騒がしい余韻、静かな違和感
124話目です。
「なんだって!?お前らあの荒野を通ってきたのか!?
ん?あの荒野の向こうに森なんてあるのか…?
いや、それは知らねぇが、アイツらには会わなかったのか!?
いや、そんなはずねぇ。どうやってここまで来た!?」
大きな声を上げて早口で捲し立てるのは、酒場の主人だ。
「どうやってって…普通に歩いてきたんだよ!
いやー!長かったぜー!」
いい汗かいたと言わんばかりの軽さで話すガッツを横目に、
ヒルダは話し始めた。
「普通なんかじゃなかったわよ!
もう今にもそこに倒れそうな足を前へ前へ踏ん張りながら、
命からがらここまで来たんだから!」
「お前らは歩くのがキツかったことしか言ってねぇな!
俺が言いてぇのはそういうことじゃねぇよ!
あの巨大な、ほら、ムカデみたいなサソリみたいな…
アイツだよ!」
『あれね。強かったよ。殺されかけたし。
でも倒したよ。この人が』
オリバーは誇らしげにジラトを見た。
ジラトはあの戦闘後、3日間眠り続けていた。
一行はそこから約7日間かけてこの町へと辿り着いていたのだ。
「我が本気を出さねば倒せぬほどの強敵だった。
特にあの毒尾には……ん?お前今、アイツ"ら"って言ったか?」
「ああ、言ったよ!アイツ"ら"!だ。
ってお前倒したのかアイツを!!
しかも毒尾って言ったか…?
俺らも魔物に詳しいわけじゃねぇんだが、
ここらじゃその毒尾を持つ奴が群れのボスだって話になってる。
それを倒したなんて…あんたらの方が化け物じゃねぇか!」
酒場の主人の興奮はおさまらない。
「化け物か。久しぶりに言われたな。
だが、今は悪い気がせぬ」
「そうですね。今のは最大の賛辞ですよ」
ネフィアはジラトに全面的に同意している。
「まあ、今日は飲みながら旅の話を聞かせてくれや!
一杯ずつ奢ってやるから!な!」
宿で休みたい気持ちを押し殺し、主人に付き合うことにした。
ここで仲良くなっておけばこの町の情報収集がグッと楽になるからだ。
「すげぇな!その話!もっと聞かせてくれ!」
「俺、さっきの話が!」
「いや、今の続き気になんだろ!」
「てめーらうるせーよ!黙って聞いてろ!」
「てめぇら全員うるせぇぞ!!」
酒場の主人の一喝で静まり返った。
この主人も人のことを言えた口ではない。
この男が大きな声で話すせいで、
周りの客が集まってしまったからだ。
「なーんかこの感じ久しぶりだな!
やっぱ人と話すのって良いよな!」
『うん。そうだね。
森でラウルと話してから初めての会話だもんね』
「ありゃー話したうちに入んねーよ!
あれは"聞いてた"って言うんだ!」
『細かいなー。まあ確かにあの時と違うのはわかるよ』
「その時!巨大な竜人族をも吹き飛ばす謎の一撃!
しかし、そこは歴戦の竜人族!こんなことでは倒れません!
大きな翼を広げ、大剣を手にしているとは思えない速度で飛び回り、
敵を翻弄していたのです!次々に体は切り裂かれ、
仕舞いにはその荒れた大地に伏せてしまいます!
しかし!これは敵の罠だったのです!
また先程と同じ攻撃が―――」
ネフィアは酔っているのか、ずっとその話を繰り返していた。
しかし、周りで聞いているのもまた酔っ払いだ。
今、初めて聞いているような眼差しで語り手を見ている。
「ったく、ネフィアまでこんなになっちゃって…。
私がしっかりしなきゃね」
お酒は飲んでいるものの、
解毒魔法で潰れる前に回復をしているヒルダは、
一番冷静に狂った酒場を見ていた。
「なんでみんなこんなに魔物や荒野に詳しいんだろ?
通るのが大変なのに魔物に詳しすぎない…?
んー、気のせいなのかな…?」
そしてその「気のせい」はヒルダの胸の奥にしまい込まれ、
再び取り出されることはなかった。
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