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神罰の英雄たち ー神に選ばれなかった少年、神を欺き世界を駆けるー  作者: Anon
北の大陸編(前編)

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異世界(オリバーパート)

61話目です。



……妙だ。転移したのは間違いない。

だけど、景色も匂いも、ほとんど…変わっていない?


オリバーはそっと息を吸った。

空気は重く、湿度が高い。風はほとんど吹かず、静寂だけが森に漂っていた。

さっきまで見えていた空は今はほとんど木々で見えない。

断界の山脈と"よく似ているはずなのに"どれもが微妙に違う。

いや、似ているのは動植物と昆虫の大きさだけ。

それ以外は何もかもが違う。傾斜もなく、殆ど平坦だ。

断界の山脈にいたはずなのに、目の前には平坦な低地の森林。

この森林は相当広いのか、植物の密度も違っている。

魔物の数もさっきより減っている気がする。

まるで"異世界"に降り立ったかのような違和感だ。



……ガッツ、どっちへ歩いた?



オリバーは周囲を見渡し、足元へ視線を落とした。

湿った土に、ひときわ深い足跡。

常人ではまず付かない"沈み込み"。

あの重量装備を担ぐガッツにしか残せない印だ。


……こっち、か。


転移した直後の位置から、わずかに奥へ向かって続いている。

ガッツ本人は、おそらく転移に気づいていない。

ならば迷うことなく、このまま進んでいるはず。


オリバーはひとつ深呼吸をして、慎重に一歩踏み出した。


土の感触が違う。

山の乾いた地面ではなく、柔らかく湿った"森の土"だ。

踏みしめた瞬間、かすかに靴底が沈む。

それに、さっきまでの傾斜が全く無い。


ここは…やっぱり山じゃない。


足跡を照らすように手をかざし、魔力感知を弱く広げる。

曖昧だが、ガッツの魔力の残滓が薄く漂っている。


ガッツ……気づかずに、ずいぶん歩いてるな。


もう一歩。

そしてまた一歩。

慎重だが確実に、足跡を追って森の奥へと進む。

しかし、1人でどこに行ったかわからないガッツを探すのは一苦労だ。

『ティリル、頼む』


「やっほーっ!ガッツを探すんでしょっ?任せてっ!」

ティリルは素早く飛んでいった。


しばらく進むと、所々でおそらく戦闘の跡なのか踏ん張ったり走ったりしたような跡もある。この足跡はガッツのものだろう。

倒れた魔物がいないあたり、やはりガッツ1人では対処しきれないのだろう。


『ティリル、どう?』


『うーん、目立つ格好してるはずなのになーっ、ぜんっぜん見当たらないっ!』


『見当たらないと言うことはどこかに隠れているのかも知れないね』


さて、もう少し探してみよう。

痕跡は目の前に確かにあるんだ。


あの盾のせいで魔物を引きつけちゃってるのかな?

ここまで全く魔物と遭遇しない。

「魔盾『嚇』」、あの盾は敵に対して大きな脅威を与え、自らに攻撃が来るように仕向ける"呪い"がかかっているらしい。

2人以上での戦闘ならとてつもない力を発揮するが、攻撃手段がほとんどないガッツが1人なら今ごろ大多数の魔物に追いかけ回されているのだろうな。

ひとまずはこの唯一の痕跡を辿って探すしかない。


向こうは大丈夫だろうか?

ヒルダが転移の門に飛び込もうとしてたけど…

どの時間に転移するかわからない以上、安易に飛び込ませるわけにはいかなかった。

ジラトが察してなだめてくれてるといいんだけどな。

目の前で人が突然消えるなんていくらジラトでも動揺はするか。


でも信じるしかない。

ヒルダ、ジラト、2人も頑張ってくれ。


ご愛読ありがとうございます。

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