歴戦の風格
123話目です。
ジラトは天を仰いでいた。
……息が、重い。
こんな景色、いつぶりだろうか。
そうだ。あの時だ。
師匠に負ける時はいつもこうして天を仰いだ。
懐かしい。
何千年ぶりかの敗北。
魔物だと思って甘く見ていた我の負けだ。
……だが。
一敗だ。
次、勝てばよいのだ。
2つの光がジラトを包んだ。
ドス黒い癒しの光と黄金の光。
ヒルダとティリルだ。
「…すまない。油断をしていた。慢心していた。
我も少し本気を出そう」
「ジラトさん!ごめんなさい!
私…ちゃんとできなかった…!」
「ネフィアは何も悪くない。
それにちゃんと察知して声をかけてくれたであろう?
その前に動いた我の責任だ。
だが、ネフィアよ。
そんな状況でも責任を感じられるのは良いことだ。
……いくぞ。皆、見ておけ。我が剣を…」
今までのジラトからは想像もできない速度で敵に接近した。
竜を彷彿とさせる大きな翼を広げ、より速度を上げた。
その勢いを大剣に漏らさず乗せ、次々に装甲を切り裂いた。
ジラトはいつも最小の動き、最小のエネルギーで戦闘を終わらせる。
いつものその姿も歴戦の猛者を感じさせていたが、
今回の戦い方は一味違った。
効率を無視した派手な動き、力強さを感じさせる太刀筋、
それでいてさっきまでの美しさは損なわせない、
どの言葉を取っても形容できない、
歴戦の太刀筋としか呼べぬものだった。
ジラトの一挙手一投足に合わせ、敵が叫喚を重ねる。
狩る側だと信じてやまなかった自分が、
狩られる側だと気づいてしまった恐怖が、
その叫喚に込められているようだった。
全ての装甲を切り裂かれ、血まみれで横たわる敵を目の前に、
誰しもが勝ったと確信した。しかし―――。
「ふっ…。やはりこれだったか」
ジラトが呟くと、ジラトの右側で何かが爆散した。
オリバーが切断したはずの巨大な毒尾が、
意思を持ったようにジラトに襲いかかったのだ。
しかし、ジラトは同じ轍を踏まない。
この場所、この瞬間にそこに誘い込んだように、
ジラトの大剣が迎え入れ、爆散した。
巨大で知性のある敵も歴戦の猛者を前に地に伏せた。
「もう…動かねー…よな?」
ガッツは恐る恐る近づき、つま先でつついて生死を確認した。
『大丈夫。終わってるよ、ほら』
オリバーは、"開拓者のタクト"を見せ、
魔力に満ちていることを示した。
「もう…圧巻だわ。
こんな人が近くで守ってくれていたのね」
「血が…騒ぎます…!」
彼らはそれぞれの反応をし、勝利を噛み締めていた。
そしてまた一人、天を仰ぐ者がいた。
思い出した。
勝利の時もよくこのように天を仰いだな。
勝ち負けではなかった。
我はこのように戦いの余韻に浸っておったのだ。
また一つ思い出せた。良い戦いだった…。
ジラトは荒野のど真ん中で五体を投げ出し、
ジラトの巨体を仲間がみんなで移動させた苦労を知らず、
幸せそうに眠りについていた。
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