異界の喉笛 ー破砕の空洞ー
29話目です。
より一層湿った風が、喉笛の奥から吹き上がる。
リードの杖が小さく明滅を繰り返す。
リード「まだ反応があります……」
ティナが眉を寄せる。
ティナ「助けられるかもしれない」
オリバーは頷き、光球を生み出して進路を照らした。
リード「そう言えばオリバー君。君の魔法はすごいですね。クイックスペルと近接戦闘を交えた戦法……見たことがありません」
オリバーは仮面の奥でどんな顔をしているのか…何となく自慢げな雰囲気だ。
そして進むにつれ、壁の質感が変わる。
滑らかな岩肌が、牙のようにギザギザと尖った構造に変化していた。
天井からは鍾乳石が垂れ下がり、地面にも同じ形の突起が伸びる。
まるでこの空洞全体が――噛み砕くための顎であるかのように。
光の端に何かが映った。
岩壁にもたれかかるように倒れている人影。
鎧は裂け、腕は砕け、呼吸は浅い。
他にも数人―――
弱々しく座っている者、既に息絶えている者。
ティナが駆け寄る。
ティナ「まだ息がある!ねえ!治癒師はいないの!?」
冒険者「私が…そうよ…」
ティナ「あなた…聖職者ね!?他のメンバーは!?助けられなかったの!?」
女性冒険者「………ええ。いや、あそこに1人だけ…まだ…」
ティナ「助けるわ!」
その声と同時にオリバーの指輪から妖精―――
ティリルが飛び出した。
ティリル「ティナ!アタシもついていくわっ!」
ティナ「妖精!?どっから出てきたのよ!まあいいわ!助けてくれる?」
そう言って2人は負傷者の下へと駆けつけた。
男性冒険者 「ま……た……来たのか……
"岩"が……上から……」
最後の言葉とともに、男の瞳から光が消える。
グラフが目を細めた。
グラフ「"岩"? ……いや、これは―――」
地鳴り。
壁が軋む音。
オリバーが反射的に短剣を構える。
ガッツ「来るぞ!!」
岩の奥から、裂け目のように顎が開いた。
鋭い石片を無数にまとった巨躯――それはまるで岩そのものが噛みつくような姿をしていた。
―――"巨顎獣"
風が唸りを上げ、足元の石が震える。
オリバーの視界に、もう一体、二体……さらに影が浮かび上がる。
カイム「数が多すぎる!手負いの者を守りながらは厳しい!
一度退こう!」
グラフ「とりあえずこの生き残りだけでも連れてくぞ!」
ティナ「グラフ!こっちにも1人!!」
グラフ「あァ!!わかった!!」
オリバーが最後に倒れた冒険者を見やる。
その傍らには、割れた魔石灯と、焦げた地図の断片が落ちていた。
――"異界の喉笛、第二層:破砕の空洞"
焦げ跡に、そう刻まれていた。
オリバー(……必ず戻る…待ってて。みんな連れて帰るから…!)
暗闇の奥から、岩を噛み砕くような低い音がいつまでも響いていた。
オリバー達は冒険者ギルドへと戻った。
グラフは生き残り2人を担いでくれている。
グラフ「俺ァとりあえずコイツらを医務室へ連れて行く」
カイム「ありがとう、頼んだ。オレ達はこのホールにいるよ」
グラフ「わァーった!後でな!」
グラフは元気よく応答し、2人を担いで去っていった。
リード「私達も少し休憩しますか」
カイム「そうだな。休憩しがてら、二層のおさらいをしておこう。リード、マッピングはできているか?」
リード「最後の魔物がいた場所は完全ではありませんが、それまでの道中は済んでいます」
カイム「よし!さすがだ!ティナ、罠や隠し通路はどうだった?」
ティナ「あの辺りには罠も隠し通路もなかった。というより罠はほとんど発動済みか潰されていたわ。最後の場所も確認済みよ」
カイム「あの中でよく見れたな…。ティナはホントすごいよ」
そのやり取りを見ていたガッツが目をキラキラさせて言った。
ガッツ「…あんたらチームワークがすげーな!!一人一人は凄く突出して凄いわけじゃないのにそれぞれが役割を完璧にこなすとパーティってのはこうも強くなるんだな!」
カイム「君たち2人も凄いチームワークだ。もう途中から子供だということも忘れてすっかり頼りにしていたよ。オリバーの凄さはもちろんだが、グラフにしっかりついていけているガッツも素晴らしい!」
そんな雑談も挟みながら作戦を話し合い、両パーティーは親交を深めていった。
ガッツ「なあオリバー。医務室見に行かないか?どうなったか心配でさ……」
オリバーは静かに頷く。
2人は生き残ったうちの1人、息も絶え絶えだった女性冒険者の病室で護衛がてら様子を見ていた。
そして―――
目を覚ますと私は見慣れぬ天井を見上げていた。
(ここはどこだ…私は何を―――)
その時、強烈な記憶が瞬時に蘇った。
「そうか…私が…!」
自らの身体の状態も気にせず飛び起きた。
「痛っ!!」
それ以上動けないほどの痛みが身体中を駆け巡った。
???「目、覚めたんだ」
カーテンの向こう、窓辺に座る人影は優しい声で言った。
私「ええ…まあ…。あなたたちは…?」
???「一応、ダンジョンで拾ったからね。
心配で見に来たんだ」
私「そう…それはありがとう。こちらの騎士さんも?」
???「うん、そうだよ。それより身体は大丈夫?なんであんな所にいたの?」
私「目覚めて早々質問攻め…?身体は大丈夫じゃない…。何故あんな所にいたかはあなたたちと同じ理由よ」
???「そうなんだ。見たところあそこにそぐわない人ばっかり倒れてたから。君、格好から察するに聖職者だよね?なんで助けなかったの?」
私「なんで…なんでって…助けられなかったのよ…。その…回復のスクロールを全部使い切って―――」
言わなくていいことを言ってしまった。
???「魔法が使えなかったの?聖職者なのに回復のスクロールも使うのってなんか変じゃない?」
私「もう、詮索はやめてよ」
???「ごめん。それだけ喋れるならもう大丈夫だよね。じゃあね」
カーテンの奥から出てきたのは変な仮面をつけた盗賊風の少年だった。
少年はもう1人の騎士の少年を蹴り起こして部屋を出ていった。
私「不思議な子……」
その夜、街の協会に1人の少女がいた―――
協会にいたのは誰なのでしょう。
そして聖職者の格好をしたこの少女は何故助けられなかったのでしょうか。
次話で明かされます。
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