無く、それでいて糞尿はまず出さない。
その上、繁殖能力が高く、繁殖期だったなら一月に百頭単位で増えることもある。
たった一つの問題を除いてだが、家畜にぴったりな魔物だった。
何故、今までこの魔物を育てないかと言うと、まず、この魔物の肉を食べる為には高火力の釜戸が必要と言う事と、この魔物のたった一つの問題が家畜として適さなかったのだ。
そのたった一つの問題と言うのが、成体は四~五メートルまで巨体となり、食事量が突然増える。
成体と成った『MOO』に森を食われた、山を食われた、大陸中の植物を食われた等と言う御伽話が存在するほどだ。
それ故、人が住まう国々では、この『MOO』をAクラスの魔物と認定した。
草食で狩りやすい『MOO』は冒険者にとってカモが葱を背負った状態であり、狩に狩られ、人々の住まう国から絶滅してしまった。
今は、魔物の住まう国に、魔王達によって厳重に管理されていたりする。
そんな『MOO』をメイズが管理している分を提供しようと言うのだった。
「…でも、そんな高火力、今の薪釜戸で出すのは無理じゃねぇか?」
「だな。そこんとこは如何するんだい?」
だが、メイズの話を聞いていた商店街の人々は、難しい顔をしている。
今の使っている一般的な薪釜戸の火力では、火力が足りないのだ。
「それも考えています。」
メイズは商店街の人達のそんな疑問に、確りと頷いた。
そして、宿屋『魔王城』の女将さんの方に向き直ると、あることを切り出した。
「女将さん、一人従業員雇ってもらえませんか?」
「いや、そりゃあ構わないけどねぇ。」
困惑顔の女将さん。
要するに料理人を雇ってくれと、今までの話から推測できたので、了承はするが、それでも不安ではあった。
「エンジ、ステーキ定食四つ追加っ!!」
「あいよっ!!」
メイズは目の前の、燃えている料理人に注文を伝える。
燃えているエンジと呼ばれた料理人は、文字通りに燃えていた。
彼は『炎の魔神』と呼ばれる、火の精霊の一種であったのだ。
その炎の料理人は、両手に鉄板と分厚い肉を持つ。
ステーキ定食の作り方は簡単だ。
まずお盆に、ご飯と味噌汁、そして選択式の漬物かサラダを置く。
そして厚めの木で出来た鉄板の受け皿を置き、お客様の前へ。
ここまではメイズかランが行う。
エンジはその間、加工された肉を掴み鉄板へ。
そして鉄板を掴んでいるだけだ。
掴んでいる腕の温度を上げて一気に高温まで持っていく。
そして肉が焼けたら、生み出した炎小僧と呼ばれた配下の魔物に運ばせるのだ。
そうすることで、運ぶ途中で冷めてしまう事を防ぐ事ができる。
熱々のまま、お客様の口まで運ぶことができるのだ。
こうしてステーキ定食は基本的に大食いの冒険者達を中心に安く、ガッツリと食べられると人気になった。
最初の町の名物が一つ増えたのだった。
そして、魔物の肉が食えると、新しいもの珍しいもの好きの商人を中心に噂が噂を呼び、最初の町に他国から人が入ってくるようになった。
町興しの序章は成功と言えるだろう。