選ばれなかった少年
1話目です。
王立魔導学院の木陰で、
一人の少年が膝を抱えて座っていた。
その視線の先では、魔法科の生徒たちが屋外授業を受けている。
掌から放たれる炎。弾ける光。水が舞い、風が走る。
少年――オリバーは足元に置いていた本を、
ふわりと手元に寄せた。
まるで見えざる手で掴んだように、何気なく。
彼は物心ついた時から自然と風を操れるようになっていた。
それが"魔法"だと気づいたのはもっと後のことだった。
なぜなら、心配性の両親によって、
オリバーは魔法を学ぶことを禁じられていたからだ。
それでも――心は魔法でいっぱいだった。
みんなが羨ましかった。
この平穏に"魔法"が加わるだけで、
どれだけ楽しくなることか、想像もつかなかった。
その時、ふいに背後から声がした。
「授業に参加しないのか?」
振り返ると、黒いローブをまとった男が立っていた。
深くフードを被っていて、顔は陰に隠れて見えない。
……いや、見たはずなのに、思い出せない。
男は、何か"普通ではない空気"をまとっていた。
オリバー「僕は魔法科じゃないから」
フードの男「しかし、それは魔法だろう?どうやった?」
オリバー「なんとなくだよ」
男はオリバーの手元を興味深そうに眺めた。
フードの男「……にしては、妙だな。無詠唱とは…」
「ん?むえいしょう?」
男は軽く笑った。
フードの男「詠唱せずに魔法を発動する術だ。
今では扱える者はほとんどいなくなった…が、
やってみせよう」
男は掌を軽く持ち上げた。
空気が歪み、炎と水が同時に生まれた。
オリバー「すごいね!でも僕はまだ風しか出せないんだ。
それどうやるの?」
自然の理を理解すること。
魔法には術式が存在すること。
他にも魔法の基礎を色々教えてもらった。
フードの男「今は全部理解しなくてもいい。
だが……いずれわかる。
その年で無詠唱を扱えるのなら、
ほかの術もすぐに身につくだろう」
オリバー「ありがとう! なんか、できそうな気がする!」
そう言いながらすでに試していた。
すると、オリバーの指先にキラリと水滴が生まれた。
「できた…!」オリバーの目が輝いた。
フードの男「"さすが"だ、覚えが早いな。
…また見に来てやろう。それまで練習しておくんだぞ」
そう言って男は、一陣の風のように姿を消した。
影も気配も、跡形もなく。
まるで最初からいなかったかのように。
オリバーは自分の掌を見つめた。
そこでは、小さな風の渦が静かに回っている。
(よし、試しに行こう)
そうして少年は学院の外へと歩き出した。
これが、選ばれなかった少年と、
この世界が同調した原初の鼓動となる。
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