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突キ刺サル言葉



 目を閉じろ、と言われてどれくらい経っただろうか。

時間としてはあまり長くないはずなのに、時間の感覚が狂いそうだった。

夕はさっきからずっと、ぶつぶつと何かを呟いている。

何を言っているのかは聞き取れなかった。

聞き取れたとして、その内容はいい物とは思えないけれど。

夕が言葉を呟くのを止めた。

しばらくの静寂の後、夕はいつも通りの声で言った。

「いいよ、目を開けて」


 俺は、すぐに目を開けれなかった。

いや、開けれなかった。

心のどこかで、目を開けることを恐れていた。

なんでなのかは分からなかった。

開いてしまったら、何かが変わってしまっているような気がして。

夕が夕でなくなってしまったのではないかと、怖くて。

けれど、このままでは埒があかないので恐る恐る目を開いてみた。

「――っ」

 俺の口から小さく、言葉にならない悲鳴が発せられた。

悲鳴を上げる原因になった正体、それは――


 夕の身体中におびただしい数のナイフが突き刺さっていたからだ。


「夕……?」

 目を閉じている間に何があったのだろうか。

嘘にしては、懲りすぎているし、たったの数分間でここまでは出来ないだろう。

色々な思考が巡る中、夕が口を開いた。

「見えてるかな、悠。

 これが、言葉のナイフだよ」

 言葉のナイフと呼ばれたそれは、様々な色に光り輝いていた。

夕自体には血が付着しておらず、ただ刺さっているだけだった。

けれど、痛みを考えると――

悠は目を逸らしそうになったが、なんとか夕を見続けた。

「信じてくれたかな?」

 とても寂しそうで、今にも消えそうだった笑顔でもう一度言葉を吐いた。

「すごく痛いんだよ、このナイフ」

 泣きそうな顔で悠にそう告げた。


「誰が、そんなこと……」

「誰とかそんなのはないんだよ」

 その言葉に首を傾げる。

そんな悠の様子を見て、夕は深呼吸をして言葉を続けた。

「言葉のナイフってね、人を傷つける最も恐ろしい武器。

 身体を傷つけるのではなく、心を傷つける。

 心だから外に現れることはない。

 誰もそのナイフの存在に気付かない。

 そんな恐ろしい物を誰もが保有しているんだよ」

 夕は地面を睨みながら、そう言った。

本当は誰を睨みたいんだろうか。

何を思って、その言葉を吐いているんだろう。

夕の考えていることが分からなかった。


「……悠」

「な、なんだ?」

 地面を睨んでいた目を緩め、俺の方を真っ直ぐ見てくる。

その目は、睨んでいた目よりも強い意志を含んでいた。

俺は昔から、この目が苦手だった。

この目で見られると、自分の全てを見透かされてしまう気がした。

けれど、俺の思いとは違って、夕の言葉は優しかった。


「悠は、言葉のナイフで人を傷つけないでね。

 ――約束、してほしいな」

 その言葉を吐いた夕は今にも消えそうだった。

人が消えそうだなんて、おかしな話かもしれないけれど。

繋ぎとめておかないと、どうにかして繋ぎとめないと。

俺は咄嗟に言葉を紡いだ。

「約束する、約束するよ!」

 ――だから、夕……消えないでくれ。

その言葉を繋げる前に、二人の間にチャイムが鳴り響いた。

 

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