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序章
「何、壕一族の孫『娘』が?」
心地よい朝霞に包まれた宮廷にて、老人の声が静かに響く。
「はい……。慣例はあれど、官吏の募集要項に性別は明記されておらぬからと」
「武虎め、何を考えておる……。やはり阿呆じゃ! 本物の阿呆じゃっ! たった一人といえど、人材不足甚だしい今日この頃、女子など登用すれば、ただでさえ忙しい冷正殿の首が回らなくなるわ!」
「本人曰く、『獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とす』という心らしく」
「何が獅子じゃ愚か者! 羽虫にも及ばぬ小心者が! 迷惑を被るのは誰じゃと思っておる!」
「女子が入ってくるという噂だけで、すでに冷正殿の官吏どもは浮き足立っております。太師……いかがなさいましょう」
太師と言われた老人は背に手をやり、皺だらけの額にさらに皺を寄せた。
「いかがもなにも、かの娘はすでに科試を通っておるのじゃろう? 今更性別を理由に落とせまい。腐っても壕一族…………我らとて下手なことはできまいて」
それはつまり『上手く辞めさせろ』という太師の言葉無き命であった。