呪われた竜人族の生き様
78話目です。
オリバーたちが樹海の出口へと歩みを進めていると──
空気が変わった。
風が止み、鳥の鳴き声が途切れ、森が息を潜めたように静まり返る。
ガッツ「……ん?なんだ?」
ヒルダ「空気、重くない?」
ティリル「うわっ…なんかきてるよこれっ!」
ジラトだけが歩みを止め、静かに大剣の柄へ手をかけた。
その瞬間──
木々の影から、黒い塊が跳び出した。
獣とも、昆虫ともつかない異形。
甲殻に覆われた四足の魔物 《裂甲獣》。
ガッツ「あれはマズい!突っ込んでくるタイプだぞ!」
ガッツが盾を構えるがわずかに間に合わない。
裂甲獣は地面を割りながら突進する。
狙いは一番後ろのオリバー。
その動きを見て、ヒルダが叫んだ。
ヒルダ「オリバー、下がっ…!」
だが、言い終わる前に──
瞬時にジラトの姿が掻き消えた。
次の瞬間、裂甲獣の前に"ふわり"と黒い影が降りる。
強く湾曲した大剣が、風を切ることすらなく、
ただ一筋だけ閃いた。
斬撃ではない。
叩き伏せでもない。
ただの"一線"だけ。
まるで空間に一本の糸を置いただけのような、静かな剣筋。
裂甲獣が走る勢いのまま、その線に触れ──
甲殻ごと音もなく割れた。
パキ…ン
遅れて、地面に崩れ落ちる。
ガッツ「…………え?」
ヒルダ「……綺麗…」
ティリル「ジラトってほんとに竜人族なのっ…?」
ジラトは剣を払うこともせず、静かに鞘へ戻した。
ジラト「ふむ。少々吠えるやつであったな」
オリバー『今、何したの……?』
ジラト「なに、少し道を掃除しただけよ」
歩幅も息も崩さず、そのまま列に戻る。
疲労も、僅かな震えすらもない。
ヒルダはぽつりと呟く。
ヒルダ「ていうか……今の、戦ってたのよね?」
ガッツ「あれは戦ってねぇだろ…」
ティリル「むしろ芸術だよっ!」
オリバーは小さく笑った。
オリバー『…すごいね、ジラト』
ジラト「我は、この体で最低限戦えるよう工夫しただけよ。
かつての豪快さは失ったが……この戦い方も悪くはなかろう」
その背中は、長命の種の誇りを宿しながらも、どこか静かだった。
一行が再び歩きはじめると、
ジラトはふと視線を横へ向けた。
彼の目が留まったのは、倒れた裂甲獣ではなく──
その先に広がる、淡い光を帯びた草の群れだった。
ジラト「……こんなところに…!」
ヒルダ「え? なにが?」
ジラトは足を止め、膝をつくようにゆるりとしゃがむ。
大剣を扱った直後とは思えないほど自然な動きだった。
オリバーも覗き込むように視線を寄せる。
そこには、夜明け前だけに咲くと伝わる小さな白い花が揺れていた。
ジラト「月白草だ。一度に多く群生し、辺りを照らすほどになるのだが…
それも百年ほど前の話だ。今はこの程度になってしまったのだろう」
ガッツ「百年!?」
ティリル「ジラトってやっぱり歳の感覚バグってるよねっ!」
ジラトは軽く笑うでもなく、かといって淡々としたままでもなく、
どこか懐かしむような穏やかな表情になる。
ジラト「もう絶えたと思っておったが…。
よもや、まだ生き残っていようとは」
ヒルダ「……綺麗ね。こんな花、初めて見た」
ジラト「そうか。なら、覚えておくと良い。
これは月光を好む草でな。
竜人族の集落では、これで香を焚き、夜の儀式に用いたものだ」
オリバー『てことは集落はこの辺だったの?』
ジラト「いや、集落はこんなところにはない。
……もうあまり覚えてはいないのだがな、
恐らくはもっと高地だった気がするのだ」
オリバー『高地…?
ってことは東大陸か西大陸出身…?
じゃあなんでこんなところにあるんだろう?』
ジラト「我にも分からぬ。出身地もよくわからぬ。
いつの間にかここに流れ着いていたからな。
旅の途中で見覚えのある景色があったらその都度言おう」
彼は花を一撫でし、立ち上がると、仲間の顔を順に見た。
ジラト「行くか。日が昇る前に樹海を抜けねば、また魔物が活性化する」
ティリル「ジラトってさっ、強いだけじゃなくて…
なんか優しいよねっ?」
ジラト「特別優しくしようとはしておらぬ。
これがありのままだ」
そう言って歩き出すジラトの背は、
ただ静かで、"長く生きた者だけの温度"を帯びていた。
そして一行は、淡い白光を背に受けながら、光射す方へ向かった。
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