真実の一端
118話目です。
妖精は、オリバー達を一瞥した後、深く息を吐いた。
その仕草ひとつで、ここがただならぬ場所であることを悟らされる。
「まず言っておこう。
君達がこの森に迷い込んだこと自体、
我らにとってもイレギュラーだ」
ヒルダが眉をひそめる。
「……つまり、歓迎されてるわけじゃないってこと?」
「いや、拒んではいない。
だが“招いた”覚えもない、という話だ」
妖精は視線をティリルへと移した。
「契約した高位妖精が、この森で眠りにつくことは珍しくない」
オリバーは思わず身を乗り出す。
「じゃあ、どうしてティリルは……」
「ここが、あの子の故郷だからだ」
その言葉に、室内の空気が静まった。
「外の世界で役割を持ち、契約妖精として在る間、
高位妖精は常に“外向き”の在り方を強いられる。
だが、この森に戻れば話は別だ」
妖精は、そっと胸に手を当てる。
「還るのだ。
役割も、使命も、意識も――森へと」
「……眠ってる、っていうより……」
ネフィアが言葉を探す。
「“閉じている”……?」
妖精は、わずかに微笑んだ。
「良い表現だ。
魂が落ち着けばそのうち目覚めるだろう」
オリバーは安堵と同時に、別の違和感を覚えた。
「じゃあ……僕達が“こっち側”に来られた理由は?」
妖精の視線が、真っ直ぐオリバーを射抜いた。
「それを問うなら、答えは一つしかない」
妖精は、オリバーの手にある手記へと目を向けた。
「その術式だ。
いや――それを“扱えた”君自身だ」
「……僕?」
「そうだ」
ジラトが、ここで一歩前に出た。
「やはり、か……」
妖精が頷く。
「無詠唱魔法。
妖精との契約。
術式の読解と行使」
ジラトの言葉にヒルダが思わず口を挟む。
「ちょっと待って。
無詠唱魔法って、単に“詠唱を省いてる”だけじゃないの?」
妖精は首を横に振った。
「それは誤解だ。
お主らが無詠唱魔法と呼んでいるそれは、
本来“魔法”ですらない」
「……え?」
「古代森族が編み出した秘術だ。
真の名は――自然魔法」
オリバーは、その言葉に心当たりがあった。
「……魔法を使っても、
疲れないのはもしかして……?」
妖精の目が、わずかに見開かれた。
「やはり、な」
「自然魔法は、己の魔力を消費しない。
空気中、世界そのものに満ちる魔力を“借りる”技術だ」
ネフィアが息を呑む。
「……そんなことが……」
「後天的に習得できるものではない。
学ぶ、覚える、という概念ですらない」
妖精は断言した。
「在るか、無いか。それだけだ」
室内が、重く沈黙に包まれる。
ジラトが、低く呟いた。
「……高位妖精と契約できるのは、
高位森族以上……
森族には不可能……」
妖精はその言葉を肯定するように頷いた。
「そして――」
一瞬の沈黙の後、再び妖精が口を開く。
「古代森族は、随分と昔に滅びた。
末裔すら残っていないはずだった。
今ここでお主…オリバーに出会うまではな」
オリバーは首を振った。
「そんなはずない。
僕は……僕は人族だ。
人族の夫婦のもとに生まれて――」
「見た目は、な」
妖精は静かに言った。
「純粋な古代森族は、高位森族とも森族とも異なる。
姿は、人族に酷似している」
ヒルダが息を呑む。
「じゃあ……」
妖精の声が、わずかに揺れた。
「だから我は悩んでいる。
滅びたはずの古代森族が、
この時代に生きている理由が、分からぬ」
妖精は、オリバーを見据えた。
「だが一つだけは断言できる」
その声は、重く、確かだった。
「君が古代森族であることに、間違いはない」
オリバーは言葉を失い、ただ自分の手を見つめていた。
――この森へ導いたのは、
――ティリルではない。
――自分だった。
小屋の外では、風が静かに木々を揺らしていた。
まるで、長い眠りから覚める時を待つかのように。
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