「神罰」
18話目です。
ガラード邸―――
翌朝、ベッドの上で目覚めたミルドは、
何となくいつもより元気なことに気がついた。
ベッドから降りて立ち上がってみると、
その異常さがよくわかった。
元気なんてもんじゃない。
体の奥からみるみる力が湧き上がる。
(なんだこれは…アイツをやるために神様がくれたのか…?)
そう思ったのも束の間―――
ミルドでは制御しきれない程の魔力がどんどん湧いてくる。
ミルドは何の訓練もせずに魔道具に頼り切っていた。
そんなミルドの身体には相応しくない魔力量が湧いていた。
ミルド
「うわぁぁぁー!!!誰か!!誰か助けてー!!!」
「うわああぁぁぁぁーーーー!!!!!」
完全に魔力に飲み込まれ、
制御出来なくなったミルドはただただその魔力を逃がす為、
叫ぶしかなかった。
その叫びと同時に身体から溢れた魔力が炎となり、
ミルドを包み、その炎が辺りに燃え移り始めた。
どんどん炎は溢れ出て、
あっという間にガラード邸を炎が包みこんでしまった。
ミルドは感情すらも制御できなくなり、
悪意の矛先であるオリバーを探すため、
燃え盛る屋敷を飛び出した。
オリバーの名前を叫びながら、
時には言葉とはもう言えない何かを叫び、走り回っていた。
そして、人とも魔物ともとれぬ異形の姿になりかわっていった。
一方、学院の大演習場では―――
オリバーは控え室にいた。
オリバーだけではなく何故か、レイアスとメルティナもいた。
オリバー「てか、何で2人はここにいるの?入っていいの?」
レイアス「いいんだよ。そんなことは。
俺はボロボロにやられたけど逆に清々しくてさ…
全面的にオリバーを応援したいんだよ」
メルティナ「私もよ!
先日の戦いっぷりはもうプロの冒険者を見ているようだったわ! だからレイアスと同じく応援に来たの!」
レイアスとメルティナはとても友好的だ。
オリバー「入っていいかどうかの答えにはなってないけど…
まあでも、ありがとう。
実戦クラスとの試合、
どうなるかわからないけど何とか楽しませて見せるよ」
メルティナ「もうここまで来たら絶対に勝ってよね!!」
レイアス「絶対だぞ!!」
2人に謎のプレッシャーをかけられたオリバーは、
演習場へと出た。
既に前には実戦クラスの代表が立ちはだかっていた。
エリオット「やあ、オリバーくん。
この日をとても待ち望んでいたよ。
僕の名前はエリオット、よろしくね」
オリバー「こちらこそよろしく。子供だから手加減してよ?」
観客席を見渡してみたが、やはりフードの男はどこにも居ない。そして今日は院長も国王も参列していない。
(せっかくの晴れ舞台なのに誰もいない…)
司会
「基礎クラス、オリバー!!」
「実戦クラス、エリオット!!」
「始め!!!」
先手を取ったのはエリオットだ。
「クイックスペル」で初級の火魔法を連続で放った。
しかし、それをオリバーは黙ってみていた。
全ての火弾はオリバーを避けるように後ろに着弾する。
オリバー「まずは挨拶ってこと?」
挑発を受け取ったと言うように返す。
エリオット「そんなはずじゃなかったんだが…
まあそういうことだ」
(なぜだ?当てるつもりだったのに全部逸れるなんて…)
エリオットが何度魔法を放っても避けられて全て不発に終わる。
しかし、実戦クラスのエリオットはそれでは終わらない。
「スペルストック」"擬似無詠唱"で牽制しながら、
「ベーシックスペル」で威力十分の火魔法を放つ。
それも先程と同じように、
オリバーのギリギリを掠めて不発に終わる。
オリバー「じゃあ次はこっちの番ね」
オリバーはそう言いながらいつもの様に風を練る。
エリオットは攻撃が上手くいかないからって心は乱さない。
オリバーの癖を見抜き、
風魔法による急激な移動を警戒している。
オリバー「ふぅん…なかなかやるね、エリオット」
エリオット「なんで君が上からなんだ」
オリバーがエリオットに反撃をしようとしたその時。
「おりぃばぁぁー!!!!!」
身の毛のよだつ叫び声が聞こえた。
そう思ったのも束の間。
演習場の外から物凄い速さと勢いで、
大演習場に何かが飛んできた。
耳を劈くような轟音と共に、
大演習場の真ん中部分はその飛来物を受け止めるように沈んだ。
土煙の奥に何が見える…。
エリオット「あれはなんだ!?」
「お、おおおおぉ、おりば、おり、おりばぁぁー!!!」
その飛来物が言っているようだ。
オリバー「僕のことを呼んでいるのか…?」
いつの間にかオリバーは物凄いスピードで背後へとふっ飛ばされ、演習場の壁に打ち付けられた。
オリバー「がはぁ…!ゲホッゲホッ…!なんだ…あれ…」
エリオットがすぐに駆けつけてくれた。
エリオット「オリバーくん大丈夫か!?
