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幼馴染ノ女ノ子



 どこから聞こえたか分からない声に目を大きく開いて、身体を起こす。

無理矢理起こしたせいか、少し身体の節々が痛んだ。

痛む箇所を擦りながら、辺りを見回す。

目のつくところには、その人物は見当たらなかった。

あと見てない所は、と視線をペントハウスに目をやる。

――いた。


 その人物は暑い風が吹く中、その上に気持ちよさげに立っていた。

二つに結んだ黒髪と優等生らしく長めに履いたスカートが風になびいていた。

よく知った人物だったため、悠は安堵の溜め息を吐いた。

「なんだ、ゆうか……」

「なんだとはなによ、なんだとは」


 自分によく似た名前を持った少女―桐沢夕きりさわゆうは、悠の幼馴染だった。

家が隣同士、親が昔からの親友同士、同じ幼稚園に小学校、中学校そしてこの高校。

悠と夕は切っても切り離せない仲だった。

溜め息を吐いた後、悠は再び寝転がった。

夕はペントハウスから降りる梯子に少し手間取っていたようだが、悠の近くに寄り体育座りをした。


「なに、また喧嘩でもしたの?」

「……」

 聞かれたくないことを聞かれてしまった。

バツが悪くなり、顔を逸らす。

夕にはどうやっても隠し事は出来なかった。

10点を取ってしまったテスト、隠れて飼おうとしてた子犬、女子に書いたラブレター。

夕には全てがばれてしまっていた。


かずと喧嘩した」

「やっぱり和君か」

「分かってたのか?」

「悠が怒って、治まらないのって和君くらいでしょ?」

 昔からそうだよね、とクスクスと笑った。

悠の親友達は夕と顔馴染みだった。

彼らも家が近所で、同じ学校の出身だったからだ。

「で、今日は何で喧嘩したの?」

 夕は優しく笑いながら、問い掛けた。


「あいつ、母さんの弁当を笑ったんだ」

「うん」

「その歳になって、ウサギさんのリンゴかよーって。

 タコさんウィンナーかよって」

「うんうん」

「……なんか、すごく悲しかったというか」

「笑われたのが?」

 問い掛けに、悠はゆっくりと頷いた。

母親が朝早く起きて作ってくれた弁当。

悠にとって、母親の弁当は活動のエネルギーだった。

例え、それの大半が冷凍食品だとしても、ウサギリンゴでもタコウィンナーだろうと……。

「俺、母さんの作ってくれる弁当が好きだからさ……」


 悠の話を聞き、夕は首を傾げた。

「言い返したりしなかったの?」

「……する気力、なかったから」

「そっか、ならよかった」

「よかったって、何が?」

 聞くべきだったのか、聞かないほうが良かったのか。

俺にはそれさえ、わかっていなかった。

蒸し暑い風が、一瞬冷えた気がした。


「言葉はさ、ナイフだから」

 

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