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ナイフノ存在



 再び、蒸し暑い風が吹きだした。

さっきの冷たい風はなんだったんだろうか。

「言葉がナイフってどういうことだ?」

 消え入りそうな声で呟いた夕に問い掛ける。

言葉がナイフ、と言うのはおかしくないか。

目には見えないんだから。

そう言葉を続けようとしたが、夕の顔を見て止めた。

夕は地面を見つめ、唇を噛み締めていたから。


 しばらく静寂が屋上を包んだ。

遠くから聞こえてくる音楽が嫌に大きく聞こえた。

唇を噛み締めるのを止めた夕が俺をジーッと見つめ、言った。

「言葉はね、人を幸せに出来るでしょう?」

「まぁ、そうだな」

 人を幸せに出来るという点については納得できる。

実際、俺は単純だとは思うけれど言葉の一つだけで幸せになったりする。

「でもね、それと同時に人を傷つけるナイフなの」

 夕は寂しそうに笑って、そう言った。

とても寂しそうで、今にも消えそうだった。


「人を傷つける? どの辺が?」

 再び、静かになる屋上。

隣で息を吸い込む音が聞こえた。

「悠はさ、和君の言葉で傷ついたでしょ?」

「あぁ、まぁ……」

 和に言われた言葉を思い返してみる。

胸がツンと痛くなった。

「うん、そうだな……傷ついた」

「それが、言葉のナイフ」

 俺は素直に頷けなかった。

しばらく考え込んで、夕の言葉の意味を探った。

もっと深く考えれば頷けたかもしれないけれど、その時の俺は頷けなかった。

「えっと、でも…ナイフは言いすぎじゃないか?」


「いいすぎ?」

 どの言葉よりも、その言葉は重く聞こえた。

また冷たい風が二人の間を通り抜けた。

今度はその風があの蒸し暑い風には戻らなかった。

いつの間にか空も雲で覆いつくされ、辺りには影が落ちていた。

―おかしいな、今日は午前午後と共に降水率は0%だったハズなのに。

夕は大きな音を立てて、立ち上がり悠を見下した。

「悠には、見えてないんだっけ」

「見えないって……何が?」

「言葉のナイフのことだよ」


 夕はなぜ、そこまで言葉のナイフにこだわるのだろう。

立ち上がった夕に釣られ、悠も身体を起こした。

視界に映った夕の背後の空がなぜか、今まで見た空よりも黒く見えた。

それはどこか、様子の変わってしまっていた夕を表しているようで少し身体が震えた。

「……ナイフ」

「え?」

「悠にも見せてあげるよ、言葉のナイフ」

 ついにおかしくなったか、そう声を出す隙も与えられず、夕は言葉を続けた。

「悠、目を閉じて」

 逆らうのも何か怖かったので、大人しく目を閉じることにした。

遠くから聞こえる音楽はいつの間にか止んでいた。

 

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