…なんだあれは?なんであんなのに狙われてるんだ!?」
オリバー「な、何とか命はあるよ…。
痛すぎて死んだかと思ったけど……
どうやら話してる暇なんてなさそうだ…!」
容赦なく飛んでくる火弾を何とか回避した。
突進のスピードも火弾のスピードも今まで見たことない速さだ。
あの"白蛇"の尻尾よりも速い。
オリバーは風魔法を応用した探知魔法を使った。
またオリバーを狙って高速の突進が来た。
今度は完全に回避した。
しかし、長くは保たない。
(あの飛来物は何故僕だけを狙うんだ…?)
オリバーは飛来物の攻撃を回避しながらよく見てよく考えた。
オリバー「お前…!もしかして、ミルドか…!?」
エリオット「あれがミルド!?どこをどう見たらそうなるんだ!
それにアレがもしミルドだったとしてもアレはなんだよ!」
しかし、オリバーは確信していた。
完全に魔物っぽくなっているが、
どことなくミルドの要素を残しているようだ。
オリバー「あれは、確かにミルドだよ。
何故あーなったのかは知らないけど…
とりあえずもとに戻さないと!」
エリオット「戻すってどうやって!!」
そんなやり取りで集中が切れたか、
オリバーはミルドの攻撃に一瞬反応が遅れた。
「ヤバい…!」と思ったその瞬間。
ガキンッ!!と強い金属音がなった。
ガッツ「危ねえっ! 間に合ったー!!」
オリバー「ガッツ…!!」
ガッツ「初めての時みてーだな!」
そう言いながらニカッと笑った。
しかし、暴走ミルドは何が何でもオリバーを狙い続ける。
ガッツの大盾も全く効かない。
ガッツ「おい!こっちだ!来てくれないと!
俺が来た意味ないから!!」
ガッツは焦っている。
敵に狙われて攻撃されてようやく仕事を成せている。
今のガッツにはそれが全くできない。
そうしているうちに少しずつオリバーはダメージを受けて、
ボロボロになっていった。
もう身体も動かない。魔力もほとんどない。
でもここで仮面を使うわけにはいかない。
暴走ミルドはそんなオリバーを見て、
容赦なく魔力を更に増幅し、強大な魔法を放とうとしていた。
どんどん魔力が溢れてその魔法がどんどん構築されていく。
(ん…?何だ?)
暴走ミルドは身体からも光を放ち始めた。
一度増幅させ放つ寸前までいった魔法が、
ミルドの体内に流れ込む。
しかし、増幅する一方の魔力。
暴走ミルドの身体が徐々に膨張し、放つ光量も増えていく。
そして―――
もの凄い轟音と共に上空に光の柱が立ち、
ミルドの身体は膨らみ続け、
大量の魔力を拡散させ自らの身体を飛散させた。
オリバーは緊張の糸が切れその場で気を失った。
そしてそれがミルドの最期となった。
一方、オリバーとエリオットが戦闘を始める寸前の
ガラード邸では―――
炎が屋敷全てを飲み込み燃え続けていた。
周りには人だかりができ、その様子を伺っている。
市民から通報を受けた自警団、騎士団、魔法師団も、
そこに集まっていた。
そしてその中には学院長と国王の姿も…。
燃え盛る屋敷の中から炎に包まれた男が出てくる。
ガラード氏だ。
こんなに炎に身を包まれていてまだ歩いている。
院長「国王は下がって!僕がやります!」
院長は勇敢に国王の前に出る。
国王「いや、待て!早まるな!」
国王「アレをみろ」
国王が指差した先には見覚えのある黒衣の男…
フードの男がいた。
院長「アンタ…
1人でこの場をどうにかするっていうのか…!?」
院長はフードの男の方を見て独り言のように呟く。
院長の心配など無用だった。
それは一瞬の出来事だった。
院長はそれをフードの男がしたのかどうかもわからなかった。
燃え盛るガラード氏と燃え盛るガラード邸はその爆炎を絶やさぬまま氷漬けになったいたのだ。
これはフードの男が放った最高位の氷魔法だ。
院長「炎をも凍らせる魔法…。こんな解決の仕方…アリかよ…」
院長は呆れたように嘆いた。
ガラード邸での騒動はフードの男が一瞬で片付けてしまった。
こうしてガラード事件は、
ガラード親子とその使用人の命と引き換えに幕を閉じた。
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